VIII ヴィダー反転 / Widerschlag der WIDDER



1. 探求者の工房
2. 壁は崩れ落ちた
3. ダールショルの野望




 新銀河暦1146年5月。

 〈システム〉の腕たるドロイドたちに、ヴィダー壊滅指令が下された!

 真の支配者である「回廊の主人たち」も、ようやく抵抗組織の危険性を認識し、

 「銀河支配ゲーム」に幕を下ろさざるを得なくなったのだ。

 銀河は沸騰し、またも無数の生命が戦火のなか、失われていく。

 ギャラクティカー最後の希望も虚しくついえさるのか....?

 いや! アンドロメダから独裁を打ち砕く切札を携えて大艦隊が到来し、

 そして、ヴィダーは反転する....






1. 探求者の工房

 要塞コクタシュよりもたらされたデータから、銀河外縁に散在するカンターロ要塞2000基のポジションが解読された。銀河系を包むクロノパルス・ウォールという名の「シャボン玉」の源の....。

 一方、サトー・アンブッシュは、ハルト人の「制御通信網妨害波送信機」の致命的欠陥を補うべく、ナックのヴァロンツェムを含む特殊チームを組み、ある惑星に降り立った。廃墟の星ロクフォルト! その空にかかる大ステーション・ヒューマニドロームには100体以上のナックがいる。かれらをヴィダーの同盟者とするのだ。だが、ステーションは常時カンターロの警護艦隊に封鎖されている。どうすれば潜入できるのか? そんな時アンブッシュは奇妙な噂を耳にする。

「生粋テラナーの特徴を有する者たちが、次々と姿を消している」
 風聞の中に秘められた真実を求め、ロクフォルトの荒野へ足を踏み入れた一行の前に現われた「ヒューマニドローム探究家」バラーム----かれこそエイハブ船長=ストーカー! かつてのソトは、銀河障壁をものともせずに銀河系に出没し、やはりヒューマニドロームへの道を求めているというのだ。かれは失踪者たちが大ステーションへと連れ去られている証拠をつかんでいた。荒野のただなか、ナックの操る時空褶曲に隠された転送機....。突如として、一行をまばゆい光が包む。

「諸君は〈探求者の工房〉への展望を欲している。その望みはかなえられよう」
 「探求者の工房」への立入を許されたのは、アンブッシュ、ロイデル・シュヴァーツとハルト人リンガム・テナルの3名のみ。ストーカーの姿は消えていた。かれは、転送機の所在を知るために一体のナックを殺害した嫌疑をかけられていたのだ。

 3人は、案内する者もないステーション内を放浪する。ごくまれに、微動だにしないナックの他に、生けるものとてない幻想の世界----。かれらの「探し求める」ものとは何なのか。異宇宙生命体は自らの精神の力で周囲の空間に働きかけ、ミニ時空褶曲の中に独自の虚構界を創造、瞑想に耽っている....。むなしい探索の果てに、ようやく一行の前に姿を見せたナック発言者シャーリムは、こう語った。

「われらは、〈説明しえぬもの〉を求めているのだ」
 協力をかたくなに拒否するシャーリム。「探求」こそが唯一・最大の使命....。と、そこに現われた1体のナックは、ヴァロンツェム! かれは、ほんのわずかの言葉----人間には理解できぬ----によって、シャーリムを屈伏させた。

「ギャラクティカーの目標は、われらのそれと親和する」
 それが、ヴァロンツェムの結論。シャーリムは従うしかない。かれは、探求者の工房のナックのうち半数をヴィダーに割譲することを受諾した。200体のナックが、転送機でひそかにロクフォルトへと降り、惑星ヘレイオスへと出発したのだった。



2. 壁は崩れ落ちた

 極秘移送中のナック200体が、突然中間着陸を要求した----との報をうけ、ニッキー・フリッケルは《ジョリー・ロジャー》で惑星アッカーティルにむかった。アッカーティルは、特異な惑星。マイクロ・ブラックホールを月に持つ。ちょうど、ナックの母星、カリフ系ナンサルのように。ひそかにアッカーティルに降りたニッキーは、地下空洞で、ヴァロンツェムが〈ラーシュジャ〉の証を立てる様を「目撃」する。

 かつて、ここアッカーティルはナックの秘密結社の座であった。ラカルドンも、アイシュフォン、エルマンクルク、ヴァロンツェムとシャーリム、そして今ヴァロンツェムの対立者であるエムザフォルも皆、〈黄金卵の安息地〉を崇拝する盟約の一員だった。あまりに狂信的な組織はいつしか消滅したが、ナックの間では、その旧成員はいまだ絶大な影響力を持つ。元「盟約の兄弟」たちの間には、仲間が本当に忌まわしい狂信を脱したのかどうか、いまだに根強い疑惑が残されていたのだ....。ヴァロンツェムは、自らが盟約から解き放たれていることを証明。エムザフォルとの対立も解消され、指導力を取り戻した。

 ニッキーは、アッカーティルのみならず、その直前、銀河障壁のはざまの惑星キョンでの事件をも報告する。かつてウィルス・ウォールで難破したローダンらは、クローン失敗作、いわゆる「遺伝子廃棄物」たちと遭遇していた。このビオントたちは銀河障壁のはざまの「ノーマンズランド」へと島流しにされていたのだが、いま、強大なカリスマを持つ謎の存在がかれらを惑星ミュコンへと招集しているという。その名は「エイガー・キャットメン」。650年前のハンザ発言者と、同姓同名なのだ!

 アンティの母星系アプトゥト。その一隅に、無人惑星アプトゥラトがあった。だが、いまは無人ではない。秘中の秘の遺伝子ファブリックでは、特殊クローン〈バアロル700〉の培養が大車輪で進められていた。極秘工場の責任者であるカンターロ戦略家ペーロウシュは、この「700タイプ」の完成時期を2年近く早めることに成功していた。最高司令部がそれを望んだのだ。超絶な狂気のインパルスを放射するバアロル・クローンは、対ヴィダーの秘密兵器。反逆したアラス科学者たちを抹殺することで、37体のバアロル700は「完成」した。ペーロウシュ自身が回廊の主人の命で、かれらをノーマンズランドの集結惑星ミュコンへと移送するのだ。

 12月末、ミュコンに潜入したグッキーとラス・ツバイは、銀河系の支配者の遠大な計画を知る。バアロル700は「点火装置」。回収された数千のミュータント・ビオントを増幅装置として、「ブリッツァー」の狂気のインパルスが銀河系に接近する者すべての精神を完布なきまでに破壊する、〈エスパー・ウォール〉が完成しようとしているのだ!

 ....明けて新銀河暦1147年。650年におよぶ雌伏の歴史に終止符の打たれる時が到来した。ポイント・シラグサに、アンドロメダからのポスビ艦隊が到着したのだ! ヘレイオスの4つの月から、ヴィダー艦隊が出撃する。トムストーン、ゴールン、フォントレカル・ピン、そしてワイルド・マン星域へ。互いに離れた4星域で、同時にカンターロ要塞への集中攻撃を開始----それが「シャボン玉作戦」なのだ。特に、ワイルド・マン星域の「外側」には2000隻のハルト艦隊が出現、カンターロ部隊の大半と、そして「回廊の主人」エイガー・キャットメンのエスパー兵団が障壁防衛のため駆けつける----。

 かくして「トロイの木馬」は完成した!

 〈システム〉の軍事力が4つのポイントに集中したその瞬間、ローダン率いるヴィダー主力部隊が、ペルセウス星域のクロノパルス・ウォールに巨大な穴をうがち、1万隻のフラグメント船は怒涛のように銀河系へと雪崩込んだ。いま、壁は崩れ落ちたのだ。

 ヘレイオスに凱旋するヴィダーたち。だが、その中にローダンの姿はなかった。アッカーティルから姿を消したナック・エムザフォルからの通信がかれを呼んだのだ。《キューゲル》のアイシュフォンとのコンタクトに成功した、と。ソル系を包む未知のバリアを突破しうる唯一の船とのランデヴー....。事情を知ったアトランが会合点に駆けつけた時、すでにそこには友の姿はなかった。かつて《オーディン》から廃棄されたモノス細胞をおさめたカプセルが、空っぽとなって漂っているのみ....。



3. ダールショルの野望

 回廊の主人シメドン・ミュルホによって最高司令部へと召喚されたカンターロ・ダールショル。主人たちの奇妙な寵愛を受け、さまざまな作戦に従事するうちに、かれは〈システム〉に対する漠然とした疑念にとりつかれていく。

 なぜ、われらカンターロは「新銀河暦」で年を数えるのか。なぜ「1日」は「24時間」なのか。「メートル」? 「s」? テラナーは、〈システム〉による銀河防衛に最後まで抵抗した仇敵ではなかったのか?

 それだけではない。シメドン・ミュルホはカンターロではなかった。むしろテラナーのように見えた。そして、次にかれが拝謁に浴した回廊の主人レミン・キリアンも、ドリアン・ワイケンもそうであった。残る5名の主人----エンデハル・ロフ、キャロル・シュミット、ファーロン・ストレッター、ヴェロ・バニール、そしてエイガー・キャットメン。皆テラ風の名だ。回廊の主人とは、テラナーのことなのか?

 その疑問は、ヒューマニドロームから消えたナックの消息を追ううちに、さらにふくらむ。ドリアン・ワイケンは、「カンターロよりもナックの方が重要である」かのようにふるまった。では、カンターロとはいったい何者? かつての仇敵の奴隷になりさがった愚か者の集団か?

 最高司令部の中で危険人物とみなされながらも、ダールショルの探索はつづく。エイガー・キャットメンの指揮下でエスパー兵団の移送の任についていたとき、ダールショルは役に立ちそうな同胞を見つけた----遺伝子工学のエキスパート、ペーロウシュを。エイガー・キャットメンからペーロウシュの最高司令部への昇格を伝えられた際、かれは自分が推挙したかのようにふるまい、ペーロウシュの信頼を得る。そうして、決定的事件が生じる。

 賢き主人ファーロン・ストレッターは、あるハイパー・シグナルの発信源を監視するように命令を下していた。ヴィダーの大攻勢による混乱に乗じて、ダールショルはその源に肉薄した。ひと抱えほどの大きさのカプセルにおさめられた、一片の細胞。ペーロウシュによる分析結果を見た瞬間、ダールショルは大いなる疑問に解答を得たのだ。回廊の主人のひとりが〈システム〉の背信者、と!

 まもなく、ダールショルとペーロウシュは、回廊の主人ヴェロ・バニールから召喚をうける----主人たちの御座所、ソル星系に! 主人に忠実なナックのあやつる三叉船に乗って、星系を包むバリアを通過したふたりは、「制御ステーション」タイタンの地を踏む。そこで待っていたのは、ヴェロ・バニールではなく、エイガー・キャットメン。かれと1対1で面会し、おのれの知る秘密を明かしたダールショルは、自らが野望の頂点に達したことを確信した。かれは、背信者に代わって回廊の主人となるのだ。それもカンターロとして初めて....。

 だが、かれは誤っていた。かれの導いた結論は正しかった。回廊の主人の真相を、知らぬまにダールショルはつかんでいたのだ。しかし、それゆえにこそ、かれは死なねばならない。死のインパルスが勝ち誇るカンターロに浸透し、その身を宇宙から消滅させた。



"ZURU"CK IN DIE MILCHSTRASSE" / 銀河系に還る

1990/12/15 r.psytoh with y.wakabayashi
produced by rlmdi