I 四腕の予言者 / Der vierarmige Prophet



1. ハンガイ1143
2. サトラングの隠者
3. 銀河障壁の謎




 エスタルトゥは帰還した。

 異宇宙タルカンからの銀河転送は終了し、ハンガイはそこに住むすべての生命と共に局所銀河群にあった。

 だが、プロジェクト・メーコラーには思わぬ災いが秘められていたのだ。

 集結の地ナルナで超知性体の再生を目撃したペリー・ローダン率いる「タルカン遠征艦隊」が故郷銀河系へと帰途についたころ、はるかな宙域で破局----〈ドリフェル・ショック〉は始まった。

 そして、苦悩に満ちた、銀河系に還る長い道の緒に、人々に希望をもたらす者こそ「四腕の予言者」....



1. ハンガイ1143

 新銀河暦448年2月28日の最後のハンガイ転移以来、時空構造は根底から崩れ去るかのようだ。局所銀河群へと押し寄せるエネルギーの洪水が、高次元性の歪みとして顕れるのだ。パラ現実学者サトー・アンブッシュがつきとめたその源とは――。

ドリフェルが残余エネルギーすべてを吐き出して、この宇宙から分離したのだ!」

 ハンガイ----異宇宙のかけら。ストレンジネスの異なる物質の流入がドリフェルの許容する臨界量を超えた終着点こそ、この破局なのだ。そして、超光速で突き進む構造圧力波の一前線が13隻のタルカン遠征艦隊を捕らえた瞬間、〈それ〉の化身ベネカー・フリングは消滅した。絶望の叫びを残して。

最期だ! きみたちは二度と私に....」

 ....気づいた時、そこは光の洪水のただなかだった。報告はふたつ。ローダンとアトランのドリフェル・カプセルが消失した。そして、かれらは未知の球状星団の中心にいる----。まもなくタルカン艦隊の訪れた惑星チャッツの住人コーラは、ハウリの一族。だが、ストレンジネス・ショックで退行したかれらは、最後の六日間の哲学を「過去の遺物」として忘れ果てていた。ローダンはコーラ司祭との会話から、自分たちが停滞フィールドに囚われ、長の歳月「夜の神々」と崇められていたことを悟る。やがて算出された日付は新銀河暦1143年3月17日! かれらは一瞬のうちに695年を奪われていたのだ。

 「ドリフェル・ショック」当時《バジス》が待機していたハンガイ近傍宙域X−ドア。だが、そこには何の手がかりもない。分裂したハンガイ・カルタン人の末裔サショイ帝国の奴隷商人「IQハンター」のドル・ハランとの遭遇は、捜索隊を広大な宇宙船の墓場へと導く。《カシオペア》のハロルド・ナイマンが無数の残骸の奥底で発見した、狂えるポジトロニクス「自治領主」は、ナイマンを「《バジス》艦長」に任命した! それは、《バジス》の艦載頭脳ハミラー・チューブ。すなわち、浮遊する10万の残骸こそ、人類最大の船の末路なのだ....。

 ドル・ハランから得たデータにしたがい飛行したサンドラ系ブガクリス----往時の《バジス》副長の名はサンドラ・ブーゲアクリス!----で、ローダンらは《バジス》乗員の末裔に遭遇。山岳地帯に住む「山人」、大海に暮らす「海の民」。そして、砂漠にはトロナハエと称するハウリの子孫! かれらは原住種である凶暴なドラゴンに対抗するため、奇妙な共同社会を築いていた。やがてローダンの出会った山人氏族のひとり、コヴァ・インガード----「選ばれし者」の背に彫りこまれた刺青は、《バジス》パーツ群の座標! さらに、氏族に代々伝承される「航宙日誌」には、氏族の母サンドラの声で、ハミラーによる《バジス》分解、パニック状態で脱出した末にハンガイで遭難した模様が記録されていた。



2. サトラングの隠者

 ハミラー・チューブは警告する----。

「サヤーロンは呪われた場所! 近づく者は死の顎に落ちる。生還する者はない!」

 ドル・ハランも同様のことを語っていた。銀河系に何が起きた? そして、先行して宇宙駅ルックアウトを訪れた《TS−コルドバ》のラトバー・トスタンに、マークスはより深刻な噂を告げる。

「700年前の戦乱で、テラナーは滅んだ」

 しかし、トスタンは、過去の記録はすべて失われたと主張するメタン族が、いわゆる「保存中の伝説の語り部」なる存在について黙っていたことを知り、かれらが何かを隠していると直感する。半ば脅迫によって対面に成功したかれが目の当たりにした語り部とは----ハルト人イホ・トロトの戦闘服!

 タルカン艦隊は、生体ロボットの二百の太陽の星に到着した。しかし、そこにポスビの姿はなく、中央大プラズマさえなかった。代わりに「管理人」と自称するマゼラン星雲の獅子人間グラドたちが虚空の惑星を支配していた。その司令官からローダンは〈四腕の予言者〉の存在を聞かされる。「ペリー・ローダンは死んだ」という噂を否定する予言者に共鳴したポスビたちはこの星から旅立ち、中央大プラズマも同盟関係にあったグラドとマークスに依頼して、故郷のアンドロメダ星雲へ去ったという。ポスビの帰還を望むグラドは、後に再び現われた予言者を捕らえ、マークスに引き渡した....。

 ローダンは、初めて希望の光を感じた。700年前、M−87に向かい、消息を絶ったイホ・トロトこそ、四腕の予言者にちがいない! かれの旧友たるハルト人が、局所銀河群でローダンを捜しているのだ。

 そして、ついにタルカン艦隊は故郷に到達する。温かく、静かに輝く銀河系。しかし、そこはただひとつのハイパー電波さえ発することのない、死の世界。さらに、ハロー進入の途上で、突如人々を襲った狂気----ローダンが間一髪スイッチを切り換えて艦隊をUターンさせなければ、かれらの脳は完璧に破壊されていただろう。やがて科学者たちは、いわゆる「発狂バリア」が銀河系を包んでいることをつきとめた。量子レベルの時間遡行現象が知性体を狂わせるのだ。銀河系には入れない----人々が途方に暮れたとき、ひとつの通信が傍受された。

「こちらは〈サトラングの隠者〉。銀河系に接近するすべての宇宙航行者に警告する。この島宇宙は暗黒の力の掌中にある。それが〈障壁層〉の突破を試みるものすべての心と体を破壊するのだ。悪魔その人はテラの広間に住む....。サトラングに来たれ、共に新たな支配者たちと戦うのだ!」

 サトラング、それは球状星団M−30辺境に位置する恒星ヘロス唯一の惑星。周回軌道に達した《シマロン》は、探知を拒む「幽霊船」がバリア方向へ消え去るのを目撃。隠者から、新たな通信が----。

「奪われてしまった。わたしは死ぬ....」

 テレポートで単独降下したグッキーは、発狂バリアで精神を病んだ者のためのリハビリ・センターを発見、インターカムで「隠者」とコンタクトした。ミイラのような男は、かすれる声で叫んだ。

「グッキー! 遅かった。ロワをさがすんだ....それから、テケナーを....」

 瀕死の男を見つけ出した時、グッキーは相手が旧い友のひとりであることを悟った。かれは「活性装置を奪われ」て死の床にある....最後の思考を読み、隠者の正体を知ったイルトは言葉を失った。

 少し遅れてセンターに到着したローダンは、隠者の残した最後の通信メモを発見していた。

「わが遺産を手渡すべく待ちつづけた友は来なかった。銀河系を孤立させる〈クロノパルス・ウォール〉を突破する新発明は完成目前。それを敵の手には渡せない。施設は爆破される。もし、あとひとつ、安全なところに保管されているこの記録が友の目に触れるならば----わたしの代わりに、テラによろしくと伝えてほしい....」

 かれはジェフリー・アベル・ワリンジャー! 銀河系の新たな支配者と戦う孤独な歳月の末に非業の死を遂げた友を、ローダンは虚空に埋葬した。



3. 銀河障壁の謎

 M−30近傍に会合点「フェニックス−1」を定めたタルカン艦隊は、情報収集のため各地に散った。

 《ペルセウス》のジュリアン・ティフラーは、元宇宙ハンザ同盟拠点の、ブラックホールをめぐるポイント・シラグサを訪れた。テラから32万光年のここでは、スティギアン時代、女性エンジニアのイルー・シラグサのもと、ブラックホールを結ぶ「アインシュタイン=ローゼンの橋」の研究がなされていた。ステーションは廃墟と化していたが、21光年離れた虚空で思わぬ発見が----。カルタン人伝承者の巨船《ナルガ・サント》の5分の1が、残骸となりはて漂っていたのだ。退行した猫族とコンタクトしたティフは、巨艦が新銀河暦493年、封鎖された銀河系にコラプサー・ジャンプで到達せんと試みて失敗した事実をつかむ。当時、暴走するハウリによる戦乱もすでに下火になりつつあった。だが、銀河系では、いずこからか出現した〈カンターロ〉なる種族との熾烈な戦いがつづいていたらしい....。

 ローダンはポルライターの援助を求め、《シマロン》でM−3へ。しかし、荒廃したアエテラン系に超種族の姿はなかった。そこを管理するのは、1体のナック! 異宇宙生命体は「深淵の騎士」ローダンにポルライターの新たな隠遁地の座標を教える。だが、かれを迎えた超種族は協力を拒んだ。650年前、カンターロとの戦争に苦しむギャラクティカーは、禁断の技術を武力をもって入手せんとしてポルライターと最終的に決裂したというのだ。惑星ごと別の次元へと消える前に、昔なじみのポルライター発言者はひとつだけ示唆を残した。

「どうしても過去の真相を知りたいなら、〈過去の支柱〉の立つ場所を探したまえ。〈アムリンガルの年表〉を読むがいい!」

 《ソロング》のニッキー・フリッケルはマゼラン星雲に飛んだ。グラドの自由商業惑星アイシュラン・ホーを訪ねた一行は奇妙な噂を耳にする。

「ドロイド種族カンターロが、圧倒的技術力で局所銀河群の動乱を鎮めた」

 テラナーの末裔と名乗る男の案内でニッキーの訪れた情報屋は、四腕の予言者の情報がある、と商談を持ちかけた。ところがそれを聞いた案内人が態度を急変、ニッキーと情報屋を拉致してしまう。追跡した《ソロング》の乗員たちも、テラナーを自称していた男が実はドロイド、サイボーグであることをつきとめただけに終わった。まもなく到着した《シマロン》のローダンとグッキーの介入で、外縁惑星イッサム・ユーに囚われていたニッキーは無事救出されるが、その際「銀河系方向に」逃走する幽霊船が探知された。人々はワリンジャーの最期の言葉「銀河系の支配者たち」を思い出す。

 グラド情報屋は、一命を賭してひとつの記憶チップを死守していた。再生画面に現われたのはイホ・トロト! 見知らぬ宇宙港を背にして、かれはこう言った。

「友よ、わたしは過去の支柱をめざす!」

 さらに、「銀河系の支配者」を恐れてか沈黙をつづけるグラド指導部からも、ひとりの地方豪族が、先祖からの伝承をもたらした。

「ある侵入者が銀河系を封鎖しつつある」

 650年前のマゼランで、そう警告しつづけた者がいたというのだ。その男の名は、エイハブ船長----ストーカー! 海賊としてマゼランに出没した、かつてのソトの行方を誰も知らない....。



"ZURU"CK IN DIE MILCHSTRASSE" / 銀河系に還る I

1990/12/15 r.psytoh with y.wakabayashi
produced by rlmdi