II 永遠の戦士 / Die Ewigen Krieger

『エレンデュラのエリュジウム・リング
 宇宙を放浪する者よ、おとめ座に導かれて行け。そこは鉄の時代の初めに大地を離れて星々のもとへ去った正義の女神アストライアのいますところ。古代ギリシア人が、その星の神話を考え出し、それによってかれらの神々とその子らを、かれらの支配者とその一族を星々のなかへ移しはじめたころ、乙女の星座の命名のおりにエスタルトゥにも思いいたったかもしれぬ。
 星々の呼ぶギャラクティカーよ。おとめ座銀河団に翔ぶ際、多くの銀河に惑わされてはいけない。NGC4649、メシエ・カタログNo.60の銀河にむかうのだ。それはエレンデュラ、超知性体エスタルトゥの膝元に発し、その守護の内にある12の銀河のひとつ。エレンデュラは最大直径4万8000光年の一小銀河だが、同時に膨大な質量をも持つ。その内部では恒星や恒星系が非常に密に存在し、中央凝集体の周囲では信じられぬほどの密度でひしめいている。
 ここにきみはエスタルトゥ第一の奇蹟を見る。それがこれ、エリュジウム・リング。そしてきみは、それをエレンデュラのいたるところでみつける。この英雄的行動の記念碑、エスタルトゥに仕えてこの後援者に栄誉と尊敬を得さしめる助けをなした者たちの偉大さと力の証を。
 きみはエリュジウム・リングを取るに足りぬ星系で発見する。それは、その偉大な時代がとうのむかしに通りすぎてしまった者たちの惑星、その文化のすでに衰退してしまった惑星をめぐっている。しかし、それはまた、その文明がより高次のものへむけて努力をつづけている惑星をも囲っているのだ。ひとつのリングしかもたぬ惑星もあれば、もっと多くを有する惑星もある。そして、いくつかは途方もない数のリングをそなえている。
 それから、惑星ではなく、多くの小惑星ベルトからなるエリュジウム・リングのみが軌道をめぐっている恒星もある。
 さらに、数多くの惑星と、おなじく無数の小惑星リングをもつ星系も、だ。惑星は衛星をもち、かてて加えてエリュジウム・リングによって装飾されている。なんと壮麗な光景! 奇蹟に富む宇宙の、ここだけのものなのだ。
 行け、星々に酔うギャラクティカーよ。そして、自身の目で見るのだ、エスタルトゥ第一の奇蹟を。』

第4部 エリュジウム・リング / Die Elysischen Ringe

第10章 パーミット

 ロナルド・テケナーをリーダーとする《ラシャト》は、〈警告者〉事件のおり失跡した《ツナミ》2隻のシュプールをもとめていた。だが、ストーカーが《ツナミ114》の残骸を発見したという宙域では何も発見できなかった。と、一隻の宇宙船が接近してくる。
 その船《カントレリー》の主は、シャバル人ロンガスク、戦士カルマーの〈供〉のひとりと名乗った。かれはヴィーロノートたちのことを、ゴリム、すなわちエスタルトゥの支配的言語ソタルクで“異人”と呼んだ。実はかれは、カルマー公認の略奪者の先駆けであった。
 テケナーは強引に宙賊のふところへ突進。そこでかれらはほとんど原形をなさぬ《ツナミ113》を発見する。さらに、略奪者クロスカートは、テケナーの左手の“戦士の挑戦の手袋”に平服する。テケナーはストーカーのパーミットの真の姿を知ったのである。
 クロスカートはエスタルトゥもストーカーの名も知らなかった。だが、《ツナミ》乗員がエルファド人メリオウンに連行されたこと、カルマーが近くセポル星系にあらわれることを語る。
 8つの惑星をもつ脈動星セポルに到着した《ラシャト》は、近づく33の艦隊を探知。第2惑星ナガスの衛星の数も33。カルマーがエリュジウム・リングをまたひとつ創造するためにあらわれたのだ。
 と、そのとき、突如出現したヴォルカイルの艦に攻撃をうけ、《ラシャト》はナガスへと墜落していった……

一方、ロワの《ラヴリー・ボシック》は5月、エレンデュラ中央部カトン人の百太陽帝国に逗留していた。シガ人のハンザ・スペシャリスト2名に操られたアンドロイド、ジョー・ポリナイゼ事件を克服したロワは、パーミットの効果を知り、また、ウパニシャドの卒業生エデュム・ヴァルソンが“ソト”の名を知っていることが明らかになる。その名は、唯一の英雄の再来を意味するという……

第11章 キド

 イルミナ・コチストワはギリシア神話の医学の神の名をつけたヴィールス船《アスクレピオス》でグルエルフィンへむかっていた。だが、途中の小銀河で生命反応を発見、氷雪惑星マグハラへ降りる。
 その地下の住人は、謎の神キドの支配下にあった。そして謎のプシ波による突然変異の影響下に。キド神の司祭の妨害をしりぞけ、プシ波の源をつきとめる。そこはキド神殿。神殿とは、難破船であった。キドはおそらくその乗員だったのだろう。やはり病的な突然変異を起こしているキドから、健全な細胞を採取したイルミナは、病根キド神殿を破壊する。
 エレンデュラへむかう途上、クローニングで再生したキドは、ストーカーの付人スコルシュによく似ていた。尻尾はなかったが。
 シュプールをたどってセポル星系に到着したふたりの前には、巨大な〈供〉の艦隊が広がっていた。かれらはセポルの縮小期が終わるのを待っているのだ。
 と、エルファド人ヴォルカイルの船がそこを離れて銀河中央部へむかいだした。イルミナはそれを追跡する。エルファド人は惑星ウアダランで“法典充填”をおこなうという。イルミナとキドは施設に潜入、〈法典分子〉とでも言うべきものを発見する。しかし監視システムに発見され、急ぎ脱出。《ラシャト》の救難信号を聞いて駆けつけた《エクスプローラー》、《ラヴリー・ボシック》と合流する。

数日後、キドは、ありもしない“尻尾”が痛む、としきりにくりかえすのだった……

第12章 供の艦隊

 レジナルド・ブルはひとり《エクスプローラー》を離れ、戦士カルマーの供の艦隊へ。直径30キロの球体へもぐりこんだかれは、〈エリュジウム〉のシュプールをつかむ。ホワルゴニウムを賄賂がわりに、フォームエネルギー製の観楽宮エリュジウムへ潜入する。そしてブリーは、エルファド人メリオウンと戦士カルマーの通信からひとつの事実を知る。カルマーは、ナガスにいる! だがかれは、さらにホワルゴニウムを欲するエリュジウムの主人に囚われてしまう……
 おなじころイルミナたちは、ロワのパーミット所持者としての権利を行使して、リング・エンジニアからエリュジウム・リングの製法を聞き出していた。ところがイルミナが不意に中座する。ヴォルカイルが追ってきたのだ!
 1隻の巨船を避難所に選んだイルミナとキドは、その船が実は生命体であることを発見。その病を治した代償としてエリュジウムへの退避を提供される。だがヴォルカイルは執拗に追跡してくる。
 ブルとイルミナが再会したときには、ヴォルカイルはエリュジウムを破壊しながら進撃してきていた。ついにエルファド人がふたりに追いついたとき、もうひとりの鎧姿の存在がヴォルカイルを諌める。メリオウンだ。ヴォルカイルは、失った名誉を回復するため“競技の惑星”マルダカーンへ行かねばならぬ、と。

第13章 嵐の39日

 ナガスに不時着した《ラシャト》。1ヵ月以上つづくハイパー嵐のあいだ、外部との連絡は不可能。だが、搭載挺で出動していたパテュシア・バールとロンガスクがイグアノドンに似たナガス人の一派オグホル氏族の次期族長ヴァイカスと友好を築いていたため、安んじて船の修理に努めることができた。
 ナガス人には3つの派閥がある。オグホル氏族のような草食の共生ナガス人。好戦的な寄生ナガス人。生きる目的をもたぬ厭世ナガス人。3つの道……
 テケナーはナガス人の案内で、永遠の戦士カルマーによって建設されたという施設を発見。そこから修理に必要な資材を得る。やがてみつかった“神殿”には入れなかった。この世界にはエルファド人と、もうひとつ、まだ足りないものがある、と。
 《ラシャト》の修理は完了し、セポルの脈動縮小期も終わりに近づいた。3種のナガス人の友好化も進み、すべてオーケイに見えた。ところが……
 突如あらわれた、夜空を突く戦士カルマーの映像。弱肉強食を呼びかけるかれに、それを闘神とあがめる寄生ナガス人たちから、殺し合いがはじまった。
 《ラシャト》脱出後、まもなく33の衛星はエリュジウム・リングとなった。ナガスは隔離スクリーンに覆われ、戦士カルマーの船は混沌のなかどこへともなく去っていく。
 3隻のヴィールス船は合流し、ジオン・ゾム銀河へむかうことを決定する。そこには、ヴォルカイルの赴いた競技の惑星マルダカーンもある。テケナーも、メリオウンがナガスで長い待機に入ってしまった以上、ロンガスクがかの銀河に存在すると語る〈ゴリム=ステーション〉でしか《ツナミ》乗員のシュプールはつかみ得まい。
 ナガスは、永劫の闘争のため時が満ちるまで、長い隔離の時代に入った……

6月15日。Seg−144《ペンドルム》が銀河系へ発進。だが、報告がとどくことはなかった。

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『エスタルトゥへの道』を行く/5

「さて、エスタルトゥですね」
「エスタルトゥだね……盛り上がるわりにちんぷんかんぷん、てところか」
「要するに、ストーカーが大宇宙の奇蹟に満ちた平和な楽園っぽく話したわりに、その実体は暴力と闘争の荒野であった、ということでしょう。〈永劫の闘争〉というのが信奉されていて。まあ簡単には、弱肉強食の世界、戦いこそわが命」
「穏和そうなふりをしてるストーカーも時々くわっと下あごをつき出してなんともいえない凶悪な形相になるし」
「エルファド人や戦士は鎧兜をじゃらじゃら鳴らして闊歩するし、殿様に刀をむけたと言って自害する奴までいる。なんか、いやですね」
「西欧人の発想かなぁ。ギリシアを窓口にして、話がぱーっと東洋の雰囲気を持ちはじめた――考えてみれば、『世界樹』プシオン機構、その根元の『泉』、小人職人の『深淵』地下世界、『片目のタウレク』なんて描写もあって、以前はけっこう北欧神話的だった」
「十戒の支配者がエデンで滅亡の道を歩み……アポフィス、ハトルなんかはエジプト神ですもん」
「ヴィシュヌとシヴァだってある……うーん、話を変えよう。象徴おっかけてたらきりないし」
「で、鎧武者のエルファド人ですけど、仕事熱心な忠誠心あついヴォルカイルなんて5000年がかりで仕事してますよ。超長期計画ですね」
「エリュジウム・リング!! 馬鹿にして読んでたけど、考えてみればコワイわな。5000年といえば何世代交代してるかわかんない。その間ずーっとお空にはリングがかかり、自分がこの惑星に閉じこめられてるのを肌で感じて、思いしらされる。しかも、ド派手なキンキンキラキラで、心理効果も盛大だろ」
「いじめ、陰湿、崇拝の強要――ですもんね」
「戦士さまとお言いっ!!――の世界だなァ」
「謎の東洋人ですか、永遠の戦士の正体は……」

第5部 トリークレ−9帰還 / TRIICLE-9 kehrt zuru"ck

第14章 救済のプラン

 《ソル》――長い旅ののち故郷テラへもどった巨船は、ルナでのオーヴァーホールを終えると、ふたたび旅路についた。無限艦隊に随行して深淵へと。その途上、司令官ブレザー・ファドンのまえにゾルゴル人カルフェシュが出現。かれは、《ソル》への任務を携えてきたのだ。
 かねて知られたように、深淵坑道はスタルゼン上方に位置する。しかしフロストルービンが本来の在所にもどるためには、そのアンカーである〈創造の山〉の真上に新しい坑道を建設する必要があるのだ。ソラナーたちは、検討の末、その任務を受託した。
 指定のポジションで、《ソル》は未知の艦隊にむかえられる。その妨害をかいくぐり、ソラナーたちは新しい次元坑道を開くことに成功。辛くも逃走する。
 429年6月1日、《ソル》は終わりなき旅に出た。大宇宙の深淵をめざし、コスモクラートの委託をうけて……
 ――その少しまえ、影の感化力の支配下に落ちた深淵の地では、時空エンジニアの委託をうけたアトランたちが、深淵種族救済の計画を実行に移していた。見かけだけ影の生命となったアトランとイェン・サリクは影のロードたちを統べる〈影の上帝〉たちに混ざり、近づくフロストルービン帰還のため崩壊をはじめた深淵の地脱出の計を練る。6月にはスタルゼンが消滅。破局は駆け足で接近しつつあった。
 9月30日、ついにフロストルービンが帰還する! 影の生命たちは、アトランの――実は時空エンジニアが――提案した深淵脱出を敢行。だがそのとき、崩壊したはずの生命エネルギーの源ヴァゲンダの力がかれらを包む。影の終焉が到来したのだ。
 転送機ドームからなる15万の“救済の島々”は、崩れ落ちる深淵の地から、通常宇宙へと流出していった……
 救済計画は成功したのだ。

第15章 創造の山

 トリークレ−9は本来のポジションの宙域で待機している。アンカー、〈創造の山〉が活性化されるのを。そして無限艦隊も待っている。本来の任務――モラル・コードをなすコスモヌクレオチドの監視にもどる瞬間を。
 やがて《バジス》が到着する。宇宙プシオン網の上を跳躍して、エデンIIから瞬くうちに。タウレクがローダンに言う、モラル・コードを調整せよ、そして第三の究極の謎の解答を手に入れるのだ……
 ただひとり、崩壊しつつある深淵の地に降りたローダンは、そこで謎の〈無の勢力〉、熱力学第二法則の守護女シ・キトゥなる存在の妨害をうける。かれを救ったのは、《バジス》乗員、謎に満ちたパラ現実学者サトー・アンブッシュだった。かれはローダンに、シ・キトゥのもうひとつの名を教える。カハバ――売春婦の意味をもつもうひとつの名を唱えよ。
 ローダンは〈創造の山〉に達した。真の深淵に浮かぶ巨大な構造物。その頂上に立ったとき、かれはフロストルービンを見た。かれの内から銀色の雲がわき出す。そう、いまモラル・コード修復が果たされるのだ――かれは思った。そして、大宇宙の姿を見た。

第16章 ヴィジョン

『かれはコスモヌクレオチドに接触しているプシオン場の名を知っていた。メッセンジャー。ヌクレオチド――トリークレ−9のような――のもつ情報を複製し、広大な宇宙へとはこぶ。複製プロセスのあいだにうけとったデータにしたがって目標をさだめ、大自然の宇宙プランにおいて自分が効力を発する地点へと赴くはず。そこで、複製した情報をハイパーエネルギー・フィールドの形で解放する。それがメッセンジャーの周囲と相互作用をはじめ、あらかじめプログラムされた一定の結果を実現にかかるだろう。
 驚嘆するかれの目前で、宇宙進化史の片鱗が展開された。とぎすまされた視覚は、もっとも微小な点をも見のがさぬ。かれの視野は、モラル・コードの二重螺旋につらぬかれ、群れなすメッセンジャーに満ちた大宇宙。複製された情報を満載したメッセンジャーが内包物を複雑なプロセスを経て解放するのを見た。いくつもの銀河が誕生し、消滅するのを見た。恒星数百万個に匹敵する質量をもったブラックホールの暗い淵をのぞきこんだ。星間ガスが収縮し、そのなかで原初の成分が生物組織を作り出す、濃密でにごったスープに凝集するのを見た。ついには、空間が裂けて莫大な量の物質が虚無からあふれ出てくるのをも目にした。活動中の物質の泉を見たのだ! そして、それさえもコスモヌクレオチドの蓄えるプログラムに支配されていることを理解した。
 だが、生命をもたぬものの世界での事象だけがかれの目のまえを行き過ぎたわけではない。かれは知的生物が誕生するのを見た。広大な空間を見遥かし、しかし同時に最小の単位まで知覚する。それは動揺をきたすほどの視覚方法。驚くべきは、何を見ているかだれに説明をうける必要もない。かれの内なるものが教えてくれるのだ。文明が生まれ、発達するのを見た。星間帝国が成立し、ふたたび滅亡するのを見た。
 あるできごとが、かれの注意を喚起した。星のない空間に巨大な灰色の泡の形をした、醜悪な構造物をみつける。直径は数千光年あるにちがいない。直観的にわかった。それは負の球体。かれの目にしているものは混沌の勢力の支配領域。かれがトリークレ−9として知るコスモヌクレオチドからメッセンジャーが離脱し、負の球体に突入。超次元エネルギーの鋭く集束された嵐があらわれ、灰色の泡の壁に亀裂が生じる。数千年以上におよぶであろうプロセスを目撃していることは明らか。しかし、伝えられた知らせは理解する。負の球体の最期がきたのだ。
 究極の調和の感情がかれを満たした。一時に数百万もの事象を観察したのにもかかわらず、ただひとつの混乱もうかがえなかった。逆なのだ。観察すればするほど確信できた。個々無数のできごとをつなぐ関係を感じることを。個々それぞれのプロセスは、プロセス全体と直接に結合していることを。何ひとつ孤立して起こりはしない。無意味なことなどありはしない。すべてのできごとが、ひとつの法則の顕れなのだ。
 〈法〉!
 あまりに重々しいその考えにかれは愕然とした。銀色の雲を形成する物質と融合してからかれの上になだれこんできた膨大な量の情報が、ただひとつの像を結ぶのを感じる。眼前、巨大な立体映像のなかに、その始原の力と因果とをまとった大宇宙がいかに明らかとなっていたことか。その瞬間、かれは悟った。第三の究極の謎の答えが明かされようとしている。
 かれは恐慌に襲われた。解答が近づくのを“見た”。強く寄せるうねりのようにかれの上へと転がり落ちてくる、波の形のそれを見た。ぐんぐん膨れあがる。波頭はかみそりの刃のように鋭かった。それが轟きとともに押しよせてくる。
 衝突で自分は粉砕されてしまう、そう思った。人間の精神では第三の究極の謎の答えを知ることはできない。解明を望んだことで、かれは冒涜を犯したのだ。解答を知れば、かれの脳はずたずたに引き裂かれてしまうだろう。
『〈法〉はだれが創り、何が記されているのか?』
「だめだ!」絶望の淵で叫んだ。「やめてくれ! わたしは知りたくない!」
 かれは非現実的ヴィジョンを見た。波頭の上、侏儒のような姿がただよっている。けばけばしいぼろ布でできた服をつけ、ひょろりとやせた手をかれにふっていた。服にはひとつ、穴があった。ぼろの1枚がもぎとられていたのだ。
 ヴィジョンはわずか1秒しかつづかなかった。巨大な波が高々と頭をもたげる。宇宙を根底から揺さぶる轟音とともにそれは不可視の障壁に激突し、泡状のふわふわした元素に分解して四方に飛び散った。
 みずからを容れるに足る器と思い込んでいた生物にとり、恐怖はあまりに大きすぎた。意識が拒絶反応を起こし、宇宙は暗黒のなかへ沈みこんでいった。』

第17章 反逆

 人工の太陽のまわりを人工の惑星がめぐる人工の星系――タクヌは完成した。かつて深淵の地を造るためコル銀河から奪われたエネルギーが恒星となり、影の生命の“救済の島々”がその周回軌道に入った。
 すべてを終えたアトランたちは、時空エンジニアのひとりミュゼルヒンをともない《バジス》へむかう。コスモクラートへの無数の質問をかかえて。
 そして、モラル・コード修復を終えたローダンも、また。しばしの休息のあいだに、かれは夢を見る。エデンII活性化のときあらわれた、謎の“旧友”が語りかけてくる。きみはおのれ自身の道を歩むべきときに来ている、と。
 〈法〉の謎の答えを拒絶したローダンを責めるコスモクラートは、逆にミュゼルヒンに問い詰められる。なぜ深淵の種族たちを、救済を試みもせず見殺しにしようとしたのか? またアトランは、任務を終えた上は深淵の騎士である必要もない、とせまる。答えにつまったタウレクとヴィシュナは、一旦物質の泉の彼岸へと帰還する。
 やがてもどってきたタウレクは、秩序を守るためにはモラル・コードの修復が最優先であり、深淵諸族は犠牲にせざるをえなかったと断言。反抗したレトスは腕のひとふりで聖堂惑星クラトへ送還されてしまう。
 ローダンたちは、深淵の騎士でなくとも、ポルライターのように他にもコスモクラートに仕える種族がいるではないか、と反論する。また、妻や子に会えなくなっても良いのかという脅しに、コスモクラートは善の勢力ではなかったのか、と。ヴィシュナが言う。

「善の勢力と言ったおぼえはないわ。わたしたちは“秩序の”勢力よ」

 テラに帰還する《バジス》。そこでローダンは、ゲジル失踪を知る。ふたたび従属を強要するコスモクラートからローダンを救ったのは、ストーカーだった。「隷属の時代は終わったのだ」と。そしてついにタウレクは呪いの言葉をつきつける。

「深淵の騎士よ、おまえたちは故郷の力の球形体では歓迎されぬ。おのれの愚かさを悟るまで、宇宙の深淵をさまようがいい」

 ローダンはまたも夢を見る。“旧友”が言う、わたしのもとへ来たまえ。諸君を呪いにかける騎士のオーラから解放しよう……
 429年12月24日。かつてはクリスマス・イヴとして人々が大いなる希望を抱いた日であった。きょうかれらは故郷を後にする。同行するのはアトラン、サリクの深淵の騎士たちと、かれらの友人であるグッキー、ラス・ツバイ、フェルマー・ロイド、イホ・トロト、そしてジェフリー・ワリンジャー。いつの日か、ここにふたたび帰ることはあるだろうか。ローダンは心中つぶやく。かれはこの世界、かれの故郷を愛しているのだ。

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『エスタルトゥへの道』を行く/6

「悪どいよなあ」
「コスモクラートは《ソル》をパートで、何の保証もなしに利用するし」
「アトランは“純情な”影のロードたちをだまくらかして破滅に導く。あのままだったら〈創造の山〉を押さえてるんで、何やっても影の楽勝だったのに」
「タウレクとヴィシュナは『ローダン、あんたひとりで使命をはたしなさい』とか言って結局何もしない」
「それに、ずいぶん前から言われてたとおり、ついにコスモクラートがサラ金に転向。『女房子供がどーなってもイイってんだな?』で、結局『孫子の代までたたってやるう』――ほんと、情けない」
「それで、その呪いの効果はいかほどなんです?」
「ローダンたち逃げちゃったからな。別に“みんなに嫌われる”てんじゃなく、叙任するときうけた騎士のオーラ経由でいじこじされるもの、としかわからん」
「でも、ローダン、アトランの活性装置はコスモクラート製でしょう。なんで取り上げないのかな」
「1.コスモクラートに派閥あり。2.活性装置提供者ティリュクは異端者であった、とか諸説紛々」
「話かわって、“旧友”ですが」
「M−87の中央の建設者たち、グルエルフィンのカピン――このへんは同じおとめ座銀河団だし、可能性アリ。ほら、意味ありげにオヴァロンの活性装置がでてきたしね」
「異端コスモクラート・ティリュク、とか」
「ローダンって友達おおいから」
「『われわれのもとへ来い』と『わたしのとこへ来い』がちゃんぽんで使ってあるのが泣かせますね」
「ま、メンタル・コンタクトだけでわかれってのがどだい無理な話で」
「わからないと言えば」
「〈法〉、だね。うーん、びっくり。知らぬ間にクロノフォシルなんて創ってた化物ローダンにして理解できないとは」
「答えが出せるんでしょうか」
「フォルツが死んじゃったからなァ、わからんよ。ヴルチェクとしても苦しいんでないかな。そういう抽象的なやつ得意だったツィークラーは作家チーム脱退しちゃったそうだし」
「ポスト『フォルツの〈法〉』ははたして……」
「じらすのがうまい作品ってのも、考えもんだよなあ」

第6部 異変 / Der Wende

第18章 ギャラクティカム

 429年10月24日は暑い日だった……
 クロノフォシル・テラ活性化によるギャラクティカー意識は、〈それ〉の予言にあったギャラクティカム建設を可能とした。そんななかジュリアン・ティフラーは、ひとりの女性と出会う。レリラ・ロコシャン。従兄弟のトファリーを捜しているという彼女から、ティフは銀河の転送機網が何者かに操作されていることを知る。
 かれはみずからを鍛えなおすことを決意。8月の視察以来魅惑されるものを感じていた、ストーカーのウパニシャドに入学する。第一テラナーの座すら投げうって。だが、古代ネパール語でチョモランマの名を有するエベレスト山頂に建立された英雄の学校は、ストーカーの兵士養成の場だったのだ! 気づく間もなかった。ティフは法典分子の影響下に置かれていた……
 ――おなじころ、ギャラクティカムと宇宙ハンザ同盟のあいだで緊張が高まっていた。炉座の賢者との契約にもとづき、ノクターン発達の妨害となるパラタウの採掘=除去はハンザの独占市場だった。銀河評議員の一部がそれを不満とし、帝国によるハンザのコントロールを主張しはじめたのだ。
 おりしも、炉座銀河でも事態は切迫していた。かつてパラタウ除去の契約を賢者とかわしていた三角座銀河の種族、猫に似たカルタン人があらわれたのだ。
 カルタン遠距離宇宙船《マスラ》のプロテクター、ダオ・リン・ヘイは、パラタウ=〈ヌ・ヤラの涙〉は偉大なる家系のものと主張、ハンザ商館のパラタウ・キャッチャ強奪をはかった。しかも彼女たちには、パラタウの力を借りたエスパーがいるのだ。
 しかも、カルタン人追跡を“異種族迫害”とする銀河評議員もあらわれ、新しい年の幕開けは、生まれたばかりの銀河共同体内部の動揺をともなっていた……

430年1月4日。エスタルトゥから250人以上のパニシュを乗せた船が到着する。かれらは銀河の主要惑星すべてにウパニシャドを開校するつもりでいる。そしてその船は、テレポート・システムを積んできたのだ!

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『エスタルトゥへの道』を行く/7

「レリラさんの御先祖さまパトゥリ・ロコシャンは、実は 400話台で登場してたそうだね」
「テラナー植民者の末裔カマシュ人のパトゥリ氏は太陽系帝国の工作員。他人に『なりきる』という才能の持ち主で、自分でもわかんなくなったり」
「んで、ロコシャン一族に継承されるという神像がルログ。こいつの正体がなんと、時の目と合体して姿を消したあのラッキー・ログ! だったりする」
「謎の超能力ロボットの再登場近し!! テレポート・システムにパラタウと、まさに超能力の花盛り」
「パラタウってのは、ビー玉みたいな超物体」
「半物質化したプシ・エネルギーとか、なんとも説明不足ですけどね」
「むかし、リバルド・コレッロの超能力のひとつに、超空間へ物質を投げこんでまた引きもどして……だっけな、とにかくプシ物質を作り出すってのがあってね。もっとも、粗悪なしろものだったらしくて、ただ爆弾に使ってたらしい。10グラムでTNT1000ギガトン級とというから大したもんだけど、パラタウと比べればハイオクと原油くらいちがう。間違って投げつけたりしたら、へたして敵のほうが強くなってしまうという」
「手に握るとすーっと気持ちよく溶けて、ちょーのーりきのめざめっ……使う側からしてみれば、マシュマロとかマタタビとか、そういうレベルのしろものみたいで」
「それで、猫が寄ってきた」
「カルタン人=カルタニン Kartanin っていうのは母権制、女性上位なので種族名も女性名詞。カルタン女というわけにもいかないし。まあ、猫婦人一族ってとこでしょう」
「なんで女性が強いんだろね、最近」
「空席になった第一テラナーにも女性が立候補するそうですし。ティフくんの色ボケも困ったもので、ギャラクティカムも行く末が心配」
「ギャラクティカムっていうのは、銀河評議員というのが各種族から出て、合議制で運営する。ただ、王国がキングダム、皇帝の統治する国がインペリウム=帝国だろ。ギャラクティカムはイコール“銀河人国家”なんだけど、それじゃ箔がつかない」
「それで銀河帝国ですか」
「まあ、銀河女帝国にならないよう、がんばってもらおうや」

解説 : 戦士の哲学

戦士の供
エリュジウム・リング
ウパニシャド
カルタン人

WEG NACH ESTARTU / エスタルトゥへの道
1988/7/15 r.psytoh with y.wakabayashi
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