
一目で、テスターレとバルコンもおなじものに起こされたことがわかる。
ふたりはガバッと起き上がった。その表情から、耳をすましているのがはっきり見てとれる。かれらの知覚したものは、聴覚とはいっさい関係ない。しかしそれは、まさに「声」が「語りかけた」のだ。
それは、かれらの意識に、脳のなかに押しいって、余計なものすべてを押しだしてしまった。
残ったのは声だけ。ただそれだけ。
そして、それはこう伝えた。
「ここまではきみたちを導き、道をしめすことができた。だが、いまからはわたしの助けなしに、きみたちだけで道をゆかねばならない。それに要する力は諸君の内にあり、目標へと近づけてくれるはずだ。諸君を待つのは、幾多もの重大な任務。もっとも重要なもの----〈アムリンガルの年表〉をみつけるのだ!
それは未来へとつづく道を指ししめすもの。しかし、この年表の保管される場所に近づけるのは、平凡な死すべき存在のみ。それゆえ、たったいまより、きみたちはその、平凡で死すべき存在となる。
〈年表〉をみつけることに成功すれば、あるいはきみたちの非凡な才能をとりもどすことも可能かもしれない。
では、幸運を祈る。きみたちには、それが絶対必要になるはずだ」
バルコンが憔悴しきって毛布に沈みこみ、ふたたび目を閉じた。テスターレは座りこんだままだったが、驚嘆と恐怖がその顔にありありと刻みこまれていた。エラートも、驚きから回復するまでにしばらく時間を要した。
あの声は....? 〈それ〉の声ではないのか? だが、〈それ〉がバルコン人斥候の任務に関心をしめす必要はないではないか。しかし、それならば、かれとテスターレを導いたのは誰----それとも何?
答えはなかった。

「太古、バルコン人の果たした最大の業績とは何か?」エラートはバルコンとテスターレにはぐれ、未知の惑星で回答を探さねばならない。ヒントはただひとつ「コロースに訊け」....やがて、同様にしてたどりついたテスターレと再会したかれは、ふたりがあたえられたヒントが、合わせてひとつの現地語の文章になることに気づく----「谷の盲人」と。やはり異邦人である老人は、ふたりに謎の解答を告げる。
「バルコン人こそスープラヘトの封印者!」スープラヘトの封印者!! それはイムポスのオールドタイマー、ひいては200万年前に〈知性播く星々の大群〉のひとつを建造した36種族連合、〈網を歩む者〉の組織の創設者でもあるクエリオン人を意味する。では、バルコン人すなわちクエリオン人、なのだ!
解答を見出したふたりはふたたび転送機をくぐる。「声」の関門をも突破、すでにバルコンの待つ目的地へとむかうのだ。〈成就の地〉----眠れるバルコン人たちのステーションへ!!

太古、〈力強き者たち〉の委託で反物質エネルギー雲スープラヘトを封印したクエリオン人の一団が、集合知性体にはもどらず、〈時の泉〉のある惑星バルコンに定住した。暴走する〈大群〉によってバルコンが銀河間虚空の放浪惑星となり、人々がおのれの素性を忘れ去った後も、一部の者たちは変わらずクエリオン人の斥候として、宇宙の各所に建設された幾多の転送ステーションを経めぐり任務を果たしていた。〈ステーションの守護者たち〉である。〈成就の地〉とは、その中央基地のこと....。終着駅は、バルコンによって〈記憶〉と名づけられた惑星。その地下のステーションには、数千のバルコン人の肉体がコールドスリープ状態にある。その意識は、肉体を離れ、「報告」のためクエリオン精神集合体に帰還して....。エラートとテスターレは、それぞれそのひとつをおのれのものとした。ところが、バルコン人の肉体の作用か、かれらの精神は肉体から離れられなくなってしまった!
と、またもあの〈声〉が語りかけてくる。
「〈アムリンガルの年表〉をみつけるのだ!」それがエラートとテスターレ、ふたりに与えられた任務。そこにあった肉体をまとった瞬間から、ふたりはバルコン人の斥候の資格と義務をもつ身となったのだ。
エラートとテスターレはバルコンに別れを告げ、斥候の船でケムバヤンを出発する。行くあてもなく、それでも、ふたたび自由な精神として宇宙を飛翔する日々をとりもどすため。過去と、そして、未来をにぎる〈アムリンガルの年表〉をもとめて。

"PROJEKT MEEKORAH / プロジェクト・メーコラー
1998/5/15 r.psytoh with y.wakabayashi
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