I 迷走惑星ワンダラー / Wanderer wandert



1. 召還 / An alle Aktivatortrager
2. リング人 / Linguiden
3. 探索I / Attentater Assu-Letel
4. 紛争勃発 / Konfliktsausbruch
5. ナック / Die Nakken
6. 調停 / Den Frieden zu stiften
7. 探索II / Drei Amringhar-Sucher
8. 競合 / Wettlauf nach Wanderer
幕間 ワンダラーのあまたの時計 / Die Uhren von Wanderer

追記:ワンダラーのあたまの悪い時計 / Wer ist wer?




光条 / Streiflicht

 ふたたび、大ホール。

 円形の台座と支柱群。

 ホールはもはや、うちすてられてはいなかった。ひとりの生命体が、柱の前に立っていた。ヒューマノイドだ。人間のように見える。だが、人間ではない。それは人工の生命体。テラナーを模して造られただけ。

 突如、大ホールは哄笑に満たされた。それがやむと、見えざる者の声が言った。

「行くがよい、そしてわがメッセージを伝えよ」

 そうして、ヒューマノイドである生物は、この世界の山河や石、塵と等しく合成されたものであるその人造人間は、見えざる者の命にしたがった。




使者 / Der Bote

 9月30日の午後、ゴシュン湖畔のホーマー・G・アダムスに緊急連絡がとどいた。

「未確認飛行物体、地球に接近中!」

 詳報から、火星軌道で超空間から出現しテラへの直線コースを取る物体とは、未知の建造様式の60メートル級球形船であることが判明した。出現時当初の亜光速は、まもなく毎秒2万キロに絞られた。

 防宙軍が未知者に即時停止と身元確認を要求すると、こんな答えが返ってきた。

「わたしは不死を呼ぶ声を伝える使者。待っているはずだ」

 これでわかるものはいまい。しかし、ゴシュン湖畔に集う細胞活性装置所持者たちは、使者がそのメッセージを伝える相手として、かれらをこそ意図していることを予感しはじめていた。そこでホーマー・G・アダムスは宇宙防衛総司令部に、未知宇宙船の通過を要請した。しかし、その許可を得るには、虚言を弄して、訪問者を宇宙ハンザ同盟の賓客と吹聴しなければならなかった。

「因果応報なんてことにならなきゃいいんですが」宇宙ハンザ同盟のチーフは言った。かれは未知宇宙船の飛行を追尾できるよう、ローダンのバンガローへの映像回線を手配していた。

「自分の感情を信じたまえ」ローダンがなだめようとする。「かの使者を派遣したのが誰か、教えてくれる。そして、それがきみを欺くことはない」

 グッキーは集中して、いままさに未知宇宙船があらわれた地球周回軌道までテレパシーの触手をのばしていた。

「船上にいるのは、まちがいなくただのひとりだけだよ。でも、思考は読めないや」

「必要もないだろうさ」レジナルド・ブルが答える。「あれが誰の使者か、われわれは知っている。かれの素性なぞ問題じゃない。派遣したものだけが問題なんですな。そして、それをわれわれは知っている、と」ブルは一座を見まわして、「ちがいますかい?」

「しかし、フェイントということもありますぞ」ジュリアン・ティフラーが指摘した。「もしわれわれ細胞活性装置所持者を狙う敵が、このやりかたなら安全だと考えていたら----どうなります?」

 アラスカ・サエデラエレはただかぶりをふっただけ。イホ・トロトが行動腕を脱穀機みたいにふりまわしながら、冗談まじりに凄まじい声で、

「そやつ、一泡ふかされることになりましょう」

「オーケイ、われわれ、誰があの使者を送ったか知っている」と、マイクル・ローダンが緊張した声で、「しかし、〈それ〉がわれわれに何を望むというのか?」

「ピリピリするな、いにしえの騎士殿」そう言うロナルド・テケナーの顔はスマイラーの仮面に変貌していた。「じき、わかる」

 小さな球形船は大気圏に突入し、アジア大陸に進路をとった----テラニアのある区域に。ホーマー・G・アダムスは今度は、未知者の目標が明らかにテラニアであることに懸念をあらわす地上防衛部隊の司令官たちをなだめすかさねばならなかった。

「なんと奇妙な識別コードだろうか」考えに沈むようにアトランが言った。「〈不死を呼ぶ声〉とは。ポジティブな連想を呼びさますものではない」

 ホロ映像中では、未知球形船がテラニアの密集領域を避けるさまが見られた。映像がゴシュン湖をとらえ、宇宙船がそこへと降下するのを映したとき、10名の活性装置所持者たちは戸外へ出た。

 小型球形船が個人用発着場に着陸するのにはまにあった。

 数分がすぎた。ようやく船の下極の隔壁が開いて、反重力フィールドにつつまれた姿が外へとただよい出た。外見は、大柄で恰幅のよいテラナーのもの。

「ホムンク!」幾人かの活性装置所持者が異口同音に叫んだ。

 いまや、誰が使者を派遣したのか疑いはなかった。ホムンクは〈それ〉のコンタクトパースン。はじめてワンダラーで細胞シャワーをうけたとき、超知性体によりテラナーを雛形として造られたこの人造生命体がローダンたちを世話したのだ。そして、62年の経過の後、ふたたび細胞シャワーを浴びねばならなかったときも、ホムンクはそこにいた。

 2326年に〈それ〉が円盤状の人工惑星ワンダラーを自衛のため破壊したとき、超知性体はホムンクをテラナーに同行させた。だがいつのまにかホムンクは、何ひとつ言い残すことなく姿を消し、人々は〈それ〉がその被造物を召還したのだと考えた。

 ホムンクの出現がこの推測の裏付け。かれが〈それ〉に派遣されたことは疑えない。

「〈それ〉がふたたびあらわれた!」ペリー・ローダンはつぶやいた。「700年以上もの空白の後に」

 ホムンクは活性装置所持者たちの数メートル前で立ちどまった。かれらを順ぐりに眺めやる。ひとりひとり品定めして、口を開いた。意味ありげな沈黙のあと、言った。

「わたしはこの力の球形体の超知性体の命をうけてやってきました。あなたがたの〈それ〉と呼ぶ超知性体が、不死を呼ぶ声を伝えよ、と命じられたのです」ホムンクはふたたび間をおいて、それから続けた。「呼び声は、すべての細胞振動活性化装置の所持者にむけて発せられました。その貸与物をただちに〈それ〉へと返還せよ、と。くりかえします。〈それ〉より貸与されたすべての細胞振動活性化装置を返還する時がきたのです!」

 つづく間は、ほんの数秒でやぶられた。活性装置所持者たちが口々にしゃべりだしたのだ。誰もみな、自分の耳を信じられなかったのである。

「そんなことがあるものか!」おかしくてたまらない、といった態でアトランが叫んだ。「ご存じ〈それ〉流のウィットだろうが。さあ、ホムンク、言ってくれ。いまの要求は本気ではない、と」

「いたって本気ですとも」がホムンクの返答だった。「これは〈それ〉の確固たる、くつがえしようのない意思なのです。貸与物を、遅くともあなたがたの暦で14日後までにワンダラーで引き渡すように。それがわたしのメッセージです」

 ホムンクはそれ以外いっさいコメントなしに踵をかえし、宇宙船へと歩を進めた。

 イホ・トロトが大股にヒューマノイドの後を追い、宇宙船への道をふさいだ。他のものもかれにつづき、ホムンクをとりかこんだ。

「それですべてではあるまい」ハルト人が雷鳴のような声で、「そんな要求を言いっぱなしとはいかないものだ。この要求に、〈それ〉はどんな理由をつけるのか?」

「理由を言うことは許されておりません」

「冗談にしたって陰湿だ」ブルが言いはった。「ワンダラーはとっくに存在しない」

 ホムンクの視線は、すべての希望を無に帰すものだった。最終的に、かれは告げた。

「あなたがたの暦で14日後。ワンダラーで」

 今度は、かれが宇宙船にむかうのを邪魔するものはいなかった。宇宙船はさえぎられることなく発進し、地球を離脱し、超空間へ突入した。



1. 召還 / An alle Aktivatortrager

 モノスの死によって銀河系が解放されて22年----。

 新銀河暦1169年9月。いまもなお復興の混迷から脱出しえぬ星界に、「調停者」の噂が広まりつつあった。これまでギャラクティカーの知らなかった種族〈リング人〉が、ブルー人テントラ族の内戦を、言葉ひとつで取りおさめたというのだ。

 事態を重く見た活性装置所持者たちがテラに集結する。フェルマー・ロイドとラス・ツバイが、テントラ族より感謝の印としてリング人に譲渡されたジェルゲレン星系へと偵察に旅立った直後----思いもかけぬ使者がテラに到来する。

 ホムンク!

 〈それ〉の被造物は、恐るべき報せを持参したのだ。超知性体は、すべての細胞活性装置の返還を求めている、と!! そして、はるかな過去に破壊されたはずの人工惑星ワンダラーへ来たれ、と告げるのだった。

 返還の期限は10月15日。

 すでにジェルゲレン系コムポルに向かっていたミュータント2名のもとへも、急使が飛ぶ----そのころふたりは、コムポルのリング人たちが、謎の「惑星叙任の儀式」にむけて一大都市を建造しつつあることをつかんでいた。だが、ある事故からひとりのリング人を救おうと、ともにテレポートしたとき、とてつもないショックがかれらを襲った。はてしない脱力感。活性装置が生命力の供給を停止したのだ!

 ....ミュータントふたりが到着しないまま、ワンダラーをもとめてテラを発つローダンたち10名の不死者。しかし、ワンダラーは、もし現存するならあるべきポジションにはなかった。ある疑惑を抱いたアトランの指示にしたがい、「3000年前にはじめてワンダラーを発見した宙域」にむかった一行をむかえる人工惑星。

 そして、〈それ〉は宣告する。「テラナーは失敗した。与えられた2万年の期限がいま、超過したのだ!」と。

 超知性体の大いなる誤謬を証明せんとする試みは、すべて失敗した。一周2万年の複雑な長円軌道をめぐり終えたポジションに位置するワンダラー。星座の位置さえも、人工惑星内部からは、正しく2万年後のそれに見えるのだ。

 当惑するローダンたちの前に、さらに意外な客が訪れる。ナックのクリストル。かつてモノスの腹心であったナックは、謎の〈幽霊〉に奪われたはずの6基の活性装置を持っていた! かれは、強奪した装置を〈それ〉に「返還」するためにやってきたというのだ。怒りにわれを忘れたテケナーの銃火が無防備なナックを塵と変えた。

 活性装置を「返却」し、ワンダラーを追い出されたローダンたち。人工惑星は、軌道を変更しつつ、すべての探知スクリーンから消滅した。だが、その直前〈それ〉はこう告げた。

 「いまだ未解決の事物が残されている。諸君には細胞シャワーを与えた。与えられた時間内に、未解決のことがらを解決するのだ!」と。

 与えられた時間は62年。だが、未解決のことがらとは、何を意味するのか?



2. リング人 / Linguiden

 モノスの遺産----退行し、3つの国家に分裂して争うトプシド。その地を訪れたギャラクティカムにおけるカルタン全権大使ダオ・リン・ヘイを暗殺しようとするくわだては、水泡に帰した。だが、この例にみるように、モノスの残した無数のマルチ・クローンは絶えざる火種。動揺おさまらぬ銀河系には、いまこそ「調停者」が必要なのだが....。

 再三の誘いにもかかわらず、ギャラクティカム参入を拒絶しつづけるリング人。その植民星コムポル調査にむかったまま消息のとだえたミュータントたちを捜して、1169年12月、ペリー・ローダンの《オーディン》とアトランの《カルミナ》、レジナルド・ブルの《シマロン》、そして、オファル人サラーム・シーンの《ハーモニー》がジェルゲレン星系にむかった。

 調停者アラムス・シェノールの語ったと伝えられる「この星系は近い将来、銀河にとり重大な役割を果たすことになる」とはどういう意味なのか? 唯一周回軌道に入る許可を得た《オーディン》から、ローダン、グッキーらが捜索におもむく。そこでかれらが発見したのは、ふたつの屍と、機能を停止した活性装置! やがて起こる第二の「テレポート事故」。グッキーは3日後に意識をとりもどすが、ともにジャンプしたリング人は、ついに正気に還ることはなかった。

 現在までに14の星系にコロニーを保有するリング人の中でも、わずか20名しか存在しない〈調停者〉とは、どのようなものなのか?

 かれらの母星リンゴラ訪問はかなえられなかったが、テレポート事故を重視した調停者ドリナ・ヴァッサーとバラサル・インコードとの会見から、ローダンは多くの展望を得る。

 リング人のいわゆる「調停」とは、プシ能力の類ではない。ごくまれな「タレント」を生来所有する者たちを、各コロニーに散在する言語・話法の学校で幼少時から鍛練することによって確立する技術。特徴は言語そのものではなく、調停者の語り口、そして「見えざる言語」たる各種族独特のノンバーバル言語の活用にあるのだ。

 そして、不幸な事故の原因は、リング人の〈キーマ〉にある。テラナーにとっての「魂」ともいうべきキーマの本質は、所有者自身にもわかりかねるもの。しかし、それが超空間への転移に耐えられないことは、すでに伝説になろうというくらいの過去から判明していた。遷移駆動、あるいは転送機の使用は、キーマの脱落、ひいてはリング人の発狂をもたらすという。テレポートによるキーマの喪失が、ミュータントたちの意識にも激しい衝撃として働きかけたというのが、調停者たちの説明であった。

 さらに、バラサル・インコードとの個人的な対話を経て、ローダンはリング人が温和かつ悪意のない種族であることを確信する。

 一方、コムポルへの着陸許可を得られなかったアトランは、《カルミナ》に乗り込むアルコン人カシアンの提案にしたがい、あるシュプールをたどってリング人の封鎖コロニーたるセダイダー系テフォンにたどりついていた。

 大半を海に覆われた惑星テフォンの一大陸で、アトランは醜悪なモンスターの大群を目撃。知性をもたぬ凶暴な怪物たちに、モノスの遺伝子操作実験との酷似を見出したアトランであったが、かれらを制止したのは、おりしもテフォンにあった最も高名な調停者アラムス・シェノール。

 かれはリング人最大の秘密のひとつを明かす----テフォンのモンスターたちこそ、キーマを失った、あるいは生来持たずに生まれてきたリング人の末路なのだ、と! このゆえに、リング人はキーマの存在をギャラクティカーに隠しとおし、ギャラクティカムへの加盟を拒んできた....。

 アラムス・シェノールは、アトランのテフォンへの不法侵入をとがめることはしないと言明した。だが、それさえもアルコン人のリング人に対して抱く不信をいやいますだけであった。リング人----あまりに清廉潔白な種族、と。



3. 探索I / Attentater Assu-Letel

 殺戮狂の独裁者モノスの「父」とは誰か?

 この20年ゲジルを悩ませてきた問題も、いまとなっては二次的なものだった。どこか歯車のかみあわぬ言動をみせる超知性体によって、彼女の夫は62年後の死を定められた。〈それ〉をみつけ、その誤りを正す。それこそが、いまのゲジルの目標となったのだ。

 ネーサン内に所有するプライベート・メモリーを活用し、銀河中から集まるニュースから、〈それ〉に関する情報をえりわける----ほとんど成果の期待できないプランに、しかし、1170年1月、思いがけぬデータがリスト・アップされる。「ペレグリンがポナムで宗教反乱を操作している」と。

 ペレグリン----700年前に出没した〈それ〉の具象化存在が、M−13に!? ゲジルは第一テラナー、カリオ・クージネンの協力をとりつけ、《タバティンガ》で、ドリフェル・ショック後に奇妙な神権政体を築いたアルコン人の植民惑星ポナムへ飛んだ。

 だが、そこで彼女が見出したのは、ペレグリンではなく、はるか異銀河から来たというコンティード人ペル・エ・キットであった。

 皮革状の「殻」に包まれた不定型生命体は、ポナムの異常な宗教支配を改革するために活動していると語る。そして、情報の流れをたどるゲジルとペル・エ・キットは、続いて訪問した惑星ヴィルカンで、何者かが「ペル・エ・キットがポナムで....」というニュースを捏造した形跡を発見する。

 ゲジルを襲う影----闇の中、とぼしい明かりで暗殺者の姿を確認した彼女は驚愕する。それはアス・レテル、ヘクサメロンの領主!

 750年前、網を歩む者の惑星サブハルから彼女を誘拐したタルカンの超存在が、なぜいままたゲジルの前に? この宇宙ではそのすべての力を発揮できないというヘクサメロン構成者を撃退したのは、いつのまにか武器を入手し、ひそかにゲジルを「護衛」していたペル・エ・キットであった。

 ニュースの発信元を追跡して惑星タントロスへと移動する途中、駆動系の故障から《タバティンガ》は鉱山惑星グロプノールに寄港する。ここでは、特殊に調製されたバクテリアを利用して、シガ人の植民者がホワルゴニウムを採掘していた。

 そして、再び出現するアス・レテル。しかし、ヘクサメロンの領主は、調製バクテリアの影響でそのパワーを急速に失いつつあった。そのかれにとどめの一撃を加えたのは、やはりペル・エ・キット----いや、コンティード人に憑依していた謎の存在ジューリィ。

 かれは、おのれの種族が神と崇める「物質の泉マヌーテの具象化」たるアス・レテルを「解放」するために追求していたと語り、領主とひとつになると塵と化し消滅した。

 バルコン人のステーション惑星ケムバヤンでの事件以来、〈それ〉の年代記作者の手になる〈アムリンガルの年表〉を探しつづけてきた、エルンスト・エラートとテスターレ。

 しかし、クエリオン人キュトマの助けで、パウラ・ブラックホール内に発見したそれは、実は偽物----不完全なコピーであることが、ナックのパウナロの言葉から判明した! だが、ナックはその後の協力を拒絶し、アラスカ・サエデラエレを加えた三人の探究の旅は暗礁に乗り上げた形となっていた。

 かれらに思わぬ救いの手をさくのべたのは、ヤミ商人マラウディ。偶然にも三人が宇宙船を買い入れたこの男は、ナックのウディヴァーと取引関係にあった。「年表」を宝の山と妄信するマラウディも参加してのパウラ遠征によって、アムリンガル探究者たちは、13個の年表のかけらを入手した。ウディヴァーによれば、それを「読む」ことができれば、パウナロが隠したかったこともわかるという....。



4. 紛争勃発 / Konfliktsausbruch

 エンシュゲルド・アーク連盟、トルクレク・フン帝国、そしてグラグコル・グメン同盟----三国に分裂した惑星トプシド。モノス独裁時代にロボット胞子の暴走によって廃墟と化し、テラの20世紀相当まで退行した文明も、ギャラクティカムの援助によって復興しつつある。しかし、一部の銀河評議員の間で結ばれた密約から、三国の統一はなされずにいた。

 そのツケを払わねばならない時がきた。この三国が共同して、大侵略を開始したのだ。

 エンシュゲルド開明派の銀河評議員ナスル・ガトの非公式な努力によって、かろうじて侵攻がおさまったときには、テラ系植民惑星とアルコン人コロニー、総数20がトプシダーの占領下にあった。おりしも、ロクフォルト衛星軌道のヒューマニドロームで開催されていた第1回銀河評議会の面々も、効果的な対策を講じることができない。そのうえ、トプシダー艦隊が未確認の巨大宇宙船に対して大攻撃を開始、との通報!

 そのころ、惑星タントロスに到着したゲジルは、ペル・エ・キットの「告白」をうけて小惑星ジンメリンにむかっていた。

 コンティード人は、「ある人物」から任務をおびて、ゲジルを招きよせるため、実はみずから「ペレグリン」の情報工作をおこなった。ある人物----それがジンメリンに現れるというのだ。イーストサイドから帰還したアトランの《カルミナ》でジンメリンに到達するゲジル。その時、トプシダーの艦隊をけちらした巨大な「貝殻船」が出現する。

 無線でコンタクトをつけてきた巨船の主は、なんと23年前にヒューマニドロームから姿を消したストーカー!

 かつてのソトは、銀河系からの脱出後コンティード人の故郷銀河トルイラウ----NGC5236----に漂着し、そこで謎に満ちた「モノスの父」のシュプールをつかんだというのだ。

 トルイラウを支配する存在は、そこの種族すべてを遺伝子操作で不定型生物に改造し、支配している。ストーカーはゲリラたちと遭遇し、協力を誓った....すなわち、ペル・エ・キットも反乱者の一員。なかんづく、この巨大な貝殻船《シャルン・ユ・ヤーク》の船長だというのだ。

 ゲジルは「局所銀河群の新たなる支配者」と称する存在の統べる異銀河へと、依然神秘に包まれたストーカーとペル・エ・キットとともに出発する。



5. ナック / Die Nakken

 ナック=ウディヴァーの協力でアムリンガルの年表のバックアップから複数の断片を確保したエラートたちは、パラリアリスト、サトー・アンブッシュのもとにあったアミモテュオを用いて、断片に刻印されたプシの記録を読み出していく。そこに書かれていたのは、エスタルトゥの使命を帯びた〈それ〉探索者たちの歴史であった....。

 5万年の昔、ヘクサメロンとの絶望的な戦いから自己を分割し、水面下に隠れた超知性体エスタルトゥは、おのれの「兄」たる精神集合体〈それ〉に救いを求めようとした。タルカンからメーコラーへ、ほとんど不可能とも思える救難信号----しかし、超知性体の逗留場所は超空間。多元宇宙を包むハイパースペースにある〈それ〉を探すのなら、タルカンからであろうともなんら問題はないはず。こうして、ナックは使命をあたえられ、ドリフェルを利用して鍛え上げた超感覚でつねに超空間を見つめつづけるさだめを負うことになったのだ。

 しかし、タルカンでも、《ナルガ・サント》でメーコラーに到達した一群による捜索でも、ナックは〈それ〉を発見できなかった。かれらは、現在も超知性体を探しつづけている。ハンガイがメーコラーに転移され、エスタルトゥが復活したいまとなっても。それがかれらに与えられた使命、唯一の存在理由であるから....。

 エラートらと別れた後、アンブッシュはそれまで逗留していたナックの惑星アッカーティルからヒューマニドロームへ向けて出発した。ナックのウィロムに師事して驚くべき才能を開花させつつあるエイレーネ----現在は、かつてカルフェシュのつけたコスモクラート名「イディニュフェ」を名乗っている----をともなって。

 年表のかけらの読解作業中に姿を見せたパウナロの、奇妙に満足げな発言が、ある疑念を生じさせたのだ。

 トプシダー問題で揺れるギャラクティカム議会場のはるか下にあるナックの国で、アンブッシュはパラ現実の力を借りて過去を蘇らせ....すべてのナックが恐れている真実を暴露する。そう、多くの活性装置所持者から次々と装置を奪い、死にいたらしめた〈幽霊〉とはナック! それも現在指導的立場にあるものたち----かつての秘密結社〈黄金卵の安息地〉のメンバーこそ、活性装置強奪の犯人であったのだ。活性装置を盗むことで、供給者たる〈それ〉をおびきださんとして....。

 アンブッシュと、そしてオブザーバーとしてヒューマニドロームに招かれていたペリー・ローダンは、ナックたちが「後悔」していることを感じる。いまはまだ、二種族のあいだを隔てる壁は残っている。しかし、それが突き崩される日もそう遠くはないと、ふたりは思うのだった。



6. 調停 / Den Frieden zu stiften

 活性装置を失い、《カルミナ》までも失ったアトランであったが、その行動力はいまだ尽きはててはいなかった。新たな盟友、アルコン人カシアン設計による新造艦《アトランティス》がかれを待つ。アルコン帝国統治評議会からトプシダー問題解決の全権を与えられ、1万3000年を生きた男は勇躍出発した。

 事態は表面上、落ちついたように見える。しかし、トプシダーに撤収の意図はまったくなく、虐げられたアルコン人たちがいつ爆発するか、予断を許さない。

 そのとき届いたニュースが、「水晶王子」「皇帝」と讃えられる老アルコン人の心に、ある妙案を生み出した。かれは、10の植民惑星を占領したトプシダーに、「代わりの新天地」を提供する、と告げるのだった....。

 オファル人サラーム・シーンの《ハーモニー》は、ミュータント捜索の悲劇的な幕切れの後も、グッキー、そして、タルカン宇宙生まれのアッタベンノ=ベオズを乗せて、銀河系イーストサイドにとどまっていた。調停者ドリナ・ヴァッサーとの対話以降、「調停」の現場をみずからの目と耳で観察するというのがオファル人の望みとなっていたのだ。

 ようやく訪れた機会は、キューレマン星系----オイトロク、クロイロクという名の、ふたつの居住可能惑星をもつ----でのこと。ブルー人カル族が、トカゲの末裔の原住種族との間に流血騒動をおこしたのだ。カル・ブルー人の軍団を前に、調停者ブランゾル・マネラは堂々と語りかけ、みごとに「平和を取り結ん」だ。なかんづく、カル・ブルー人はキューレマン星系をリング人に譲渡すると発表する。

 サラーム・シーンは感激する。しかし、グッキーは激怒した。誰ひとりとして、リング人を呼んだものはこの星系には存在しない----これでは略奪だ、と。

 しかし、そのネズミ=ビーバーでさえ驚愕する新展開!アトランが、この瞬間をとらえてキューレマン星系へのトプシダー入植を通告したのだ!

 ギャラクティカムに属する星系は、ギャラクティカムに属する種族のもの----アトランはそう論理づける。人口の爆発的増加に悩むトプシド。カル・ブルー人がキューレマン星系の領有を放棄するなら、トプシダーのものとするのがギャラクティカムにとり一番有益な方法。ギャラクティカムへの参加を拒むリング人に譲渡する権利はカル・ブルー人にはない、と。

 すでに到着していたリング人植民団と、後を追うように現われたトプシダー艦隊の間に紛争が生じる。それは一方的な殺戮。しかし、ブランゾル・マネラの「調停」は、間一髪、トプシダーをも押しとどめた。すべてが終わった後、調停者はアトランに、「われわれは選ばれた種族。進化がそれを要求したのだ。われわれは、退行しつつあるヒューマノイド種族最後の牙城」と淡々と語る----調停者との邂逅は、またもアトランの疑念を増幅させたのだった。



7. 探索II / Drei Amringhar-Sucher

 新銀河暦1170年7月、アッカーティルを発ったエルンスト・エラートらの次なる目的地は、眠れるバルコン人のステーション、惑星ケムバヤン!

 アムリンガルの年表のかけらを判読した際、最後に意味不明のグラフィック・データが記録されていた----「鳩」の映像が。エラートとテスターレは、意識が分離したバルコン人の保存体の額にそのマークを目撃していたし、アラスカ・サエデラエレは、かつてテスターレを捜す旅の途中で、クエリオン人ウィボルトに鳩の紋章を与えられ、その効力でナックのエラデルに助けられた。鳩のシンボルは、〈それ〉に、そして、クエリオン人=バルコン人に関係しているのだ。

 ケムバヤンに到着するや、三人は「覚醒した」バルコン人たちに捕縛される。何がかれらをめざめさせたのか? やがて誤解もとけ、バルコン人ゴルトマーと言葉をかわしたエラートは、睡眠者たちを起こし、エラートらを殺させようとしたのが1体のナック----パウナロ----であることを知る。

 ナックにはなおも隠さねばならぬことがあるだろうか?

 ケムバヤンの超コンピューターで年表のかけらを解析した結果、読み出されたのは、わずかな文章の切れはしだった。「〈それ〉を捜すものよ、かの超知性体の最も旧き同行者を捜すがよい。そは炉座銀河にあり」と。三人の脳裏をよぎったのは、深淵の騎士団の聖堂惑星の記録庫に見出された一項目----「〈それ〉の誕生協力者」!

 炉座銀河....ドリフェル・ショックより若干遡って、5次元水晶生命体ノクターンたちは、すでにギャラクティカーをその銀河から駆逐していた。プシ定数の回復により、パラタウの危険性が消滅したためだ。

 それより以前に通用していた「パッセージ・シンボル」も効力を失った。暗黒の700年のあいだ、ギャラクティカーは他銀河への進出の道を閉ざされていたため、パッセージ・シンボルを求める者もなかった。もし現在、それを所有するものがあるとしたら、かつてパラタウの利権でテラと競合した、ピンホイールのカルタン人しかない。

 いったんテラに帰還した三人は、ロナルド・テケナーとカルタン人ダオ・リン・ヘイの支持を得て、《タンボ》で猫族の銀河に出発した。〈それ〉への、アムリンガルの年表への道を知る者----〈それ〉の誕生協力者をもとめて。



8. 競合 / Wettlauf nach Wanderer

 アルコンの10の植民惑星はトプシダーから解放された。しかし、テラ系のそれはまだだった。独自の艦隊をもたぬギャラクティカムには、効果的な対応がとれない。カリオ・クージネンを第一テラナーとする自由テラナー連盟も、軍事行動でトプシダーを駆逐しても何の解決にもならないことを理解していた。

 そこに、協力の申し出があった。リング人。ケラマル・テソンをはじめとする10名の調停者がトプシダー問題を解決しようというのだ。

 だが、その代償とは....通常、リング人は紛争解決の報酬として、居住可能な惑星、あるいは星系ひとつを手に入れる。それも、「要求」してのことではない。調停された種族が、感謝の印として譲渡するのだ。しかし、今回にかぎって、ケラマル・テソンは報酬を事前に要求してきた。

 1169年10月15日、細胞活性装置返還の際、ローダンらのセルン----万能コンビネーション----に記録された、ワンダラーに関する情報のすべて!!

 リング人が〈それ〉に関心をもつのはなぜ? テソンは、「われわれも〈それ〉の力の球形体の住人。権利はある」とだけ語った。

 そんなとき、ひとつの事件が生じた。トプシダーに占領された惑星のひとつエフレム上空に巨大な物体が出現、侵略者を追い払ったというのだ。〈立ち去れ!〉....メンタル・インパルスひとつで、トプシダーは恐慌状態に陥ったらしい。

 巨大な、円盤状の物体。それこそ、ワンダラー! しかし、かつての、そして新たな軌道の延長上にも、惑星エフレムは位置していないのだが....。

 新銀河暦1170年10月。かつての活性装置所持者たちを「銀河系のかけがえのない財産」とするギャラクティカム、そして、自由テラナー連盟の支援で、ワンダラー捜索計画がいよいよ始動せんとしていた。

 人間の意識を分離し、ネーサンのメモリー内部に進入させる〈メタライザー〉実験は失敗。しかし、かつてカンターロの制御通信網として機能した衛星群を銀河規模の探知システムに改造するプロジェクト〈UBI ES〉----ラテン語で「きみよ、いずこに」----の方は着々と進行しつつあった。

 ニッキー・フリッケルの指揮する《タバティンガ》も〈UBI ES〉遂行の任につく。しかし、《タバティンガ》の僚艦《ロレト》が、十数隻からなる未知艦隊の奇襲をうけ、マイクロ・ブラックホールのような効果を発揮する兵器で粉砕されるという事態が生じた。

 確実な情報は何ひとつ残らなかった。しかし、未知艦隊は、あのゲジルを乗せていずこへともなく消えた《シャルン・ユ・ヤーク》と酷似した、いわゆる「貝殻船」タイプであったという....。トルイラウの「モノスの父」は、人類と〈それ〉のコンタクトを望まないというのだろうか。

 《ロレト》破壊を逆手にとって、その捜索エリアにワンダラーのシュプールあり、と推測したローダンは、サトー・アンブッシュを通してナックに協力を要請する。〈それ〉を捜すという使命をエスタルトゥに与えられた種族こそ、現在もっとも有効な同盟者となるだろう。

 そして、エイレーネ=イディニュフェとともに到着したウィロムは、「真か偽か定かではないが、ひとつのシュプールをみつけた」と語る。《オーディン》からナックの《アネズファル》に移乗したローダンの姿が、人々の前から消え失せる....。

 気がつくと、かれはデマロンと名のるアルコン人の肉体のなかにいた。

 そこはワンダラー! しかし、ローダンの知っている人工惑星ではなかった。見えない障壁でいくつにも仕切られた空間内には、さまざまな進化段階のアルコン人が暮らしている。そう、ローダンがこの世界を発見したとき、テラの自然や生物の模倣が多く見られたように----。

 やがて、テラナーはおのれの肉体をとりもどし、円盤世界中央の機械都市に到達した。

 そして、ここが1万1000年前のワンダラーであることを知る!!



幕間 ワンダラーのあまたの時計 / Die Uhren von Wanderer

 機械都市にたどりついたとき、空からの眺望になんの変化も確認されなかったので、ペリー・ローダンはほっとした。すべてが、8000年後、10700年後にもそうであろう、そのままに見えた。少なくとも、この記念碑的な都市への態度に関しては、〈それ〉もあらゆる時代を通じて変わらないらしい。

 そうしたことを手放しで信じられた状態ではなかったのだ。ワンダラーの大地の上空を飛行中、見覚えのあるめじるしはみつからなかった。北米のブラック・ヒルズがあったところには、見知らぬ輪郭の、もっと高く巨大な山塊があり、河の流れはより激しく、かれの知らない道筋をたどっていた。種々雑多な銀河文明の文化の証も、銀河のさまざまな惑星の植生でうめられたエキゾチックな庭園もない----かれがデマロンの肉体の中で体験したような、アルコン史のさまざまな時代の素材ばかりだ。

 だからこそ、機械都市が記憶のままの姿を見せたとき、かれは心底から安堵した。都市の中央で他の建物からひときわ突出した塔にむかい、大きな広場に着陸。ヒュジオトロンのあるホールへの入口をなす門からそう遠くない。

 しばらくのあいだ、虚しい希望をいだいて待った。かれに気づいた〈それ〉が、いにしえの記憶から、西部開拓時代のガンマンを挨拶がわりによこすのではないかと。

 門のそばに動くものがあった。門を抜けて、ローダンにはテラナーのそのままと思えるヒューマノイドが外へと歩み出た。かれは即座に〈それ〉の使者を識別した。

「ホムンク!」うれしくなったかれは、われしらずインターコスモを使った。「すべてがまるで未知のワンダラーできみに会えるとは」

 ホムンクは冷たくかれをみつめた。

「なにを鳴いているんです?」と、アルコン語でたずねる。「あなたは文明の言葉を話せないのですか?」

 それが最初の不快な驚きだった。ローダンはどうにか唾をのみこみ、それからアルコン語で、

「ほかのもできるのさ。だが、きみがインターコスモを理解できぬと、わたしが信じるとは思うなよ、ホムンク!」

 〈それ〉の使者はローダンの非難に応じなかった。

「異人よ、あなたは誰か?」と、ホムンク。「そして、ここで何をおさがしか? あなたが召喚されたものなら、わたしが知っているはず」

 ホムンクに自分がわからないとはローダンは信じたくなかった。むしろ、石頭のまねをしているか、それとも、かれを認めないよう〈それ〉から命令されているのだろう。ローダンは調子をあわせた。

「わたしがここにいるという事実こそ、資格の証明ではないかね? この力の球形体の超知性体を訪れる権限を与えられていなければ、そもそもワンダラーにたどりつくことさえできなかったろう」

 ホムンクは考えこみ、論理的な理由だと思ったらしかった。それ以上ひとことも言わず、踵をかえすと門に歩む。ローダンはあとを追い、かれにつづいてホールに入った。

 ここも一見して、変わったところはなさそうだ。ホールの中央、円形のプラットフォーム上にヒュジオトロンのシリンダーが立っている。背後にある機器類もローダンの記憶どおりだ。

 ホムンクが立ちどまり、ローダンもそれにならった。それからホムンクはわきにどいた。おなじ瞬間、ホールはゆらめく光輝に満たされた。ドーム天井を見上げたとき、ローダンは見慣れた輝きを、たいてい〈それ〉がとるかたちを認めた。極彩色の、めまぐるしく回転するエネルギー螺旋がゆっくりと降下する。かれの頭の高さで静止したとき、ローダンははじめて気づいた。光の粒子の色の構成が、かれの知っているものと違う。

「侵入者よ、きみはあやまてる前提のもと忍びこんだ」不死者の声が轟いた。〈それ〉が対話をステレオタイプな哄笑からはじめなかった事実を、ローダンは悪い兆候とみつもった。「きみはアルコン人ですらない! そして異人であるがゆえに、この世界では招かれざる客。いったい、わたしを煩わす許しを何から得たと思っているのだね?」

「わたしがわからない?」ローダンはたずねた。「思い出せるはずです、わたしはペリー・ローダン」

「その名は、きみの容貌とおなじくわたしには未知のもの」と、〈それ〉が顕現化した螺旋状にもつれあうエネルギー渦流はこたえた。

「わたしはテラナー----ラルサフVの原住種族の末裔です」ローダンは意識して誇らしげに言った。「わたしの思考を読んでください! わたしの内をのぞいてごらんなさい! そうすれば、ほんとうの動機がおわかりになるはず。そして、わたしをあなたのもとへ導いた意図が真剣なものと、得心されるでしょう」

 ローダンの要求には、長い沈黙がつづいた。〈それ〉が、かれを心理的かつ物理的に透視し、分析するのにこれほどの時間を必要としないことを、テラナーはわかっていた。この長い時間は、むしろ超知性体がその中で、困惑をさそい思案させるものにぶつかったことによるのではないか。

「なんとおかしな存在だ、ペリー・ローダンと名のる人間よ!」ようやく〈それ〉がふたたび語りかけた。「きみは自分の考えていることをほんとうに信じているのだな。だが、その考えはあやまりだ。きみはいまだ実現しておらぬ世界に生きていると信じている。はるか未来の宇宙、あるいは決して現実になることのない可能性の未来に」

「わたしはその時間を体験してきました。わたしにとってはそれが現在であり、変わることなき現実です」ローダンは断固として応酬した。「そして、あなたにもおわかりになるはず。わたしが確固たる現実から来たことが。そこであなたが仮象の世界に逃げ込んだ現実から」

 それに対して、〈それ〉ははじめて哄笑を響かせた。

「わたしに時間の潮流を解説してくれるつもりかね、未来と過去とは何か、現実とはいかなるもので、仮象とは何かを? 楽しませてくれるな、人間よ!」

「それは実際にあったことなのです、あなたはわたしたちに細胞活性装置を与え、それから完全にあやまった前提のもと、ふたたび奪い去った」ローダンは根気強く主張した。「いくらかでも客観性をもてばお気づきになるはずです、2万年の猶予が終了したというのが、錯覚を土台にしていることに。われわれに、あなたの誤りを証明する機会をください! それはあなたの義務でもあるはずです」

 〈それ〉はふたたび笑った。今回は、さっきよりも長く。〈それ〉がどこか異常であることを確信しているペリー・ローダンには、集中をとりもどすための時間かせぎではないか、という思いつきを頭からふりはらうことができなかった。

「おかしな幻想を抱いているな、ペリー・ローダン」と、〈それ〉は言った。「わが裁量のもとにある細胞活性装置は、ようやくひとつきりのサンプルが貸し与えられたばかりだ。それ以外の有力な候補者はまだ発見されていない。それと、わたしがきみを詳細に検査せぬまま資格なしと判定したとは思わないでもらいたい。きみは、第二の特殊細胞活性装置がそのために造られた存在ではない。その者は、まず生まれなければならぬ」

 〈それ〉は、ローダンが返答の機会をとらえられぬほどわずかな間をおいただけで、それから語をついだ。

「そうか、きみは大宇宙の遺産を欲しがっているのだな?気の毒だが、来るべき時をあやまったな。まだアルコン人には、わたしの与えたうち8000年の猶予が残されている。きみはそれだけ生きられるかな、時の支配者くん? そうしたら、8000年後にまた連絡してくれたまえ! きみのことを思い出してあげよう」

エネルギーの渦が天井へと浮かびあがり、融けくずれていったとき、ローダンは叫んだ。

「来るとも----そして、あなたは思い出さないだろう、不死者よ! それはすでに起きたことなのだ! わたしはワンダラーに来て、わたし個人に調整された細胞活性装置をうけとった。そしていつの日か、あなたは2万年の期限が過ぎ去ったと信じ、与えた活性装置すべてをふたたび回収するだろう。あなたはそうしたのだ、不死なる者よ!」

 ペリー・ローダンは疲れはてて口をつぐんだ。からっぽの部屋に語りかけるようなものだ。

「時間です」ホムンクの声が聞こえた。「あなたはもう、ここでは歓迎されません。立ち去ることです」

 ローダンはホムンクをまじまじとみつめた。

「せめて、わたしを信じるという徴だけでもくれないか」

 しかしホムンクは無言のまま、かれを不死のホールから追い出した。



追記:ワンダラーのあたまの悪い時計 / Wer ist wer?

「ワンダラーに何が起きた? 〈それ〉は狂ってしまったのか? そもそも、ここは本当のワンダラーなのか?」

「あまたの疑問をかかえたまま、ローダンは〈本来の〉世界と時間に帰還する」

「あまた、といえばワンダラーを支配するいくつもの時計たち」

「とにかく、時代がとちくるっておかしな行動をとりはじめる〈それ〉」

「その〈それ〉が2万年の制限時間をオーバーした人類の後継者として選んだ、いわくありげなリング人」

「顔中に毛が生えてて、個人々々独特の染め方、結い方をしてるとか。でもそんな特徴のほかは思いのほかテラナーに似ているとか、噂はいろいろ」

「あいかわらず、わけのわからんなめくじナック」

「生き残ってるのはみんなサイボーグだから、どっちかっていうと、かたつむりだけどね」

「トルイラウで着々と侵攻を準備する〈モノスの父〉」

「ちなみに、ゲジルにまつわるペル・エ・キットそのほかは、いまいちわけのわからん行動ばかり----これが実はふかーい裏話があるとかないとか」

「けっして、紹介者がわるいんではないと」

「ほんとかね」

「....」

「しかし、そうこうするうちにも最後の62年タイムリミットが刻々と近づいてくる」

「もりあがってきましたよね。最初はどうなることかと思ったけれど」

「----この後、舞台はつぎなるワンダラー物質化ポイント・暗黒星雲プロヴコン・ファウストへ、そして、なつかしの炉座銀河へ」

「WER----〈だれ〉なんつーお助けマシンや、頭の悪くなるシリンダー、なんつーわけのわからん小道具をまじえて、話は急転回!」

「ああ、1550話ももう間近!」

「それなのに、あの主役どもはいったいなにをやってるんだか....」



"WANDERER WANDERT" / 迷走惑星ワンダラー
----from Private Cosmos 11-12

1991/5/15-1992/12/15 r.psytoh with y.wakabayashi
produced by rlmdi