
想像できますか、〈それ〉が永久にペリー・ローダンと人類を見捨てねばならなくなる事態が?
想像できますか、エスタルトゥも悪の六権化も、望んだものとまったく異なる未来を手にいれるさまが?
想像できますか、あなたがウル・アム・タロクで破滅するさまが?
〈満の時〉が、誰もが推測している以上に大いなる意味をもつことがわかりますか?
あなたの人生の500年、600年、それとも700年を奪われることが思い描けますか? あなたにはできない。けれど、そうなりかねないことをわたしは予感しているのです。世界には、超知性体よりも強大で、より重要な力が存在しているのです。
誰ひとりとして、実際に何が起こるか気がつかなかったのです。誰にも気づくことはできない。宇宙のエーテルに、冒涜の息吹がたゆたっています。暴虐的な変革が、とるにたりない存在をその生存能力の限界まで機動したのです。
想像できますか、この冒涜が、わたしにさえ理解できない、ある耐えがたい事態をめざめさせることが? 望むならば、ガルブレイス・デイトン、あなたにはできる。
あなたになら、想像できるかもしれない。この宇宙の「力強く見える者たち」は、あたかもいくつものあやまちを犯したかのようです。それは真の生命に----あなたの生命、あなたの同胞たちの生命、十二銀河の生命たち、あなたが局所銀河群と呼ぶ領域に生きる生命たちに----、はかりしれない涜聖を犯させるあやまち。それらの生命すべてが利用されたのです。その生命の目標とは相いれぬ目的のため利用されたのです。
動かされるべきでなかったものが動かされました。モラル・コードは応酬するでしょう。
気づき、行動したものだけに、生き残るチャンスがあります。わたしは気づかなかった。わたしも、そしてわたしの発祥した存在も、それに気づかなかった。
わたしはただ、ささやかに予感するだけ。
真の宇宙的連関を理解することへの道は筆舌をつくしてもなお届きえぬもの。あなたはわたしのことを、言葉ではいいあらわせない存在と考えているでしょう。あなたとておなじなのです。たとえあなたが、わが友〈それ〉の死すべきテラナーのひとりにすぎなくても。事態は、あなたに秘密を明かすことを求めています。それにも限界と抑制がある。あるいは他の誰かなら、よりすばやく理解し、より的確に反応できるのかもしれません。
あるいは。
道をみつけなさい!
ヒルダルがあなたに言うのです。

最後の希望は《レダ》と《ナル》、ふたりの「イマーゴ」のドリフェル・カプセル。いまだ謎に満ちたクエリオン技術の産物であるカプセルは、〈火炎疾風〉を離脱できる。ローダンとドリーマーのベオズ、アトランとバス=テトのイルーナが2基のカプセルに搭乗し、ダオ・バン系ヴォンタードへむかう。かれらに残された選択肢はふたつ----勝利をつかみ、メーコラーへの道を切り開くか、さもなくば、この赤い宇宙の熱に焼かれて死ぬか。
ダオ・バンに翔ぶ《レダ》に出現したヒルダルは、ベオズがエスタルトゥの寵児であり、かれの予知夢は友オンドルムの死に起因するトラウマを利用して超知性体が夢見させたもの、と語った。そして、ベオズの最後の夢は、ジュアタフとベングエルの〈対自殺〉が死ではなく、エスタルトゥの〈遺産〉を目覚めさせる〈対融合〉であることを解き明かした。エスタルトゥは生きても、死んでもいる....その〈遺産〉の中に。
つづいて現われたベネカー・フリングは、〈火炎疾風〉が標的から奪うパワーは微々たるもので、実は無尽蔵のハイパーエネルギーを熱に転換しているのだ、とローダンに教える。アフ=メテムの炎は宇宙すべての力を集結させ敵を焼きつくす劫火なのだ。しかし、ローダンは、低次知性体を「駒」としていいように利用する高次勢力との訣別を宣言し、〈それ〉の使者を追いかえす。かれの歩む道は、もはや〈それ〉とさえ別のものなのだ。
発狂バリアに守られるヴォンタードへ、小惑星を隠れみのにして接近したドリフェル・カプセルは、ハウリの守備艦隊をひきつけて恒星ダオ・バンのコロナへ突進。生じた隙をついてローダンとアトランが網歩服の力でバリアを突破し、ヴォンタードに潜入する。そこでふたりを待っていたのは、エントロピーの母シ・キトゥの具象化であった。
熱力学第二法則の守護者は語る。ヒルダルもフリングも、実はその空虚な言葉以上にローダンの考えに共感を抱いている。だが、アフ=メテムはその強大な存在形態にもかかわらず〈宇宙進化のたまねぎモデル〉でいう「人の皮」に属する生命体であり、それゆえ、同等の階梯の知性体によって排除されねばならない。シ・キトゥ自身にしても、法則に背きエントロピーを逆流させる〈火炎疾風〉の除去をローダンにまかさざるをえないのだ....と。〈それ〉もエスタルトゥも冷酷なわけではない。ただ、かれらの打つ手は封じられているのだ。
〈火炎疾風〉の発生センターに侵入したローダンとアトランは、そこに警備兵のひとりもいないことを発見する。クエリオン技術の粋たる網歩服に匹敵するものを持たぬハウリにとり、ここにいることは死を意味するのだ。設置したアルコン爆弾に点火しようとしたとき、ローダンが妙計を思いつく。
タルカン艦隊とイマーゴ探求者の船団をとりまく超高熱セクターが不意に消滅した。まもなく探知器が、ヴォンタードへ急速に接近するプシエネルギー体をとらえる。アフ=メテムがセンターの異変に気づいたのだ。そのとき、それを迎えるかのように、新たな〈火炎疾風〉セクターが惑星上空に誕生した! ピコシントロンが操作法を解析し、ローダンとアトランが熱変換装置を作動させたのである。〈火炎の領主〉はみずから用意した炎に囚われた。負のエントロピーの洪水が、わずか直径数千キロの空間へとなだれこみ、みるみるうちにセクターは赤からオレンジ色に変化し、やがて、白熱していく。
そして、人々は、〈火炎の領主〉アフ=メテムの断末魔の叫びを聞いた。

かれらをむかえたのは、複数の〈集結の呼び声〉であった。ジトラ、タムバウと残りふたつの〈焦点〉が構成する円の中心こそ、〈集結の地〉ナルナ。エスタルトゥの〈子ら〉とわずかな言葉をかわしたローダンは、かれらがもうイマーゴを必要としていないことを知る。イマーゴは、「迷える子ら」を新天地へと導いた。いま〈満の時〉は満ち、子らは道を知ったのである。----エスタルトゥが待っている! ハンガイ辺境の〈X−ドア〉星域に待つ《バジス》に、報告艦として《アウリガ》を派遣して、タルカン遠征隊もまた、ナルナをめざす。
ミスティコン系ナルナに到着したかれらを、ニッキー・フリッケルの《ソロング》がむかえた。トト・ドゥガの惑星におりたローダンは、ロボットとベングエルでわきかえる大陸で、元PIGのチーフと再会する。ダオ・リンもいた。オーグ・アト・タルカンもいた。知っている顔も、知らない顔もある。それでも、人々はたがいの無事を喜びあった。そのとき、〈集結の呼び声〉が沈黙した。
かれらの前に、ヒルダルが立っていた。エスタルトゥの使節。プロジェクト・メーコラー完成の時、彼女は5万年前の真相を語る。

プランは当初の予定よりはるかに時間をかけて実行されることになる。その期間は5万年! まず超知性体は、「カルタン人の科学者タル・トゥ」としてカンサハリーヤの首脳と接触した。ナルガ・サント計画の骨子を携えて。
やがて〈最後の六日間〉神話の半神ヘプタメル----超知性体でこそないが、パワーの面では優にエスタルトゥを凌ぐ----は、彼女のプランに気づく。ハンガイを、障壁を越えてメーコラーへと送りこむプロジェクト・メーコラーと、それを背後から指導する者の存在に。ヘプタメルからプロジェクトを守るすべはただひとつ....エスタルトゥの敗北だ! エスタルトゥは超知性体としての素性を明かし、ヘクサメロンの拠点を次々に破壊していく。
ツェレンガーでの決戦はエスタルトゥにとり「予定」されたものだった----ヘクサメロン崇拝の中枢たるハウリの母星系での対決こそ、「死」を演出し、トト・ドゥガを誕生させるのに最適な場所、真のプランを包みかくすに絶好の地点であったのだ。ベングエルさえ、すでにこの時点で計画に組みこまれていた。発祥惑星レムノルの自然カタストロフから救われたとき、ベングエルは救済者ベンノの姿をポジティヴなトラウマとして種族の記憶に刻みこんだ。特徴的な姿をしたベンノたちは、〈対融合〉の理想的な触媒となるだろう....。
ツェレンガー決戦から100年後、600年の準備期間を経て《ナルガ・サント》が発進した。オーグを指揮官とする巨船は、謎の科学者「タル・トゥ」の筋書きどおり、〈永遠の穴〉に消えた。しかし、残った者たちは抑えがたい不安にとらわれた。このプロジェクトには意味があるのか? そして、エスタルトゥの〈遺産〉はカンサハリーヤに新たな息吹を吹きこむ----〈輝ける知識のセンター〉の誕生である。
〈対融合〉によってエスタルトゥとしての意識をとりもどした〈遺産〉が、二十二種族連合に5万年計画をもたらしたのだ。ハンガイを4つに分割し、若く生命に満ちあふれた宇宙へと脱出する! デカダンスに陥りかけていたカンサハリーヤの種族は、プランを受けいれた。かつてない建設熱がハンガイを席巻する----むろん、〈輝ける知識のセンター〉の指導にしたがい、ごくゆっくりと、慎重に、ヘクサメロンに気どられぬよう注意深く。つづく数百年のあいだに、〈輝ける知識のセンター〉は、その素性を疑うものもない、カンサハリーヤの中核となっていた。

トト・ドゥガの〈対融合〉により生成される〈対ブロック〉の寿命は5ミリ秒。同時に発生する〈対ブロック〉が多いほど、総体の寿命は指数関数的に長くなる。
4万年前、〈輝ける知識のセンター〉を維持するよりはるかに多くの〈対ブロック〉が宇宙間の障壁を越え、「兄」とよぶ超知性体〈それ〉とコンタクトした。
〈それ〉は〈妹〉の問題にひとつの回答をみいだした。当時すでに、人工惑星ワンダラーの超存在は、コスモクラートから2基の細胞活性化装置をうけとり、不可欠な協力者になるはずの適合者を捜していた。4万年後には、適合者たちはこの宇宙に生まれ出ているはず。かれらをタルカンに派遣しよう。〈対融合〉をまぢかで体験したとき、細胞活性装置は変調し、トト・ドゥガにとって灯火のように作用するはずだ。
だが、もし2名の適合者がともにタルカンへ到達すれば、「灯火」はふたつ。エスタルトゥの子らはふたつの目標にひきさかれ、〈完成〉を見ることはできなくなってしまうかもしれない。しかし、これ以外に方法はないのだ。エスタルトゥ----〈対ブロック〉のつかのまの意識は、「兄」の考えに満足し、消えた....。
----ヒルダルはすべてを語り終えた。ローダンは嘆息する。なんと未知数の多いプランであったことか。〈対融合〉が活性装置を変調させなかったとしたら? そもそもローダンは〈それ〉に派遣されたのではなく、ドリフェル異変でタルカンに放り出されたのだ。おそらく、〈それ〉はそれゆえにアトランの遠征を援助した。あくまでもいまの成功は偶然でしかないのだ。
疑問も残る。たとえば....ナック。あの奇妙な種族は、エスタルトゥのプランの中でどんな役割を果たしているのか? さらに、ハウリの言う「シャムシュの首飾り」すなわちモラル・コードを、エスタルトゥはプロジェクト・メーコラーのために利用した。それは〈第三の道〉の提唱者たる彼女自身にとって、もっとも忌むべき「操作」ではなかったのか....。ヒルダルは、それらの問いに対する答えを知らなかった。エスタルトゥにはそれを明かすつもりがないのだ。
その時、上空の《シマロン》が一群の船を探知する。ベンノが来た。まさにその瞬間が到来したのだ。
日没のころ、トリマラン艦隊は着陸した。ハッチが開き、ベンノが姿をあらわす----そして、その瞬間、あたりは真昼のように明るく輝いた。数十億の〈対ブロック〉がいま、解放されたのだ。ナルナの二大陸をプシの嵐が吹きすぎていく。猛々しい産声のように....。やがて、嵐が通りすぎた沈黙のなかを、ひとつの楽のしらべが流れはじめた。
奇妙な間。ローダンは、何とはなしに、ヒルダルの語った〈対ブロック〉の寿命のことを考えた。総数は85億。総体として----つまり、エスタルトゥとしての寿命は5の32乗ミリ秒。それはこの宇宙の寿命をさえ凌駕するではないか....。
やがて----レジナルド・ブルが叫んだ。「見ろ!」そこに巨大なヒルダルがそびえ立っていた。ヒルダル----いや、エスタルトゥが!

その言葉は媚びるように、完璧な暗示力をもって響いた。人はただそれを受けいれてしまい、吟味する機会を見出せない。だが、ペリー・ローダンはちがった。エスタルトゥがあやまちを犯した? それがどんなものか語られるだろうか。いまこそつじつまの合わぬことどもに説明が与えられるのか?
「エスタルトゥは、死にゆく宇宙で滅亡の危機にさらされる見も知らぬ種族の救難信号に応えました」やわらかな声が語をついだ。「救済をもとめるものたちを支えることは、尽力に値すると見えたのです。そのとき、死にゆく宇宙を脱出しようと望むものたちが、宇宙の死を宗教にまで高めたものたちと対立しているとは計算できなかったのです。エスタルトゥは、主ヘプタメルとヘクサメロンの存在を予想だにしていませんでした。彼女はタルカンへ、救済のためにおもむいたのであって、戦うためにではなかったのです。敵はエスタルトゥを凌駕していました。その可能性を事前に考慮しなかったことが、エスタルトゥ最大のあやまちだったのです」
最大のあやまち。よかろう。しかし、彼女の口にした「あやまち」は複数のはず。他のそれは、ここで明かされるだろうか。
「エスタルトゥの望まなかった戦いは、ひとまず棚上げとなりました」つまり、ノーか。説明のつかないことは残るのだ。「敵は、ハンガイをこの宇宙に移送するのを、はばむことができませんでした。エスタルトゥはハンガイの種族たちが熱死をまぬがれる助けをはたしました。エスタルトゥは帰還したのです」
ローダンの視線がわきへとむけられた。オーグ・アト・タルカンが崇め奉るように両腕をさしだして、草のあいだに横たわっている。まだ息をしているかもさだかでない。医療ロボットがいないかと、ローダンはあたりを見回した。危急の場合、老人がなすすべもなく死んでゆくのを見すごすくらいなら、エスタルトゥの言葉を聞きのがしても、いたしかたあるまい。
「エスタルトゥは再生しました。きょうは喜びの日。けれども歓喜に圧倒されてはなりません。喜びのあまり、あなたたちの前にいまだ険しい道のりが待ちうけていることを忘れてはならない。エスタルトゥはふたたび故郷にあります。けれど、彼女はまた、敵をも共にもたらしたのです。それはわたしたちのただなかで、わたしたちの知るすべての生命を破壊せんともくろんでいます」
思案しつつローダンはそびえたつ姿を見上げた。エスタルトゥの言葉は衷心からのもの。まるで聴衆のひとりひとりに個人的にすえられているような巨大な瞳は、信じなさいと呼びかけていた。
「エスタルトゥの場所はここではありません。ここより遥かな、十二銀河の帝国では、わたしの手配を運命として信じたものたちが苦痛にあえいでいます。軽率にもかれらを捨ておき、ふさわしくない者たちをわたしの代行に任じたことで、わたしは罪を負っています。これよりわたしの心は、まず第一に十二銀河の種族たちにむけられるものです。
あなたたちからすれば、わたしがみなさんの戸口に危険を置き去りにしたままで、背中をみせるように思えるでしょう。それはちがいます! 見かけを超えてご覧なさい! 兄も、わたしに腹を立てるかもしれません。わたしはかれに、悪しき遺産を残すのですから。何万という未知種族と、わたしたちすべてを滅びの大渦にひきこもうとする敵のいる銀河を。兄さん、許してください....」
その瞬間、予期せぬことがおこった。オーグ・アト・タルカンがはじかれたように立ちあがったのだ。よろめきながら足を踏みしめ、両の手を高くさしあげてまなざしを強大な超知性体の姿へとむけた。
「連れていってくれ、エスタルトゥ!」かれにもはやそんな力が残っているとは誰も思わなかったほどの大声で叫んだ。「わたしを連れていってくれ! エスタルトゥよ、あなたに会ったことはないが、種族に残された遺産に、わたしは忠実にしたがってきた。道は長かった。いま、わたしは平穏をもとめる。共に連れていってほしいのだ」
雷に打たれたように、かれはくずおれた。いまになってようやく1体の医療ロボットがあらわれる。ペリー・ローダンはぴくりとも動かぬカルタン人に駆けよった。ロボットは小さな計測ゾンデを老人に擬した。
「ご臨終です」数秒後にそう宣告し、くりかえすようにプログラムされているのか、こうつけくわえた。「この人の体内には、もう生命は宿っておりません」
ローダンは遺体のそばにひざまづいていたが、立ち上がると具象化存在の方に目をむけた。やわらかな微笑みがエスタルトゥの顔に浮かんだ。
「そう、あなたは真に忠実なる人でした、オーグ・アト・タルカン。あなたの意識はエスタルトゥとひとつになり、運命が生命なる恩寵を与えつづけるかぎり、彼女とともに生きるのです。
ああ、偉大な業をなすことを助けてくれた人々よ----感謝を、そしてお別れを。あなた方はエスタルトゥの友です。その館の扉は、皆さんにはいつでも開かれています。エスタルトゥに会いたい時には、〈暗黒の天空〉へおいでなさい」
巨大な姿が色褪せはじめ、それがぼんやりとかすんでいくにつれて、空も明るく、本来の色彩をとりもどしていった。風が強まる。暖かな空気の奔流が谷を吹き上げてきた。霜枯れの草地を突風がさらさらと鳴らし、褐色のほこりを巻き上げる。埃がふたたび降り積もったとき、エスタルトゥは消えていた。

ローダンはトリマラン艦隊のベンノと会い、ベンノたちがナルナに出現したのにも、背後にエスタルトゥ、〈輝ける知識のセンター〉のひそかな介入があったことを確認した。かれらが奇妙な指令のかげにあった真実を知ることはないだろう。エスタルトゥは去り、ローダンもまた、語ることはないだろうから。
ナルナの5つの大陸で〈対融合〉を経験したベングエルとジュアタフたちは、やがて意識をとりもどした。だが、ジュアタフは、もはや「トト・ドゥガ」ではなく、エスタルトゥの遺産も、〈満の時〉のことも知らない。ベングエルたちも、5万年前に中断した進化の道をふたたび歩きだすのだ。
3月9日19時、12隻のタルカン艦隊と《ソロング》はナルナを離れた。ハイパー探知器は、集結の惑星からのエネルギー・エコーが完全に跡絶えたことを確認する。ジュアタフがみずからの「スイッチを切った」のだ。ふたつの宇宙にわたるトト・ドゥガのオデッセイはいま終わりを告げた----。
ペリー・ローダンと同胞たちは、前進しつづける。故郷までの道は遠く険しい。数百万光年の物理的距離に加えて、ハンガイを包むストレンジネス障壁、いまでは異常に活発な構造圧迫も障害になる。時空構造の異変の原因を、パラ現実学者サトー・アンブッシュは「臨界量」の問題と結論づけた。ハンガイ第四クォーター転移のおりに、異なるストレンジネスを持つ物質の流入が、メーコラーの「許容量」を超えた、というのだ。だが、この先どうなるのか、サトーにもわからない。
ナルナのあるミスティコン系から《バジス》の待つX−ドア星域まで6万1000光年。日付は新銀河暦448年3月10日をむかえた。アンブッシュの研究室をローダンが訪ねる。
サトー・アンブッシュはサーヴォを通じてシントロンに命じ、銀河団のホログラムを映させた。
「おとめ座銀河団の中核です。ここが〈力の球形体〉エスタルトゥ」
仮想上のカメラがズーム・アップ。あとには十二銀河が残った。ペリー・ローダンは巨大な楕円銀河エレンデュラや二重銀河のアプザンタ=ゴムとアプザンタ=シャドを確認した。
「われわれの理論が正しければ」パラ現実学者は先をつづけた。「構造圧迫の異常活動の原因として感化力をもたらす、ただひとつのポイントが存在するはず。そのポイントとは、ここです!」
ふたたび映像が変わった。〈力の球形体〉のうち10の銀河が消滅。残ったのは「双生児」のみ。それが画像の中央に移り、アプザンタ=シャドからかなり離れたところで赤い光点がまたたきはじめた。
「ドリフェルか」ローダンは顔色を失っていた。
「そうです」アンブッシュが肯定する。「私見によれば、これで理論の正当性も証明されました。もしも計算の結果がどこか虚空の一点をさしていたら、こう言われたことでしょう、『おおもとの仮説が誤ったものだったのではないか』と。しかし、実際には、こうです。『理論が誤っているなら、なぜよりにもよってドリフェルに?』とね」
「あそこで何が起きているんだ、サトー? ドリフェルはどうして構造圧迫に火をつけたのだ?」
「ドリフェルから遠大な距離を越えて局所銀河群へと流れこむ強力なエネルギー流が存在しています。そのエネルギー構造は、まだ判明していません。ここ、ハンガイ周辺で、どのようにしてエネルギー流が時空連結の動揺に転換されるのかもわかりません。ですが、わたしにはドリフェルがあまったエネルギーのすべてを吐き出しているかのように見えます。目的は、ひとつしか考えられない....」
「目的?」
「『店じまい』ですよ。〈かれ〉はみずからを外界から切り離し、通常空間に開いたシンボル〈門〉を閉鎖して、〈深淵〉へと撤退したのです」

「ドリフェルは局所銀河群めがけてプシオンのゴミをまきちらして、時空はぐちゃぐちゃうにゅうにゅ」
「ドリフェルが管轄する〈直径5000万光年の天球〉って知っているかぎり〈それ〉とエスタルトゥの〈力の球形体〉がある」
「まだ生きていればセト・アポフィスの〈力の球形体〉なんかもそうだやね」
「ほかの超知性体は大丈夫なんだろーか?」
「ご近所から苦情はでないんだろーか?」
「いやー、うちの妹おちゃめやもんですから。えろーすんません」
「....じつはこのあとしばらく、〈それ〉はふっつり消息を絶つ」
「やっぱり逃げた?」
「んで、くもがくれのあいだ局所銀河群は雑草が生い茂り草ぼうぼうの荒れ放題」
「ハンガイの連中はじわじわ効いてきたストレンジネス・ショックのおかげで、文明退行」
「そこで、ローダンは?」
「ポスビはどっかいってしまうし」
「で、ローダンは?」
「銀河系なんか、あんまりあぶないから自宅謹慎いいわたされて」
「おーい、ローダンは?」
「謎につつまれた〈銀河系の支配者〉? ブラックホールを結ぶ〈星の暗黒回廊〉? 〈四腕の予言者〉? 〈過去創造の支柱〉の彼岸にそびえる〈アムリンガルの年表〉?」
「んだから、ローダンは?」
「....じつは、こいつも700年間ふっつり」
「どいつもこいつも....」
「ひとそれを不可抗力という」
「あるいはプロットの都合、ともゆーね」
「おーっ」

"PROJEKT MEEKORAH / プロジェクト・メーコラー
1998/5/15 r.psytoh with y.wakabayashi
produced by 