Das GroB"e Kosmische Ra"tsel / 宇宙最大の謎

―― または Private Cosmos 13 の弁明

1994/04/29 r.psytoh with y.wakabayashi

Prolog / 不死14 Unsterblichkeiten 14

 新銀河暦1174年5月、迷走を終えた人工惑星ワンダラーにおいて、新たな不死の貸与がおこなわれた。2センチ角のチップの形をとって。肩甲骨の下に埋めこまれたそれが、選ばれた者たちに、相対的不死を供給する。
 そしてまた、〈それ〉は謎めかしてこう言うのだ、有資格者のうち2名がこの場におらぬ……。「グッキー、その者たちはきみの同類。きみが2人を捜すのだ」と。
 そうして、新たな仲間が不死者の列に加わった。欲すると、欲せざるとにかかわりなく。テラナー、マイルズ・カンター。カルタン人ダオ・リン・ヘイ。ナックのパウナロ。そして……中でも人々の注目を浴びたのは、〈それ〉に招かれたと称する謎のヒューマノイド。「エノクス」の名をサトー・アンブッシュによって与えられた人物は、テラナーでないのみならず、おそらく局所銀河群の生まれですらない。ではなぜ、永遠の生命が贈られたのか。いっさいの問いかけに答えないまま、エノクスはその場から姿を消した。
 そして、25年の歳月が流れた……。

マイルズ・カンター

Myles Kantor
 新銀河暦1147年生まれのハイパー物理学者、あるいはシナジー工学者。父はノトクス・カンター、母はエンザ・マンソール。ともに《バジス》の科学チーム、タルカン遠征艦隊に参加していた高名な科学者である。幼いころから怜悧なところがあり、将来を嘱望されたが、精神に負荷がかかるとすぐ失神してしまう(笑)という弱点があった。ワンダラー探索中、ネーサンのサイバー空間にジャンクインするメタライズ実験の失敗で父を失い、テロリストの凶弾によって自らも両脚を失うという不幸に遭ってもメゲずに研究をつづけ、ワンダラーの軌道計算アルゴリズム〈アルゴマイルズ〉を完成。その功あってか細胞活性装置を得る。その際、失われた両脚は再生され、お姫様病(笑)も快癒した。不死のチップの埋め込まれた肩にできた、渦状星雲の形のアザが何なのかは、いまのところ不明。趣味はアンチーク時計の収集。後、カリア・ネドルンを妻とする。この女性も、未知の言語で寝言を言ったり、寝ぼけてかみのけ座を指さすなど、謎が多い。

超空間の死んだ日 Hyperraum-Parese

 新銀河暦1200年1月10日。テラを含む直径約1万光年の宙域で、突如、超空間を用いるすべての機器が使用不可能な状態に陥った。超光速飛行、ハイパー通信は言うにおよばす、転送機も、ハイパートロプを介したエネルギー供給も停止する。超空間パラシス(麻痺)、通称「デッドゾーン」の発生である。「外界」からの必死の調査もむなしく、この災厄がはるか彼方の宙域で生じた未知の異変の「鏡像」であるらしいことしかわからない。デッドゾーン内部では「文明」そのものが崩壊に直面しているのに……。
 一方、災厄の瞬間テラにあったローダンたちは必死に混沌にたちむかっていたが、むろん、できることなどほとんどない。そんな彼らに、思いもよらぬ救いの手が現われた。デッドゾーンまっただなかの太陽系に忽然と姿をあらわした者、それはあのエノクスであった。しかも、数十人の同胞を引きつれて……。彼ら「エノクス」たちは、超空間パラシスに縛られない。意のままに「消え」そしてまた「現われ」る。メッセンジャーとしての彼らの働きで、デッドゾーン内部の混乱は小康状態になる。もっとも、好奇心の塊のようなエノクスたちによって、また様相のちがった喧騒が、デッドゾーンの内外を問わず、生じてはいたのだが。
 5月、デッドゾーンは発生と同様、唐突に消滅した。しかし、ギャラクティカーはなおも不安から解放されない。災厄の源を解明しない限り、第2のデッドゾーンが誕生しない保証はない。そして、今度は永遠につづくかもしれないのだ……。

エノクス(1)

die Ennox
 エノクスとは、Entita"t Nomen Nescio Null X(なにがし某のゼロX野郎)の略……つまり「身元不明」ということである。不死を得たエノクス(後に「フィリップ」と呼ばれるようになる)は、がりがりのやせっぽちで、Tシャツにベストをはおり、下は半ズボン、頭髪はツンツン立てているという、まるでパンク系のにーちゃんのような風体をしていた。首からは小さな箱をぶらさげている。そして出会ったハナから、ローダンを「ボス」、アトランには「銀髪酋長」と呼びかけるありさま。おまけに〈それ〉の方から不死をもらってほしいと申し出たというから、あからさまに怪しい。
総じてエノクスは、好奇心をまるだしにして他人事に首をつっこむくせに、自分たちが何者で、どこから、何のためにやってきたのか、テレポートに似た移動能力はどのようなものなのか……というギャラクティカーの疑問にはまるで答えようとしない。自らの名前すら、相手に付けさせるのだ。密かにレントゲン撮影した結果、体内にハイパー領域で脈動する器官(太陽神経節と名づけられた)が発見された。しかし、この「詮索」に感づいたエノクスたちが一斉にサボタージュを起こしたため、調査は打ち切られたままだ。

アコン対アルコン Akon vs. Arkon

 デッドゾーンは、銀河系に思わぬ副産物を残した。アコンとアルコンの対立である。もともとギャラクティカムは、テラ、アコン、アルコンが三本の柱として運営されてきた。それが、超空間パラシスによって一時的とはいえテラが脱落したため、覇権争いが高じて、軍事衝突寸前まで来てしまったのだ。
 GAFIFのヤルト・フルゲンの調査は、アコン・サイドに紛争をあおる影の勢力があることを探りあてる。しかし、その正体は依然闇の中。また、ローダンはアコンの社会心理学者ヘンナ・ザルフィスと出会う。奇妙なカリスマを発するこの女性に惹かれつつも、その言動が件の非合法組織の主張に近いことに、テラナーは危惧を感じていた。
 そのころ、マイルズ・カンターら科学者たちは、M−3球状星団の近傍に、ハイパー次元性アトラクターを発見していた。その正体は、銀河系をつらぬく次元断層。「パッシヴ」な形態ではあるが、それはデッドゾーンの卵。やはり、災いは去ったわけではなかった。いまはただ、眠っているだけなのだ。
 8月。アトラクターと、そして次元の彼方から接触してきた謎の〈シンタ〉の正体をつかむため、イホ・トロトがナックのパウナロとともに三叉船《タルファラ》で時空褶曲へと侵入するが、その消息はぷっつりと跡絶えた。しかし、人々が捜索の手段を講じるより早く、おそれていた事態が訪れる。第2のデッドゾーンが、M−13に発生したのだ!

GAFIF

Gruppe Arkonidischer Forscher fu"r Innovation und Fortschritt
 正式名称は「革新と前進をめざすアルコン人研究者グループ」であるが、一般には第二のUSOとか、アトランの私設軍隊などと言われる。モノス時代からの復興とともに、アルコン人は頽廃を脱し、進取の気性をとりもどした。しかし、それとともにかつての高慢さをも蘇らせた。そのためにこういう皮肉や批判にもさらされることになる。もっとも、GAFIFに関しては、世の噂はどうやらそれほど的外れでもないようだ。そのチーフに任命されたのは、アルコン市民権を得たプロフォス人ヤルト・フルゲン、元はモノス時代の銀河解放組織〈ヴィダー〉の闘士であり、軍諜報部の顧問として水晶惑星に招かれた男なのだから。

シンタ

die Sinta
 M3のハイパー次元アトラクターを調査中の《フォルナクス》に乗船していたハイパー物理学者ボリス・ジアンコフ(彼はデッドゾーンの発生を予見した男である)の夢に呼びかけてきた謎の存在。また、アトラクター近傍の次元褶曲内部を探索していたナックのパウナロも、シンタの補助種族マーンファと遭遇している。どうやら、別の次元(ないしは宇宙)から、この宇宙へと侵入をはかっているのだが、「こちら側」からの協力なくては目的を達することができないと考えているらしい。その他、一切が不明。

デッドゾーンU die Tote Zone II

 超空間パラシスは、M−13を――アルコンの星間国家すべてを呑み込んだ。アコン=アルコン戦争は勃発直前に頓挫した形になったが、アコンの暗躍は依然つづく。偶然オリンプにあってデッドゾーン禍をまぬがれたヤルト・フルゲンは、アコンの秘密組織〈ブルーの軍団〉に対抗すべく、そのリーダーらしき謎の人物〈ブルーの蛇〉の正体を追う。しかし、極秘実験をくりかえす社会心理学者ヘンナ・ザルフィスに探索の手がのびたとき、彼女は自らの船《マゲンタ》で行方をくらませてしまった。
 一方、デッドゾーンに包まれたアルコンでは、奇怪な現象が相次いでいた。アルコンUに、周期的に出現する巨大クリスタルの幻影。アリガ他、複数の惑星で目撃された「幽霊船」……。クリスタルの「内部」に踏み込んだアトランは、そこが異なるストレンジネスの支配する並行現実であることを確認。奇妙な水晶柱「ピラミッドプリズム」を携えて帰還する。
 そして「外」でも、思わぬ事態が発生していた。元の冥王星軌道に、26年ぶりにワンダラーが出現。テラを訪れた使者エルンスト・エラートはメディアを通じて全銀河に通告した。「〈鏡の生まれ〉なる者よ、ワンダラーへ来たれ。残るふたつの不死を獲得する資格を持つ者を、ワンダラーで待つ」と。永遠の生命をわがものにせんと、「鏡の生まれ」を自認する者たちが、雪崩をうってソル系辺境へと押し寄せてくる……。

鏡像

Spiegelung
 デッドゾーンにからんで、くりかえし登場する言葉である。超空間パラシス自体、数百万光年彼方の現象の鏡像である、とされる。そして、第2のデッドゾーン内部で目撃された奇妙な現象もまた、「鏡像」であると解釈された。ゾーンの脈動周期にあわせてアルコンUに出現する巨大なクリスタルの幻影に分け入ったアトランは、クリスタルの「中」から見える恒星がアルコンではないことに気づいた。クリスタルは、どこか別の世界に実在しており、時空を歪めるように光年を超えて投影されているのだ。甲殻類の骨格にも見える、デッドゾーン内で超光速航行を行なうかに思われた「幽霊船」もまた、実体はなかった。しかし、アトランの入手した「負のストレンジネス」を持つ20cm長のクリスタルは、まごうかたなき実体。この「鏡像」は、ただの投影ではありえない。そしてまた、エラートの告げた「鏡の生まれ」とは……?

ストレンジネス

Strangeness
 物理学用語で、たとえば電子の素電荷などの物理定数の「差」をあらわす数値。ローダン・シリーズでは、主に異宇宙の元素にからんで使用される。基準となるのは「この宇宙」の物理定数で、そこからプラス/マイナスどれだけかけ離れた数値を示すかという絶対値で測定される。つまり、「負」のストレンジネスは本来ありえない。以前一度だけネガティヴな数値が計測されたのは、時間平面を迷走するワンダラーの探索にからんでのこと。ローダンの持っていた機能を失った活性装置が、フィクティヴ・ワンダラーにおいて3万年昔の人物の手に渡り、後に惑星リンゴラで再発見された。この活性装置のストレンジネスは「ネガティヴ」なものであったが、「一定期間、二重に存在した」とか「パラ現実平面が関係していた」など、因果律からはずれた結果、ありえない数値を示したとされた。

エノクスとアルコアナ die Ennox und die Arcoana

 M−3の時空褶曲は、アトラクターのデッドゾーン化にともなって消滅していった。パラ現実を放浪し、サトー・アンブッシュの犠牲によって生還したパウナロとイホ・トロトは、謎のシンタが、奇妙な連絡によってアルコンから三叉船に届けられたピラミッドプリズムと引き換えに、彼らを解放したことを告げる。シンタはピラミッドプリズムを何らかの「鍵」と認識していたらしいが、パウナロは「あれは不完全なコピーにすぎない」とだけ説明した。
 デッドゾーンについて何かを知っていながら沈黙を守るエノクスたち。ところが、そんなある日、ローダンのもとを訪れたフィリップが、「同胞たちを救ってほしい」と要請する。事故によって、空間を自在に転移する能力を失い死にかけている数百名のエノクスを、宇宙船を持たぬ彼ら自身に代わって母星へと連れかえってほしいというのだ。
 銀河系から1000万光年の距離にある、虚空の孤独な星系。エノクスが「母星」と呼ぶ、ひとつきりの惑星は、広大な原野だけが広がる未開の世界だった。ただひとりのエノクスもおらず、文明らしきものが存在した痕跡すらない。しかも、瀕死の状態で移送されてきた数百名のエノクスさえも、かき消すように姿をかくしてしまった。ここが本当にエノクス発祥の世界なのか。疑問をかかえて星空をあおいだローダンは、ふと気づく。銀河間の虚空の惑星に、星空が? そう、この世界はそれ自体巨大なプラネタリウム。しかも、ビッグバンの生じた仮想点から見晴らした大宇宙の!
 ミステリーと名づけられた惑星を離れた《オーディン》に再び現われたフィリップは、ローダンの問いに答えることをかたくなに拒んだ。その代償として、彼は驚くべきことを口にする。デッドゾーンの源の座標を! 蜘蛛に似た種族アルコアナが、おのが星系へのエノクスの侵入を阻むために張り巡らした力場〈マッキューネンソル〉。その副作用が、1300万光年も彼方の銀河系に、超空間パラシスとして顕現したのだ。
 りゅう座銀河団のNGC6503――アルコアナによってアエメロンガと呼ばれる銀河へと、レジナルド・ブルに率いられた艦隊が飛ぶ。元来温和な蜘蛛族とのコンタクトは、平和のうちに終了。エノクスが彼らの星系へ立ち入らないことをフィリップが誓約したため、マッキューネンソルは停止。デッドゾーン危機は消滅した。

アラクノイド

die Arachnoiden
 「蜘蛛型生命体」の意。1199年、10年をかけた炉座銀河団への遠征から帰還したブリーは、途上遭遇した高度に知的な種族をこう呼んだ。もっとも、NGC1400(銀河系から2200万光年)で彼の発見したのは、入植する73の星系すべてをノヴァ化して集団自殺を遂げたこの種族の遺産だけだったが。しかし、エノクスの証言から、思いもよらぬ真実が発覚する。アラクノイドはエノクスを恐れ、滅亡を装って逃亡したというのだ。
 アラクノイド――アルコアナは1000万年以上もの昔に知性を獲得した。しかし、当時ロークと自称していた彼らは残虐で好戦的、ノヘイラサと呼んでいた故郷銀河のみならず、幾多の銀河を荒廃させたすえに衰退していった。わずかに生き残ったロークは、内省的・哲学的になり、温和な種族として故郷の再建にとりかかる。ちょうどこのころ、ノヘイラサを訪れたエノクスたちはこれに協力、73の星系は昔日の姿をとりもどした。ところが、「宇宙のむこうはじを計測してほしい」とエノクスが要請したことから、友好関係が崩れだす。おのが種族がかつてロークであったというトラウマから外界との接触を極度におそれるアルコアナは、度重なるエノクスの要求に種族規模のノイローゼに陥り、ついには73のノヴァのエネルギーで種族まるごとを異銀河へ転送するという暴挙に出る。
 NGC6503に移住し、64の惑星を持つシェオコル連星系をまるごと居住区に改造したアルコアナだったが、ある科学者の遠征が偶然にも惑星ミステリーに着陸したことから、そのポジションがエノクスに露見。ただの一歩で数百万光年を踏破するエノクスの侵入を拒むため、件の科学者コルーンシャバはマッキューネンソル、別称ステップメイカーを開発・投入する。この力場内部では、エノクスは太陽神経節へのエネルギー補給ができず、衰弱死するしかない。ひとまず平穏を得た蜘蛛族であったが、不完全なマッキューネンソルが、どこかで破綻をきたす可能性にコルーンシャバは気づいていた。
 マックや銀河間転送の例に見るように、アルコアナの科学技術は、新銀河暦13世紀のギャラクティカーのそれをはるかに陵駕している。

鏡に生まれつきしもの die Spiegelgeborenen

 はるかな宙域でのデッドゾーン禍の解決と前後して、銀河系においても、もうひとつの問題が決着を見ようとしていた。不穏な動きを見せるアコンに対して、ついに調停者が動きだしたのだ。四半世紀前の事件以来、銀河の表舞台から身をひいたリング人であったが、ギャラクティカムからの正式な要請もあって、調停者アリヌ・バーラスがアコン指導層への「調停」を行い、これをもって事実上アコン動乱は終結する。
 しかし、〈ブルーの蛇〉はまだあきらめなかった。いや、彼女の最大の野望とは、永遠の生命を得ること! 彼女、アルノラ・デポナルは、自分とヘンナ・ザルフィスこそ「鏡の生まれ」であると確信していたのだ。なぜなら、アルノラとヘンナは同じ細胞から作り出された違法クローンだから……。「姉」の狂気に気づき、投降をすすめるヘンナをともない、不死を求める亡者の群れを《マゲンタ》でかきわけ、ついに〈ブルーの蛇〉アルノラはワンダラーの地を踏む。だが、彼女をむかえたエラートの言葉は冷たかった。「自分が永遠の生命にふさわしいと、本気で思っているのか?」……悲鳴が静まったとき、すでにアルノラ・デポナルはこの世のものではなかった。
 ……そのころ、グッキーはついにめざす存在にたどりついていた。幾多の探索の果てに。いくつの手がかりを見落としていたことか。2年前、ヨルショル星域で1隻の船を救ったとき、すでに「ふたり」は手の届くところにいたのだ。1年前、記憶喪失のエノクス・フェリクスと出会った時、「ふたり」はおなじ惑星ゲーアにいた。フェリクス自身、その直前まで「ふたり」の屋敷で看病を受けていたのに。鏡の生まれを求めるエラートの声が、自分に「失敗者」の烙印を押したと思い、絶望していた彼のもとに、かつて助けた船長とフェリクスが訪れたとき、すべての糸がつながった! グッキーは、最後に不死を得るべき「ふたり」、すなわち「鏡の生まれ」である双子を見出したのだ。
 グッキーにともなわれ、ヴァンデマー姉妹はワンダラーを訪れる。3人を迎えたのは、〈それ〉ではなく、すでに四半世紀のあいだ超知性体の留守を預かるエラートだった。そして、双子の姉妹に細胞活性装置を与えると、人工惑星は主人を追っていずこかへと消え去った。

ヴァンデマー姉妹

Mira & Nadja Vandemar
 新銀河暦1171年1月28日、銀河系中枢部の暗黒星雲プロヴコン・ファウスト内の惑星ツヴォタートラハトに生まれる。ミラとナディアは、父親にプロヴコン人、テラ系ゲーア人を母に持つ混血児。ふたりは知らないが、誕生の瞬間、ツヴォタートラハトではある事件が起こっていた。迷走中の人工惑星ワンダラーが、上空につかのま出現していたのだ。そして、それを追ってローダンたちもまた、この密林惑星の地を踏んでいた。1175年の活性装置再分配のおり、〈それ〉は「きみはこの者たちを知っているはずだ。まだ、生まれたばかりではあるが、四半世紀のうちに装置を得るにふさわしくなる」と語ったが、神ならぬ身のローダンに、そこまでわかれという方が酷な気もする。
 幼少のころから、ふたりは奇妙な依存関係にあった。正確にいうと、ふたりの間の距離が1キロを超えると、ミラは知覚に異常をきたし、理性を失う。その際の不確かな認識を、ミラは「鏡の世界が見える」と表現した。
 父はふたりの生まれる前にすでになく、ゲーアで基礎教育を終えた後、ふたりは母とともにヨルショル星域の開拓に参加。まもなく母が事故死してからも開拓惑星で暮らしていたが、1199年、狂気のインパルスが惑星を襲ったため(後に、これはデッドゾーンの前触れであったと解釈される)、ゲーアにもどり、郊外の屋敷にふたりだけでひっそりと日々を送ることに。一時期、記憶喪失のフェリクスを養っていたこともあった。

そして、かみのけ座へ Projekt Coma

 ミステリーから持ち帰られた「星空」のデータは、大回転で分析が進められた。そして判明した事実……この星図は、いまなお未完のもの。随所に空隙が認められる。しかし、それ以外、星々はすべて実在するものを正確になぞっている。
 これほど壮大な記録を創造したのは、いったい何者なのか。そして、この偉大な科学の遺産が遺された惑星をエノクスが母なる世界と呼ぶのはなぜなのか。ローダンを悩ます疑問の回答は、予想もしなかったところからやってきた。
 新銀河暦1201年11月2日。HQハンザにいたローダンを訪問したフィリップが、こともなげに、こう言い放った。
 「われわれエノクスは、大宇宙の地図作成者なのだよ!」と。
 そして、フィリップは重ねて告げた。かれらエノクスは、〈ショートカット〉――時空を歪めて光年をたちどころにこなす能力を、エノクスはこう呼んでいる――をあやつって、数百万年もの期間、大宇宙の情報収集につとめてきた。「星図」の空隙は、やがて埋められよう。ただひとつをのぞいて……。
 〈大空隙〉(ヴォイド)。銀河系から、かみのけ座(コマ・ベレニケス)方向へ、2億2500万光年もの超々距離を飛んだ果てにはじまる、星々の存在しない、ただひたすら空虚な宙域。そこにエノクスの侵入を拒む何かがある。「宇宙最大の謎」と、エノクスはそう口にした。ギャラクティカーの世界観を根底からくつがえす秘密が、ヴォイドには待っているのだ、と。
 大空隙のさしわたしは1億光年を超える。そして、そのさらに彼方にあるものは……。トリークレ9、かつて「フロストルービン」の名で知られた、宇宙のモラル・コードのコスモヌクレオチド。その置かれた超空間で、数百年前、ローダンは第三の究極の謎の答えを拒否したのだ。エノクスは言う、ヴォイドの秘密は究極の謎とからんでいる、と。
 かれは、行くのだろうか。ひとたび拒絶した回答を求めて。思えば、26年前、ワンダラーで〈それ〉がフィリップに不死のチップを与えたのは、こうなることを見越してのことであったのか。そうして、コスモクラート・タウレクより贈られた、謎に満ちたサイバークローンのヴォルタゴもまた、確信に満ちて告げるのだった。
 「フィリップは真実を語っている。かみのけ座へ行くのだ、ペリー・ローダン」

*

 20世紀の登山家エドモンド・ヒラリー卿は、なぜ山に登るかと問われて、「それがそこにあるからだ」と答えたという。そして、ローダンもまた、謎があるかぎり、問いかけることをやめられない人間なのであった。
 しかし、2度にわたるデッドゾーンを経験した銀河系は、いまなお復興のまっただなかにあった。2億光年以上の長征には、片道でも3年は必要である。往復、おそらく最低でも10年はかかる大遠征に要する費用など、どこにもなかった。公職にまったく就いていない、一個人にすぎないローダンには、むろんのこと。ギャラクティカムも、自由テラナー連盟さえも財政援助を断ってきた。大計画は出航する以前に頓挫するかと思われた。
 絶望の淵に立ったローダンを救ったのは、宇宙ハンザ同盟の総会に出発したアダムスの残した1通の連絡であった。あなたの最も必要とするものがある――そう書かれたあとに連綿とつらなっていたのは、山のような援助の申し出であった。ローダンの生涯で、決して良き友とはいえなかったスプリンガーからの参画表明があった。テラのコンツェルンからの寄贈金があった。国家ですらない、有志団体の数々から……。
 モノス独裁の暗黒時代、暴走したリング人調停者による混乱、そしてデッドゾーン禍と、平和とは言いがたい世紀のつづく現在だからこそ、ギャラクティカーの心が未来への展望を呼び覚ます壮挙を必要としているのだと、ローダンは改めて決意を固めるのだった。
 そうして、12月21日、朗報が訪れる。アダムスが、ハンザ発言者たちを説得して、全面的な資金援助を勝ち得たのだ。さらに、第一テラナー、コカ・スザリー・ミソナンからも、遠征に絶対不可欠な要素の提供が申し入れられた。2億2500万光年をこなすための、長距離宇宙船――《バジス》である。
 コマ計画が、こうして走り出す。

*

 2億2500万光年! 大空隙に待つ「宇宙最大の謎」……!
 星々への、はるかなる未知への憧れを抱いた者たちが続々と《バジス》に集まってくる。
 艦長ハロルド・ナイマンが志願者第1号。ブルーの蛇の「妹」であるアコン女性ヘンナ・ザルフィスも志願した。《オーディン》の艦長ノーマン・グラスは、不治の病であと20年足らずの余命をおして参加する。〈鏡の生まれ〉たるミラとナディアのヴァンデマー姉妹もまた、乗艦した。マイクル・ローダンはイーストサイドから、スイ・ゾルナイとアリヌ・バーラス、2名のリング人調停者をともなって駆けつけた。
 行くものがあれば、残るものもいる。ロナルド・テケナーやダオ・リン・ヘイ、ジュリアン・ティフラーらは、再建途上にある銀河系と局所銀河群の安寧のため、残留を選択した。アダムスも銀河系復興に欠かせない人材として、遠征に参加するわけにはいかなかった。かれらの胸中にも、往く者たちに劣らず、憧憬の炎は燃えているのだが――。
 新たな乗組員たちの訓練期間を経て、出発も間近に迫った1202年7月24日。さらなる賛同者が太陽系を訪れた。アルコアナのコルーンシャバ、蜘蛛族の星系を包むバリア「マッキューネンソル」の設計者が、遠征への合流を申し出たのだ。かつてエノクスが切望して得られなかった超空間マスターたちの協力は、かみのけ座への探検者たちには心強い増援だった。
 そして、その日がやってきた。アトランが、イホ・トロトが、グッキーが乗り込む。マイルズ・カンターにレジナルド・ブルの姿があった。ナックのパウナロがいた。アラスカ・シェーデレーアを迎えて、すべての人員が巨艦に搭乗した。
 今度は帰ってこれるだろうか――ふと、ローダンはそんなことを考えた。
 新銀河暦1202年8月1日早朝……最後の連絡艇が《バジス》を離れた。
 目標は、かみのけ座。ヴォイドである。

ないしょ話 コマちゃん計画 Projekt Coma

 20世紀の自称編集者 まがん・えとりん 卿は、なぜしょーもない本をつくるのかと問われて、「だってすきなんだもん」と答えたという。そして、さいとー・れいじー もまた、原書があるかぎり、読むことをやめられない人間なのであった。
 しかし、2度にわたる結婚式をへて焦りのます ろーだんふぁんだむ は、いまなお復興のまっただなかにあった。このまんま趣味をつづければ、まともな職についていないあのヒトはもとより、みーんな嫁の来手ない淋しい余生をおくることは必定であった。
 原稿を書かずにのんべんだらりの生活を送るれいじーを救ったのは、ファンからのあたたかいひやかしであった。
「めーこらーはいつでるんでっか?」
 XXXXX・XX独裁の暗黒時代、暴走したXXX・XXXによる混乱、そして結婚式と、平和とは言いがたい現在だからこそ、未来をみすえた壮挙が必要なのだと、れいじーは改めて決意を固めるのだった。
 そうして、12月21日、朗報つーのかなんつーのかが訪れる。まがんが、れいじーなしに勝手きわまりない「ぷらいべーとこすもす13」をだしてしまった。そして、みんなは当然、そのぼうじゃくぶじんな原稿をれいじーのものだと信じこんだのだあっ。
 なんかわかんないけど、やらないともっとひどいめにあいそうだぜ。
 そーして、コマ計画が、走り出す。

*

 とーきょーから500キロ? 南海の孤島に待つSF大会……!
 おお、まがんよ。
 あーたはいったいなにをかんがえているのよ。
 まあそんなこんなで、この不況のただなか、mdiはあいかわらずだったのだったんだからしょうもないでしょ。ははは。
 沖縄いったら帰ってこなくていいぞ――ふと、れいじーはそんなことを考えた。
 西暦1994年1月1日早朝……まがんの年賀状が届いた。
「目標は、かみのけ座。ヴォイドである」

DIE TOTENZONE IM ZWIELICHT / 暁のデッドゾーン
―― Das GroB"e Kosmische Ra"tsel / 宇宙最大の謎 または Private Cosmos 13 の弁明
1994/04/29 r.psytoh with y.wakabayashi
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