I ヴィーロノート / Vironauten

『ソルマン・パテルモは感じた。リタも、ノルクも、アムポルも感じた。
 パテルモ氏族全員がおなじ強さで感じていた。
 スプリンガーたちはひるまずに、あえて朽ちかけた《パト・プラマル》で3万4000光年以上を飛行し、艦隊部隊1707のそばをソル宙域まで艦隊人たちに随行した。パテルモ氏族はこの間に転子状宇宙船が本物のスクラップになるまで飛んだのだが、この冒険に悔いはなかった。
 そして、シイトはブルー人だったが、感じていた。ソル宙域のどのポスビとも、まさにおなじ強さで感じたのだ。ギュルガニュとユティフィ、ギムピュイ、クジュフィク、加えてここのブルー人たちはテラに住み、またはイーストサイドから無限艦隊に同行したのだが、全員が感じていた。
 グラン・デイクも感じた。90歳になるハルト少年はドラ・トン、トラケル、ショウトといった年嵩のハルト人とまさしくおなじように感じたのだ。クロノフォシル・テラ活性化によって呼びさまされた奇妙な感情をまぬがれるわけにはいかなかった。
 パテュシア・バールと、事態に関係するアンティ全員も例外ではなかった。そして、アルコン人、アコン人、ウニト人、フェロン人、エプサル人、オクストーン人、プロフォス人、アラスもが感じていた。
 なにがエルトルス人やシガ人の心を強くゆさぶり動かしているのか、とクローン・マイゼンハルトは一度そう問いかけてみた。新たに呼びさまされた、つかみえぬ遙かなものへの憧憬を、巨人も小人もおなじ強さで感じていたのだ。
 自由で縛られぬと感じ、だが同時になおも規定の境界にとじこめられていると感じた。憧憬は心のなかでしだいに強くなっていった。かつても不確かな予感としてはあったのだが、クロノフォシル・テラ活性化以来、この感情は情緒に支配的な要素となっていった。
 鎖は断ち切ったものの、なお銀河系牢獄の壁があった。母なる世界のへその緒を切りはなし、いまや銀河系の監獄から銀河間空間へと、未知の星々へ未知の異郷へとひきよせられていた。
 遙かなあこかれが呼びさまされた。けっして熱のさめぬ、といって他に強制されたのではない遙かなあこがれが。いまや自由であり、すべての鎖を断ち切り、縛めを解かれ、憧憬に駆られつつ遙かなものを見やっていた。
 レオナルド・フレートはテラナーであり、感じていた。
 アン・ピアジュとフレド・ゴフェルも感じていた。
 ノシュ・ヤミド、異生物保護区の自然監視官も感じていた。しかしヨシは、わきおこる遙かなあこがれに身をゆだねるには、すでに年をとりすぎていた。呼びさまされた憧憬を鎮め、心理学に頼ってでも、いかにしてこの憧憬が膨れあがってきたのかを理解しようと努める多くの者とおなじに。そして、さらにはだれによる解明の言葉にもあらがい、おのれの断定を守りつづけるだろう者たち。
 とはいえ、全員が遙かなあこがれを感じていた。
 わきおこる憧憬とともに、別の何か確実なもの、おなじくクロノフォシル・テラ活性化にともない呼びさまされた感情があった。そしてこれにあらがう者はない。共存共属の深い悟りと強い感情とを混合したもの。
 年老いたヨシはこう表現した。「わしらは皆でひとつの大家族なのだ」と。
 クローン・マイゼンハルトも感じ、能弁なマスメディア・スペシャリストはより適切にこう表現した。
「われわれはすべて一銀河の住人。われら銀河系住人、すなわちギャラクティカー!」
 それに比せば遙かなあこがれは万人のものではない。たとえ、多くの人々が抱いているとしても。
 レジナルド・ブルは感じ、ブルは遙かなあこがれに身をゆだねた。
 そして、ロワ・ダントンとデメテルが感じていた。
 そして、ロナルド・テケナーとジェニファー・サイロンも感じ、あらがわなかった。
 そして、ペリー・ローダンは錯綜する感情をもってそれを認めた。
「あこがれは星にこがれる!」と、クローン・マイゼンハルトは言う。
 そして、ヴィールスインペリウムはテレパシーで囁きつづけた。
 コスモクラートのかつてあれほど強力だった権力の道具は、万に及ぶヴィールス雲に崩壊し、テラ周回軌道を霧のごとく覆う。暗黒のエレメントに破壊され、10分の1ほどになったヴィールスインペリウムは休みなくテレパシーで啓蒙をおこなっていた。
 遙かなあこがれを整理し、横道のあるところ望む道を求めて惑う人々に望む答えを導いた。「渡り鳥の想い」を抱える者すべてを助けた。誠実な欲求を抱く者すべてを助けた。しかし、偽善者であり心を偽って語る者すべてをヴィールスインペリウムは暴きたて、拒絶した。
 ヴィールスインペリウムは公平に、完璧に新情勢を把握して動いていた。
 クロノフォシル・テラ活性化は銀河系全域にポジティヴな効果をあらわした。第一に、銀河系住人はより強い共存共属の念をいだくようになった。第二のポジティヴな効果とは、だがそのことでより固く銀河系にしがみつくのではなく、かえって強く遙かな星の島々に魅力をおぼえるようになったこと。
「あこがれは星にこがれる!」クローン・マイゼンハルトは言う。
 ゲジルとスリマフォでさえ感じていた。
 タウレクとヴィシュナだけが感じていなかった。
 真正のコスモクラートであり、それゆえにより高次の序列の存在であり、この低次の宇宙へはたんに片眼をむけているだけなのだから。』

第1部 ギャラクティカー / Galaktiker

第1章 エスタルトゥの使節

 暗黒のエレメントとの幻想的な戦いののち、クロノフォシル・テラは活性化された。だがその代償は大きかった。第三の究極の謎を解くべきヴィールスインペリウムはもはやない。その質量の大半とともに、その蓄えていた情報のほとんどもうしなわれてしまった。
 一方、テラの活性化はソル系周辺に集まった銀河諸種族に影響を及ぼしはじめていた。ギャラクティカー意識。そして遙かなあこがれ。無限艦隊の、ベハイニエン銀河への帰郷が開始されるとともに、それは次第に抑えようのないものとなりつつあった。
 そんなとき、“かれ”が公然と姿をあらわした。おとめ座銀河団に力の球形体をかまえるという超知性体〈エスタルトゥ〉の使節、ソト・タル・ケル。ホーマー・G・アダムスはかれを〈ストーカー〉と紹介した。
 ストーカーは、アダムスの命をうけ出発し、消息を絶った《ツナミ》2隻のうちの《ツナミ114》の残骸を力の球形体エスタルトゥの辺境で発見、そこで得たデータから、銀河系諸族と友好を結ばんとやってきた。
 そして、かれこそは〈警告者〉。コスモクラートとカオタークのあいだを行く第三の道の擁護者。銀河系に、その超知性体の生命の哲学を伝導しようというのである。
 ヴィールス雲は、遙かなあこがれにとらわれた人々に、星々へのこがれを満たす手段を提供した。ヴィールス船――ほとんど無限の速度と航続距離をもつエネルプシ駆動をそなえた船に。
 旅立ちのときは間近にせまっている……

第2章 生まれくる生命

『……
「きみが話してくれたのは3週間まえのきょう、この時間だった」と男は気づき、笑った。「わたしは本当に有頂天になって、ただの無骨者、伝説のワルティ・クラックトンのようにふるまってしまったね」
「あなたの記憶、どうかしてしまったの?」女は驚いた。
「どうして? わたしが父親になると知らされたのは確かに3週間まえだった」
「3週間と10時間よ!」と女は教えた。時にNGZ429年2月20日。《バジス》艦上は夜勤時間。
「きれいだよ」男がいった。
「2000年というもの、きみのような女性を待っていたんだ、ゲジル。これまでも妻たちも愛していた、特にモリーを。だが、きみのような女はいなかった。それに、きみはわたしをこの力の球形体のなかで、いや全宇宙一幸せな男にしてくれた。3週間と10時間。かつて、それくらいの胎児はまだ完全な生命体とはみなされない時代があった。だがきみはそんなにも強く子供のことを意識している。それからしてもきみは非凡な女性だよ。どちらだか、もう知っているんだろう、男の子か、女の子なのか?」
「そんなこと、まだわからないわ」
「それなら、これから驚かせてもらうとしよう。そうだな。《バジス》でエデンII探索に出るとき、きみは地球に残った方がいい」
「ペリー! いまからそんなおおげさにならないで。妊娠中ずっとパラトロン・バリアの下に押しこめておくわけにはいかないわよ。わたしはあなたの思うよりたくましいんだから」
「しかし……」
 彼女はかれのくちびるに指をあて、「しっ」と言った。かれは口を閉ざした。ゲジルが、「いまは宇宙のどの問題も考えてはだめ。リラックスして。エデンIIはみつかるわ。それにわたしも大丈夫」
「いや、まだ他にも……」
 今度はキスで口をふさいだ。やがてかれが細胞活性装置に導かれて静かな眠りについたころ、ゲジルはまだ、目ざめたままそこに座っていた。
 ペリーそっくりの子供が楽しみだった。どうしてもその子がほしかった。しかしそこには、彼女の母性がかすかな不吉さを感じる不確かな何かがあった。
〈ヴィシュナ!〉と思考する。そしてもっと強力に、〈ヴィシュナ! わたしはペリー・ローダンの子をさずかったのよ〉
〈おめでとう、妹よ! なのにあなたは不安なの?〉
〈本当の不安じゃないわ。ただ、わたしが確かな関わりのなかにいる自信がないだけ。この子の父親については何でも知っている。でも、わたしはだれなの? いったいわたしは何、人間、それとも?〉
〈わたしなら心配なんてしないわ、ゲジル。あなたはあなたの感じるままであればいい。あなたは人間の女性。テラナーの子を宿していることは、最高の証明ではないかしら? 迷うことはないでしょう、妹よ。良き母におなりなさい〉
 ヴィシュナの最後の言葉には、何か皮肉な響きがなかったろうか? いや、おそらくは彼女も過敏なだけなのだ。
 わたしは人間の女! 自分にいいきかせる。
 そしてわたしは、ペリー・ローダンの子の母親になる!』

第3章 星に魅かれて

 ストーカーはクローン・マイゼンハルトを通し、星々への焦がれに憑かれた人々に〈エスタルトゥの十二奇蹟〉を語り、力の球形体エスタルトゥへと招く。ブルは、エスタルトゥ行きの人々を統合し、ヴィールス船集合体《エクスプローラー》を築く。ロワ・ダントンは新自由商人を集め《ラヴリー・ボシック》で市場開拓へむかうという。だが、そんななかテケナーだけはストーカーへの露骨な疑いを抑えされなかった。ストーカーは〈警告者〉。行方不明の《ツナミ》について、言葉以上のことを知っているにちがいない。
 そして〈それ〉の予言――

「人類と銀河種族は、わたしと、コスモクラートのへその緒を断ち切るべき時に来ている。きみたちはわたしの力の球形体を離れ、〈銀河帝国(ギャラクティカム)〉を形成することになる」

 そしてもうひとつ、

「エデンIIは、人がそれを探すところにある。すべての道はエデンIIへ通じる」

 ヴィールス船に乗る者たち――ヴィーロノートたちは次々と発進していく。あるものは局所銀河群の島宇宙へ、あるものはエスタルトゥへ、カピンのグルエルフィン銀河へ、M−87へ、ナウパウムへ、そしてまたあるものはエデンIIをもとめて。
 ギャラクティカーは宇宙の深淵へ飛び出していく。それはかれらの意志か、それとも……それでもかれらは行く。遙かな星の魅惑にしたがって。

 スリマフォは自分のヴィールス船を持とうと、最後にふたつ残ったヴィール雲に呼びかける。だが、ヴィールス雲は「わたしは別の者を待っている」と答えた。いったいだれを?

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『エスタルトゥへの道』を行く/2

「Fernweh ist Sternweh!!『あこがれは星にこがれる』。名文句だねェ」
「いにしえのスターダスト時代が思い出されて」
「そう『トーラっちゃん、愛してるよっ!』なんてローダンがなつかしい今日このごろ……ああ」
「問題発言ですよ」
「ま、ゲジルは登場したときからもう赤マルつきのヴルチェク・キャラだけど、あそこまで言うと角が立つ」
「でも、ヴルチェクもけっこうチーム加入おそいし、トーラもモリーも死んじゃってから読みはじめた読者もまた多いんでしょう」
「おいおい、わたしの好きなオラナはどこいった?」
「……さて、そのヴルチェクの送り出した新キャラ、舌先三寸のストーカー」
「ついつい『あきんど言葉』で台詞を訳してしまいたくなる」
「本名ソト・タル・ケル、テラ風発音でストーカー。忍び寄るもの、と言えば聞こえはいいけど、密猟者とか気取り屋とか」
「気取り屋! ぴったし。ほら、故郷のエスタルトゥを語るにも『かのアストライアのいますところ……』てな具合にギリシア神話をひねってしゃべりつづけるもんだから、さすがのレポーター、あのマイゼンハルトでさえマイクを取り上げてしまう」
「おかげで例の奇蹟について7つまでしかわからない」
「エレンデュラのエリュジウム・リング、ジオン・ゾムの紋章の門、シューフの興奮の商人、ジュラーガルの歌うモジュールの輪舞、ムウンの失われたヘスペリデスの贈り物、トロフェノールのオルフェウス迷宮を抜けるカリュドーンの狩り、アプザンタ=ゴムの災いを告げる蜉蝣……あちゃ!!」
「舌を噛みそな早口言葉。でもって、原書を読んでいるとギリシア神話にくわしくなるという妙な現象が」
「識者のあいだで広がってたりする――職業病に近いね」
「しかも〈警告者〉の一件もありますし」
「あの時はアダムスがかばったから正体はバレなかったけど、また同じシンボルの服を着て人前に出てはばからないとか、納得ずくのプロモートみたいで嫌いだ」
「唯一の救いは、あの探索行の途中で美少女スリマフォも再登場したことで。ただファンには残念なことにすっかりおば……成長してましたけど、ね」

第2部 幽閉された世界 / Eine Welt unter Quaranta"ne

第4章 荒れはてた楽園

 3月1日。レジナルド・ブルの《エクスプローラー》はテラを旅立った。目標はエスタルトゥ十二銀河のひとつエレンデュラ。そこに十二奇蹟の一〈エリュジウム・リング〉が待っているのだ。
 《エクスプローラー》は、1600隻のセグメントが結合したヴィールス船集合体。およそ6万のヴィーロノートが搭乗している。統一的執行機関が存在せず、あるいはアナーキーとも見えよう。
 おとめ座銀河団に接近した3月23日、Seg−1411《ホイゼン》他300のセグメントと1万のヴィーロノートが道を分かち、グルエルフィンへむかう。29日には、テケナーの《ラシャト》、ロワの《ラヴリー・ボシック》もまた別行動をとり、《エクスプローラー》は単独でエレンデュラへ到着する。
 エリュジウム・リング――ブルたちの目前に輝く惑星は、23本の環をもっていた。23本! 自然に安定するはずがない。しかもそれは800年まえまでは衛星だったらしく、惑星自体数十年まえ起こった核戦争で死の世界と化していた。
 ホロコーストと名づけた惑星から発する重力波を探た。知したブルは、リングを制御する存在をもとめ着陸。そこで出会った“監視者”エルファド人クルール。だがかれは、“戦士のシンボル”をもつものを攻撃してしまったと自害する。シンボル? かれは、ブルがストーカーから贈与された力の球形体通行許可証パーミットを見てそう言ったのだ。
 クルールから得た座標にしたがい、惑星クロレオンをめざした《エクスプローラー》。セグメント30隻で、エリュジウム・リングのめぐるこの惑星に降下したブルは、惑星を包む隔離スクリーンの存在を知る。セグメントもいまや虜。荒廃した惑星からの通信が、
かれらをむかえる――

「その身体は戦士のシンボルをつけている」
「この身体は〈最後の会戦〉の準備ができている……」

第5章 クロレオン

 ブルからの呼びかけは、クロレオン人に完璧に無視された。かれらはブルのことを戦士か、その使者と断定しているらしい。
 ヴィールス船の知性ヴィが傍受した通信から導き出されたクロレオン文明は、ヴィーロノートたちを驚愕させた。クロレオン人は種族総体を“身体”と呼び、個々は“細胞”として働くクローンなのだ。
 そしてかれらは、5000年まえにかれらを幽閉した、〈戦士〉カルマーとの〈最後の会戦〉にそなえ“身体”を強化しつづけてきたのである。
 スクリーンの外にある《エクスプローラー》は、星系内にひそむ植民クロレオン人艦隊を発見。同時に艦内でも、身分を匿していたハンザ・スペシャリスト、ドラン・マインスターが《エクスプローラー》の指揮権を掌握しようと動き出す。
 一方ブルは、クロレオン三頭統治者〈意識〉のもとへたどりつく。だが、かれらの記録保管所の頭脳はブルを戦士と断言。〈意識〉のコントロールすら離れて特殊クローン兵士を製造しはじめる。混乱する事態に同盟を結んだブルと〈意識〉は、到着した植民クロレオン人たちとクローン施設の島へむかう。
 ステーションのロボットに攻撃をうけたブルは、パーミットを手袋のように左手にはめ、かざした。クルールに対してそのしめした効果を思い出したのだ。うそのように攻撃はやみ、隔離スクリーンも消滅した。
 だが、それで終わりではなかった。植民クロレオン人は味方ではなかったのだ! そしてブルたちのまえで地下ブンカーの扉が開き、ひとつの姿があらわれる。
 それはエルファド人。かれはブルにむかって、

「ヴォルカイルは御印を認めました、わが君。〈最後の会戦〉のそなえはできております」

第6章 最後の会戦

 Seg−1234《アハターデック》は、エレンデュラに伝わる“放浪する植物”コマンザタラの物語を追ってクロレオン人の植民惑星のひとつシクラウンにたどりついた。そこでかれらは、5000年のあいだに本末転倒して、〈永遠の戦士〉崇拝を築きあげてしまった軍事社会を発見する。
 一方、エルファド人ヴォルカイルの出現で、クロレオンは新たな展開をむかえていた。まさにカルマーの配下が〈最後の会戦〉のためあらわれたのだ。
 そしてブルは植民クロレオン人に熱狂をもってむかえられる。〈戦士のこぶし〉をもつかれこそが、〈最後の会戦〉の指揮をとるのだ。
 そして、ブルはいつのまにか、〈戦士のこぶし〉の影響下に置かれていた。かれは〈永遠の戦士〉……
 かれの指揮下惑星攻撃を開始した植民クロレオン人は、戦士クローンを次々に打ち破っていく。そのころ、支配者の座を追われた〈意識〉がひとつの決断を下していた。〈最後の会戦〉を回避するのはすでに不可能。ならば勝つのはわれわれだ、と。
 5000年のあいだに準備され、強化されつづけた武器庫が開かれたのだ。遺伝子操作で生み出された、宇宙空間でさえ戦闘可能な様々な特殊クローンたち。かれらが戦列へ配置され、〈最後の会戦〉の秒読みははじまった。
 おなじころ、無秩序な《エクスプローラー》奪取をあきらめ、生き残るためヴォルカイルに下ろうとするドラン・マインスターら4人のハンザ・スペシャリストはブンカーの島へ到着した。かれらをうけいれたエルファド人は、開戦まであと数秒のところで布告する。
「〈最後の会戦〉は終わった」
 戦士カルマーの目的は達せられたのだ。クロレオン人の名誉は回復され、カルマーの帝国へむかえいれられるのだ。
 やがてひとり残った、〈こぶし〉の魔力から解放されたブルに対しヴォルカイルが言う。

「永遠の戦士の帝国の、さらなる奇蹟をも経めぐらんことを期待する」

 永遠の戦士とは何者? 〈最後の会戦〉の目的とは何だったのだ? 多くの謎を抱えて《エクスプローラー》へもどったかれを待っていたのは、数ヵ月まえ道を分かった《ラシャト》からの救難信号入電、の報であった。かれは意を固め、ストーカーのパーミット、戦士のこぶしを恒星ヴァーゴ・ドアへと投げ捨て、友の救出に進発する。

ストーカーは、力の球形体エスタルトゥを楽園と叙述した。ブルの胸には、エスタルトゥの使節への疑念が蘇っていた。

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『エスタルトゥへの道』を行く/3

「《エクスプローラー》ってのは、一言でいっちゃうと“雑居船”なんだよね」
「束縛されるのが嫌いで、超個性的なメンバーがそろってますもんね。でも、科学者だけなんて場合、操縦どうしてるんでしょうか?」
「ヴィールス船の知性、愛称ヴィーが勝手にやってくれる。ほとんど『おい、キット』『なんでしょう、マイケル』の世界。実際便利だろうな」
「そのかわり、船を動かすという統一行動がなくて暇なもんだから色々勝手なことをする連中がたくさんいるわけですね」
「マインスターみたいな、アダムスのスパイも結構いっぱいいるんじゃないかな。ほんと、ブルも言ってるけど、戦いになったら弱いだろうなァ」
「〈最後の会戦〉みたいに」
「そうそう、あれはよそで勝手に進めてくれたからよかったようなもんでさ」
「でも、あの〈最後の会戦〉って結局なんだったんですか? はじまるまえに終わってしまって」
「あれはさ、クロレオン人が5000年のあいだに発達させた戦争のための技術が戦士カルマーの兵士として認められた、ということだと思う。つまり隔離スクリーンを張って逃げられなくしておいて、来るぞ、襲うぞと脅迫することで強い兵士を養成しようという……」
「いじけちゃう種族もいるでしょうね」
「そうして強くなれないと……」
「最後の会戦でばっさり」
「陰湿つっ!! ひどいじゃないですか」
「軍国主義とかって、つまるところそんなもんだね」
「……うーん、さてさて、ところでヴィールス船の速度ってどのくらい凄いわけですか?」
「5億光速」
「あれ? ディメトランス駆動なんかの方が速いんじゃ……」
「それでもメタグラヴ駆動より10倍は速い。実際むかしの技術の方が優れてた所もある――実は作家チームのあいだで、舞台が広がりすぎるのはマズイって話があったらしい」
「でも、エネルプシ駆動の航続距離は事実上無限って言ってますよ、これ」
「なんか裏がある。実を言うと、なんとエスタルトゥでは大昔からだれでもエネルプシを使ってる!! つまり、それほどの超々技術じゃあないんだよ」

解説 : おとめ座への招き

ストーカー
ヴィールス船
クロレオンのオーガン社会
ヴォルカイル
戦士の法典

第3部 エデンII / EDEN II

第7章 エデンへの道

 星々への焦がれに導かれ、ヴィーロノートたちは宇宙に散った。そのなかに、〈それ〉の力の球形体の精神的中心――最後のクロノフォシル・エデンIIをもとめる者たちがあった。かれらは思い思いの道をとり、〈それ〉の本星を探していた。なぜなら、〈それ〉は言った、エデンIIは人がそれを探すところにある。そして、すべての道はエデンIIへ通ずる、と。だが、かれらの道はそのまえに、謎の老人、導師マグス・コヤニスカッチへと通じていた。
 そして、その宙域のそばに、ふたりの異人がいた。シャドウ・ジェベリンとその妹バンシェローム。ヴィーロノートとコンタクトを取ろうと試みるふたりは、自分たちの存在にどこかおかしなものを感じていた。
 おなじころ、やはりエデンII探索に出発したローダンの《バジス》は、最後のポルライターたちの隠遁地ニュー・モラガン・ポルト五惑星要塞を訪れていた。ここアエテラン星系の超種族なら、エデンIIのポジションを知っているかもしれない。
 しかし、ポルライターも〈それ〉の中央星の場所を知らなかった。そのかわり、クロノフォシル活性化を妨害するにちがいないエレメントの支配者に唯一対抗しうるデヴォリューション三要素兵器の、ゼクスタゴニウム製の槍を譲与され、またエデンIIのポジションを知っているかもしれぬ存在の居場所を聞かされる。
 炉座の賢者。直径7000光年の小銀河フォルナクス系では、奇妙な生命が育っていた。ノクターン。宇宙をただよう5次元震動水晶の膜。それはやがて惑星上に水晶の塔として定着し、知性を発達させる。その最長老、1400万年を生きたという炉座の賢者。かれはテラナーの問いに謎の答えをもらす。

「力の球形体の精神的中心はあらゆる場所に存在し、だれもがそのかけらを有している。そしてそれがあらゆる場所に存在することを理解した瞬間そこへ到達するだろう」

 かくて《バジス》では瞑想がはじまった。ノクターンの分泌するプシ物質パラタウの力をも用い、かれらはエデンIIを思い浮かべた。と――《バジス》は金色の、宇宙をつらぬくプシオン網を通じ、銀色の光の海に跳躍した。そして、そこにある〈それ〉の力の球形体の中心、エデンIIへ!

第8章 力の球形体の中心で

 エデンIIへたどりついた! しかし、よろこぶ間もなく、ハミラー・チューブが警報を発する。20隻の船が出現したのだ。ヴィーロノートか――そう思ったときには遅かった。マグス・コヤニスカッチ=エレメントの支配者がヴィーロノートの精神の力を借りてエデンIIにあらわれたのだ! ヴィールス船が変換された〈負のプシ〉は、ローダンら《バジス》乗員ばかりか、超知性体〈それ〉の行動力まで奪ったのである。
 すべてが麻痺した《バジス》で、ただひとり覚醒した存在、ゲジル。胎内の子供の力なのだ。一瞬恐怖した彼女に、ひとつの声が語りかける――あなたの子供にはとてつもない能力がある。それでも普通の子。わたしがそれを媒介にしてあなたを助けただけ……
 つかの間の接触がだれからのものか、ゲジルには知るよしもなかった。それは、本来の自我をとりもどしたシャドウとバンシェ――深淵の地から消えたギッフィ・マラウダーとバス=テトのイルーナ。謎に満ちたアコン人女性のゼロドリーム能力であった。
 自由になったゲジルは、デヴォリューション兵器、ゼクスタゴニムの槍を手にエデンIIへ下りる。そこは地獄だった。〈それ〉から分離したコンセプトたちが負のプシの魔力に引き寄せられ、呑みこまれていく。かろうじて自由な――それも胎児の力で――コンセプトを案内に、ゲジルは中央都市をめざす。エレメントの支配者もそこにあらわれるはず。
 そして出現したコヤニスカッチとの対決。戦意をうしないかけるゲジル。だが――いまだ生まれざる子の力は負の球体の支配者さえも凌駕するのか? 危ういところで自我をたもちえた彼女の目に映ったのは、目もくらむ閃光のなか槍と融合したエレメントの支配者の姿だった。光が消えたとき、そこには何もなかった。
 覚醒した〈それ〉は、ささやかな感謝の印として、かつてオヴァロンのものであった細胞活性装置をゲジルに贈る。彼女はそれを、ローダンにすら秘密にし、将来生まれる自分の“娘”に与える心づもりだった。
 〈それ〉はさらに、自分には6ヵ月の休養が必要、それが過ぎるまで決してエデンIIを活性化してはならないと警告。だが、《バジス》にもどったゲジルの言葉をローダンはうけつけなかった。タウレクやヴィシュナの諌めにも耳をかさぬ夫に、ゲジルはひとりテラ
へもどると宣言。彼女に胎児が語りかける。パラタウ――それが地球への近道だというのだ。パラタウは手のなかで溶け――彼女はテラにいた。

彼女をむかえたのは、遠く囁くような呼び声であった。彼女はそれにしたがう。ヴィールス雲のひとつが舞いおり、船を形成した。彼女はそれで旅立った……

 4月8日、ローダンはエデンII活性化を強行した。そして、かれは《バジス》から消滅した……

第9章 デヴォリューション

 エレメントの支配者は、退行現象に陥っていた。ポルライターのデヴォリューション兵器のせい。唯一の打開策は、アエテラン星系にある残り二要素を破壊すること。そのとき、かれは自分のうちに異質な存在が覚醒したことに気づく。運命の皮肉か――その共生体はペリー・ローダン!
 かつての太古種族ヴ・アウペルティアの精神集合体は一個人並みの能力に退行していた。潜在的同盟者と選んだストーカーにかれは呼びかける。

「わたしがカオタークとしての力をとりもどしたら、おまえらの望む〈永劫の闘争〉のためにこんな力の球形体の10個でもくれてやる」

 協力の約束をとりつけ、テラへむかったかれは、しかしストーカーの通報により最後の基地《ラーガー》が破壊されたことを知る。裏切り者!
 復讐の道をもとめるストーカーは、8月15日にストーカーがウパニシャド――エスタルトゥの生命の哲学を教える学校――を、エベレストの頂上に開設することを知り、その創立式典に潜入をはかる……
 復讐は失敗。しかも、退行をつづけるエレメントの支配者は、利用したはずのテラナー女性シーラ・ロガルドと恋に落ちてしまう。やがてかれは細胞の一粒にまで退行、死をむかえた。
 ローダンは、ヴ・アウペルティアが消滅するとき、自分も死ぬのだ、と思った。しかし、気がつくとかれは宇宙のプシオン網と結合していた。そして究極の第三の謎の解答は、かれの手のとどくところにあった。――結合はとだえ、解答はふたたび抽象的概念にもどる。そのとき、コンタクトが生じた。

「わたしときみは旧い友。われわれのもとへ来たまえ。モラル・コードの修復なったとき、もう一度訊きにくる」

 〈それ〉の助けでエデンIIは活性化された。ローダンのまえには、深淵への長い道のりが待っている……

<<1258−1262

『エスタルトゥへの道』を行く/4

「合掌」
「黙祷」
「アーメン」
「哀れなエレメントの支配者。なんでも、デヴォリューションを止める手段はなかったとか」
「すべて無駄な努力だったわけ。赦せんのはストーカーじゃ。腹黒くって、んで舌は何枚あるんだろ」
「『わたしはみんなのお友達』ですか。で、裏切るんだもんなァ。こんなストーカーが薦める〈永劫の闘争〉って、いったいなんでしょう」
「永遠の戦士の宗教、だそうだ。怪しい怪しい」
「もひとつ怪しい……不思議だったんですけど、カオタークって物質の沼がさらにネガティヴに進化したものじゃなかったんですね」
「カオタークがネガティヴ進化をつづけたものが物質の沼。ま、これ以上どう進化するのかわからんけど」
「コスモクラートが物質の泉のさらに進化したものでしょう。バランスとれないのとちがいますか」
「まあ、まだまだ真相は闇のなか。てなとこで……もっと不思議なのは、宇宙の秩序に貢献しないと超知性体になれないというアレね」
「時空エンジニアもそういうことでしたね。失敗したから超知性体になれなかった」
「ちょっとこれまでPRSに出てきた超知性体挙げてみようか? 〈それ〉、反それ、テルムの女帝、バルディオク、ゼト=アポフィス、そしてエスタルトゥ」
「あのー……その、貢献したっていうのは」
「いないみたい。バルディオクなんか逆に宇宙の秩序にかなりの悪影響を与えてるのに超知性体を“やってる”」
「コスモクラートの虚言癖か、はたまたヴルチェク&ツィークラーの発案なんでしょうか」
「産みの苦しみ。うーん、ということで、あの赤ちゃんもすごい。本気で超知性体より強そう」
「末恐ろしいですね。そして、あの子が生まれることが発表されたのは1251話。エスタルトゥ話のはじまりですか。結局、典型的なヴルチェクのノリ……」
「つまり、ローダンのストーリーが高尚を旨とするフォルツから離れはじめたんではなかろか」
「はあ」
「最近、夫婦喧嘩の話ばかりでね……ひそかにマイホーム・ローダン路線じゃないかと疑ってるんだ!!」

解説 : 奇妙な生命体

炉座の賢者
パラタウ
ギッフィ・マラウダー
バス=テトのイルーナ
ヴ・アウペルティア

WEG NACH ESTARTU / エスタルトゥへの道
1988/7/15 r.psytoh with y.wakabayashi
produced by rlmdi