終章 網を歩む者たち / Die Ga"nger des Netzes

『「見よ、エイレーネ、大宇宙の偉大なる奇蹟を」ウィボルトのメンタル音声が大きくなった。意識中で、太鼓をたたいたように響きわたった。「それを守ることがわれらの使命である、モラル・コードを見よ」
 不意にあたりが暗くなった。テーブルの輪郭が、左右にあった姿が――闇にとけこみ消えてしまった。そして、星が見えた。何百万という星、そしてその背景の、何十億という星からなる無数の島宇宙が。そんなことはありえない。それでも、一瞬のうちに起こったのだ。全宇宙を見た! 空間曲率にそって180億光年を眺望した。それも、ハイパーエネルギーを用いた補助手段なしで、人間の目に映るままに。最も遠い物質凝集体は、ビックバンから数億年たってようやく原始銀河を形成しはじめた、ちらちら輝く雲だ。
 ウィボルトは間をおいた。こんな壮大な展望を消化するには時間がかかることを熟知しているのだ。数分がすぎ、映像のまん中に新たな要素があらわれる。色鮮やかな、光球群。赤、緑、青、黄。視界のとどく限りの宇宙の深淵までのびる、ある渦にそって並んでいる。いや、それは2本の真珠の首飾り、2本の渦。遠く背景では、鮮明な光の糸としか見えない。逆に手前の方では真珠1個1個の違いまで楽に見てとれる。
「あれが、エイレーネ、宇宙のモラル・コードだ。その名はコスモクラートによってつけられたもの。暗示的で、適切な名ゆえ、われらもそう呼んでいる。二重螺旋にそい並ぶ真珠には、宇宙の進化のため必要な情報がたくわえられているのだ。
 われらは信ずる。宇宙の進化をおのれの愚かな利益に合わせ制御するために、モラル・コードに影響をおよぼしたり、操作する権利など、何者にもない、と」 』

『網を歩む者たち』の道を行く前に

「けっきょく1300話は『網を歩む者たち』」
「ドイツでも『エスタルトゥ』とか『ゲジルの娘』とか、読者のあいだでは諸説紛々だったようだけど」
「でも、内容はまさしく『ゲジルの娘』の物語。こっちのほうが大当たり、なんですけどね」
「英語ならアイリーン、ドイツ語ならアイレーネ。ま、昨今のギリシア語かぶれから推して『エイレーネ』が無難なところだろう」
「ゲジルも、古代ギリシアの平和の女神にちなんで、と明言してますし」
「物語はNGZ430年から動乱の15年間の歳月をおいてNGZ445年にはじまる」
「エイレーネは16歳……ですね」
「うーん、16歳、ほとんどアイドル。おカタいドイツも時代にはさからえないということか。マドンナ=トーラの当時を偲べば、なんとも世の中かわったもんだ」
「そして、ソトに蹂躪される銀河系にはエスタルトゥ第13番目の奇蹟〈ゴルディアスの結び目〉が誕生」
「凄い! 破天荒、もとい無節操なローダン世界ならでは!! 銀河核から8000光年あまりも突きだすプシオンの輝き。嘘かまことか、遠目に見えるその形は巨大なこぶし!! プシオン網を伝って銀河系に侵入しようとする者すべてを打ちすえる、という……」
「まさしく、銀河クラスのハエ叩き」
「法典分子あたりの設定もブッとんでいたけど、〈ゴルディアス〉クラスになると、もうなに考えてるのかよくわからない――あーあ、エスタルトゥには頭のネジが緩んだ奇蹟がまだ8つもあるんだよね」
「マールは惑星小説で『ダタバールのシレーヌ』っていうのを書くとか言ってますよ」
「もしかして、十二銀河の全部を本筋に書ききれないんで外伝で、なんてつもりじゃないだろうな」
「そのへんが惑星小説だけで 300巻におよぶというローダン世界。外伝小シリーズで『エスタルトゥの奇蹟』全12巻というのも不可能じゃない」
「そういうの、マールの趣味だしね」
「とはいえ『惑星小説』だって莫迦にしてばかりいられない。こんどは『テルムの女帝&バルディオク』の後日譚三部作が出るとかいう噂もありますし」
「あの超知性体カップルには幸せになってほしい」
「思い入れがありますね」
「うん、好きだね……といってもあの辺はあらすじを追っただけなんだけど」
「追っても追っても終わらない」
「掘っても掘っても根っこのさきが見えない。いつのまにか10年以上もローファンやってるけど、実感だね。今回のキトマだって、実は名前も知らなかった」
「あわてて『レキシコン』と原書をひっくりかえして――あ、こんなところにいた、ってね」
「アラスカ・シェーデレーアにしたって脇役イメージしかなかったけど、今回で再認識」
「転送機事故でカピンのぐちゃぐちゃの破片が顔に同化してるテラナー。見た人に悪影響を与えるんでいつも仮面をつけて、だからマスクマン。でも、おかげで精神のポテンシャルはあがってる、という……とんでもない人」
「フロストルービンを抜けるときにカピン・フラグメントがはずれたとか、ローランドレでどうやって失踪したとか、考えれば全部を読みとばしてたね」
「むかしのカリブソとのからみも面白そうですし」
「そういえば、ロナルド・テケナーが『アトラン』の登場人物だった事実に腰ぬかした、なんてのもあった」
「あのひとも、あばた顔で武器マニアで賭博師なんですよ――ローダンのまわりは化物ばかり」
「よくわからん超設定、掘っても掘ってもの宝さがし、まいどの化物キャラクター、そして腐った浪花節――これがあるかぎり、生涯『ローダン』から足を洗えないんだろうな、われわれ」
「銀河の奇蹟『ペリー・ローダン』――でも『銀河の奇蹟』というと、あれがありますね」
「まさしく『銀河の奇蹟』どりあん・じょーんず。ヴルチェクがむかしに書いた冗談シリーズ」
「翻訳当時、話題にもなんにもならなかったようですけど、ヴルチェクがローダン草案作家になって、なんかずーんと重みが増したようで」
「シェールの名著『宇宙船ピュルスの人々』『地球人捕虜収容所』あと『地球への追放者』、それにダールトンの『流刑の惑星』――こうした作品が初期のローダン世界に通ずることは驚くばかり。『ローダン』に持てるすべてを投入したのがよくわかる。ヴルチェクの『銀河の奇蹟』がこれからの方向づけに一役買うのはまちがいない」
「そういえば、DJ次元移動って、あれはパーソナル・テレポート・システムですよね」
「ピタゴラス宇宙、メタモルフォーゼ第四の環、麻薬づけの『不死なる女神』エスタルトゥ、とか」
「あぶないなア――あんまり考えたくないですね」

予告 : 網を歩む者たち

追放の深淵の騎士
網を歩む者たち
エイレーネ
クロッツ
銀河系
カルタン人
エスタルトゥ

WEG NACH ESTARTU / エスタルトゥへの道
1988/7/15 r.psytoh with y.wakabayashi
produced by rlmdi