序章 クロノフォシル / Die Chronofossilen

発端/ヴィシュナ

 新銀河暦(NGZ)427年4月、反乱者たる女性コスモクラート・ヴィシュナは最終的に勝利した。テラの生存者10億人はヴィールスインペリウムの内に吸収され、意志に反してその機能を助ける任を負うことになった。狂気の超存在は、ここに望んでいた最高の臣下を得たのである。
 しかし、テラナーとともにこの超巨大コンピューター内への潜入を果たした“物質の泉の彼岸からきた男”タウレクは、そこでおのれの正体を明かし、本来の能力を発揮して、インペリウム中枢に座をかまえる第3のヴィシュナ・コンポーネント=ベリセのもとへたどりつくことに成功する。かれこそは今回の任務のためにこの宇宙に受肉したコスモクラートのひとり。タウレクは、ヴィールスインペリウムの再建と同時に覚醒した太古の反乱者ヴィシュナとともに、ある重大な計画を実行にうつさなければならない。

「おまえは混沌の勢力のために働いているのだよ!」

 いまは具象化存在ベリセの内に意識を覚醒させたヴィシュナはコスモクラート法典を思い出す。そして、自分たち秩序の勢力の戦うべき相手のことを……そう、この宇宙に人類の姿をとって具象化したふたりのコスモクラートは、混沌の勢力の干渉を排し、クロノフォシル活性化を成功させることで宇宙モラル・コードを修復しなければならない!

使命/モラル・コード

『フロストルービンとは何か?
無限艦隊はどこにはじまり、どこに終わるのか?
〈法〉はだれが創り、何が記されているのか』
――究極の3つの謎

 この宇宙をとりまいて通常空間に秩序ある法則性を与えつづけるプシオンの回路網。そのかなめとなるプシオン情報倉場の二重螺旋が描きだす宇宙モラル・コード。秩序と混沌の両勢力は宇宙開闢以来その存続をめぐって戦ってきたのだ
 太古、そのユニット場のひとつトリークレ−9が変異し暴走して、本来の機能をうしなった。それはネガティヴな超知性体ゼト=アポフィスの道具として“赤光を放ちながら銀河のエネルギーを奪い破壊するもの”=フロストルービンへと変じ、コスモクラートはこの危険なプシオン場をある宙域に封印させるしかなかったという。以来、モラル・コードはかみのけ座銀河団の近傍に〈負の球体〉という大きな傷口をあけたまま、崩壊の危機に脅えている。
 これを回復するためには、フロストルービンを正常化し本来の位置に帰還させられるだけの莫大なプシオンのエネルギーが必要なのだ。それはいくつもの銀河の種族の生み出す生命=精神のポテンシャルを合わせたほどの量でなければならず、しかし同時に、ひとつの強力なプシオンの流れに集束しうるほどの一貫性、単一の核をもたねばならない。すなわち、ローダンが長い半生のなかで局所銀河群の種族たちに刻みつけてきた平和への歴史の足跡のような……それは歴史の化石、クロノフォシルと呼ばれるもの。
 いま、ローダンは遠いM−82銀河でゼト=アポフィスを倒し、かつてのトリークレ−9警護艦隊=無限艦隊の指揮権を手に入れようとしている。かれがこの巨大な艦隊を率いて局所銀河群を遍歴し、歴史の化石を呼びさましていくことで宇宙プシオン網にはポジティヴなショック波が生じ、その衝撃がすべてを解決へとはこぶだろう。
 6月、銀河系では無限艦隊をむかえるための準備が開始された。そして、これは同時に混沌の手先との戦いのはじまりでもある。トリークレ−9の欠如が生んだ負の球体。その混沌を拠点とするエレメントの支配者とその十戒の介入により、クロノフォシル・二百の太陽の星をはじめとしていくつもの歴史の化石が危機にさらされ、局所銀河群に築かれた平和と協調の核のいくつもが一瞬にして破壊されたのだ。
 おなじころ、ローダンは無限艦隊の長い探索の歴史を聞き、おのれの任務の重大さを知らされていた。テラナーの指揮下に入った巨大な艦隊はM−82銀河を発進して局所銀河群にむかう。そして、またローダンの旧友たちアトランとイェン・サリクはテングリ・レトスの待つ〈深淵〉に赴くよう命をうけた。ノルガン・テュア銀河の惑星クラトで太古の〈深淵の騎士団〉の遺産を継承したレトス=テラクジャン、そこで深淵の騎士として叙任をうけたサリクとローダン、さらに同等の資格を認められ、〈深淵〉で任命をうけることになるアトラン……かれら騎士たちは、トリークレ−9の帰還を準備し秩序の側に立って戦ってきた機構の遺志を継ぐものたちなのだ。
 こうして、戦いははじまった。

遂行/局所銀河群

『無限艦隊の指揮権はテラナーの手に渡るが、艦隊はその目標への途上、銀河系を遍歴せねばならない』
――艦隊予言者の第3の予言

 NGZ428年初頭、仮面のエレメントがひきおこす騒乱を解決し、時間のエレメントによる歴史改変の試みを〈時を歩む者〉ニセルの助力を得たローダンはクロノフォシル・アンドロメダを活性化する。2月〈マゼランの善き精神〉に助けられた無限艦隊はクロノフォシル・マゼランを活性化し、仮面のエレメントの陣営に亀裂を生み出した。エレメントの支配者の作戦基地2基の破壊と、その隠れ家として利用されていた〈宇宙巨人〉の解放。支配者は最後の基地《ラーガー》で逃走する。二百の太陽の星の活性化は、ポスビのプラズマとメカ的部分をさらに緊密に結合させてより高次の段階に進化させる……活性化が生み出すプシオンの共鳴は同時にまた多くのポジティヴな副次効果を生み出していくのだ。7月にはじまったガタス=クロノフォシル・イーストサイド活性化をめぐる攻防は冷気・空間・超越・精神・仮面の各エレメントを壊滅させ、ブルー人の進化をうながす。
 事態にかかわった銀河系の突撃レポーター、クローン・マイゼンハルトは全ギャラクティカーに呼びかける。無限艦隊が来る! ローダンがコスモクラートの名のもとに全宇宙を救う作戦を遂行し、またその恩恵をもたらすためにテラをめざしている、と。しかしそのとき、すべての夢をうちこわすように小惑星アケロンから謎の〈警告者〉が警告する。コスモクラートに盲従することはない。秩序にも混沌にも属さぬ別の道があるのだ、と。それに楽観してばかりはおられない、無限艦隊が成功するとは限らないのだ……
  428年末日、このぶきみな幕間劇にもかかわらず、無限艦隊は技術のエレメントの《マシーン》艦隊を破り、熱狂的な歓呼のなか、ついにソル系に進軍する。そして、混沌は最後の決定的な一撃をくらえるべく、この時を待っていたのだ。最終兵器、負の球体の底に生まれた物理法則の欠如たる暗黒のエレメントの攻撃は星系全域の存在そのものを覆いかくし、同時に指導のエレメント、カッツェンカットのゼロドリーム・アタックはローダンの意識を呑みこんで消滅させようとはかる。もし、ヴィールスインペリウムがそこになければ、そして、無限の情報エネルギーを底無しのプシオン貯蔵庫と化したローダンを通じて射出することができなければ、テラは無の淵に沈んでいただろう……だが、ヴィシュナの具象化たち、ふたたび出現したスリマフォ、ローダンの妻となったゲジル、ベリセ=ヴィシュナの3人はそれを遅滞なくなしとげる能力をもっていた。ヴィールスインペリウムの半壊を代償として暗黒のエレメントは後退し、カッツェンカットはみずからの送り出した暗黒に呑まれて消えたのである。
 NGZ429年初頭、エレメントの十戒は全滅し、クロノフォシル・テラは活性化された。

疑惑/深淵の地

『もし最後の深淵の騎士が死んだなら、すべての星々は消え去るだろう』
――太古の伝説

 こうして無限艦隊が局所銀河群を遍歴するあいだ、3人の深淵の騎士は〈深淵〉にあった。そこは、本来ならトリークレ−9が係留されているはずの“n次元層”。そして、コスモクラートの命をうけた〈時空エンジニア〉種族が巨大な〈深淵の地〉を建設し、移住させた無数の種族たちの精神のプシオン・パターンを使って生けるプシオン情報倉ユニット=フロストルービンの代替物を創造しようとしたところ。しかし深淵固有の〈影の感化力〉、すなわちプシオン生命エネルギーの欠如状態の影響はこの超技術種族の計画を覆し、すべてを破滅に導いたのだという。
 アトランたちは深淵の地をおしわたり、長の歳月のあいだに堕落し、やがては影に呑みこまれていく運命の幾多の種族と出会う。かつてのかれらは誇り高く、献身的にコスモクラートに仕え、そうして成功の望みのきわめて薄い計画に身を投じたのだ。再構築プランを指揮した時空エンジニアたちもおなじ。かれらは超知性体へと進化することを条件に、希望をもって事態に挑んだはずだった――しかし、いまのかれらは大半が影の一員と化

し、〈影のロード〉としてかつての仲間たちを脅かしている。
 トリークレ−9のアンカー〈創造の山〉の周囲に広がる光の平野にたてこもる時空エンジニア最後の5人は知っている。影の感化力のまえには何者も抗うことはできない。コスモクラートはただ、時間ひきのばしのための応急処置として自分たちを派遣し、そして使い捨てたのだ。深淵の騎士たちの到来はトリークレ−9の帰還準備を意味する。すなわち、自分たちの努力が報いられることはなく、事態は破局にむかっていくということを。そして深淵の幾兆という種族たちは、みずからの意義も知らず、ただフロストルービン帰還の災厄のなかで死んでいくのだ……
 時空エンジニア最後の生き残りは深淵の騎士たちに望みをかける。トリークレ−9の帰還を準備し、同時に深淵の地に住む幾兆もの種族を救うことだけははたさねばならない!

光明/第三の道

『あこがれは星にこがれる』
――ニュースレポーター、クローン・マイゼンハルトの言葉

 アトランは自問する――なぜ、コスモクラートはこのような無謀な計画を実行にうつしたのか? なにゆえ、この地の種族に救いの手をさしのべないのか? そして、ローダンも気づいているはずだ――コスモクラートは、ヴィシュナのことも、ヴィールスインペリウムで解かれうるはずの究極の謎の解答そのふたつまでもを知っていた。そのうえで、テラナーたちを窮地に追いこみ、使命に駆り立てたのだ。さらに、オルドーバン、ポルライター、ローヴァー、あの不幸な帰結をむかえた力強き者たち、宇宙震――少しずつ、心の奥底でコスモクラートに対し抱きつづけていた疑惑がかれらの胸に蘇ってくる。
 影の生命は主張する。われわれは、この宇宙がプシオン場モラル・コードに制御統制される以前のあるべき生命の形態であり、秩序・混沌の戦いにもとより無縁な第三の勢力なのだ、と。そして、謎の〈警告者〉はいう。ともにコスモクラートにもカオタークにも属さぬ第三の道を歩もう、と。
 新しい歯車がかみあい、回りはじめた。しかし、その行く先はだれも知らない。そっと、こう思うだけである――もしかしたら、この道は〈法の創造者〉への道ではないのか?

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『エスタルトゥへの道』を行く/1

「とうとう来ましたね」
「フォルツの死の報らせが載った1185話『コスモクラートの敵』で登場のカッツェンカットが死んだ……」
「1246話『ドリーマーの力』でエレメントの十戒はかえり討ち。テラは活性化、と」
「そして、御執心のニューアイドル『カッツェンカットの妹』――でしょう」
「にーさんが化物だというのに彼女はアコンのかあいいこっ、これは凄い秘密があるにちがいないっ!!」
「あ……えっと……さて、これで残るクロノフォシルはエデンIIだけですね」
「そう、全クロノフォシルのエッセンス。そして、フォルツの敷いたレールはもうすぐその終点に達するんだね」
「と、いうと?」
「故ウィリー・フォルツの手になる、あるいは生前のかれが影響を与えたとされるプロットは1199から1209話あたりまでじゃなかろうか、と言われてる」
「オルドーバンの秘密、フロストルービンと無限艦隊の謎が解き明かされて、ストーリーがモラル・コード修復にむけて動き出したところですね」
「つまり、クロノフォシル活性化劇まではフォルツの頭のなかでできていたってことだ」
「けれどそれを実現させるまえに逝ってしまった」
「その後継者はヴルチェクとツィークラー。ひとりではあのフォルツのあとは押さえられない、ってことらしい」
「国鉄がJRに分割民営化されたみたいなもんですね」
「赤字にならなきゃいいんだけど……そういえばやたら女性アイドル使うとこなんて、そっくりだなぁ」
「……」

WEG NACH ESTARTU / エスタルトゥへの道
1988/7/15 r.psytoh with y.wakabayashi
produced by rlmdi