| | | | | | | | | | | | | | | | | | |2 誰よりも自分を、誰よりも信じてる....
地下二キロに建設されたブンカーの防衛司令部で指揮にあたっていた、八人のタム評議員らが事態に対処すべき本来の当事者であったが、この新たな報告はかれらをその座から引きおろすものであった。
全星系艦隊を動員しての迎撃戦に破れ、マークス艦の攻撃を待つだけの悲壮な雰囲気におおわれていた地下司令部であったが、残存マークス艦群がどこからともなく出現した戦闘艦に撃滅されたらしい、という観測を安堵と新たな不安のなかで受けとめていた。
だが、その艦は戦闘後いずこかへ姿を消し、かれらは無力と不安とともに取り残されていた。
しかし、何者かが惑星近傍に出現したことにより、ふたたび緊迫した空気がまいもどった直後のこと、最優先周波帯での通信がその正体を明かしたのだった。
「ファクターIIである。以後、わたしの指示を厳守せよ」
スクリーンに輝く、島の王のシンボルマークと人工音声が、かれらの主人を出迎えることを命じていた。
「惑星間砲台に命令を徹底させろ。いかなる場合にも命令なく発砲してはならん、いいな。防衛艦と戦闘機の全部隊は、損害を省みずファクターIIの乗艦の護衛にあたるのだ」
軍事担当タム評議員のカル・ガルスは、防衛指揮官に厳しい口調で指令をいいわたしていた。
何のきまぐれかはわからないが、島の王のひとりがあらわれ、その力の一端をしめしたのだ。なんとしてもその真意をさぐり、力を利用しなくては。
そのかたわらに、生産担当タム評議員のブリュイが立ちどまった。「タム評議員ガルスよ、この事態をどうみる」
「われわれにはあずかりしれないことだ。ファクターIIほどの大物が直接あらわれるなど、前代未聞のことだからな」
ガルスは無表情にこたえた。「だが、艦隊は全滅し、もう防衛手段はない。増援を得るか、疎開するか、とにかく指示を仰ぐしかあるまい」
「なるほどな」
ブリュイは他人事のようにうなずき、立ち去ろうとして、ふとその歩みをとめた。
「ところで、きみは島の王に会ったことがあるかね?」
ふりむいたブリュイに、ガルスは唖然としたようにこたえた。
「まさか」
「そうだろうな」
ガルスは、やや腑に落ちないものを感じながらその背中を見送った。しかし、かれにはすべきことが多すぎて、そんな出来事はすぐに忘れられた。
「目標地点に到着。予定のメッセージを送信します」
〈ぽしえっと〉の人工音声が報告。
「そのまま、一時待機。警戒体制は継続」
クドウが指示をくだす。
不安気なティナと不敵な表情のウエザムをちらとながめる。
〈ぽしえっと〉が遠まきに接近する艦艇をとらえた。
「中尉、護衛らしいのが接近してきますが」
ウエザムが一応、クドウにうかがいをたてる。
「無視しろ」
平然とした声がかえる。
「は?」
「いいか、こっちは島の王だ。護衛か何かしらんが、好きに振る舞うに決まっているだろう」
「なるほどね」
納得顔のウエザム。
「〈ぽしえっと〉、次のメッセージを用意。『タム評議員カル・ガルスは、来艦せよ』、それに転送機の周波数を指示。ティナ、間違いはないよな」
黙ってうなずくティナ。
「さて、芝居の第二幕を開けるとするか」
通信将校が、カル・ガルスに報告する。「至急、来艦せよとのことです」
八人のタム評議員たちは顔を見合わせた。
ブリュイが問いなおした。
「それだけか?」
「それだけです、タム評議員」
「なるほど。ガルス評議員を指名だそうだ。急いだ方がいい、島の王は待たされるのには慣れていないからな」
「光栄なことだ。島の王に直接、お目にかかれるとは」
そうつぶやいたガルスに、ブリュイが冷たく言った。
「直接会えると決まったわけではない。きみは責任を問われるかもしれん」
〈ぽしえっと〉の声が転送機室に響いた。
「おでましだ」
緊張した面持ちのクドウ、ウエザム、ティナ。
まぶしい発光現象が収まると、ステージの上にひとりの初老の男が立っていた。
「カル・ガルス提督!」
ティナの呼びかける声に、無表情を装ったなかに驚きの色がうかんだ。
「ようこそ、カル・ガルス、タム評議員」
クドウの口から、正確なテフローダが流れでる。
「これから、話すことを冷静に聞いてほしい。われわれは、あなたの協力を必要としている」
テフローダー老提督の無表情の仮面が剥がれ、緊張と狼狽にかわる。
「われわれ? 彼女は? 誰がファクターIIなのだ?」
とまどいながら、おもわず口をひらくガルス。
「提督、わたしを覚えておいでですか?」
かけよって敬礼するティナ。
「ああ、覚えている。たしか、ティナ....、ティナ・ウォレスだな。だが、なぜここに? これは島の王の艦ではないのか?」
「違います、閣下」
「なんだと!」
タム評議員は、クドウを鋭く見つめた。「これは、いったいどういうことだ」
「そう、われわれは島の王ではない。テラナーだ」
「テラナーだと!」
「はじめにいっておこう。われわれは、あなたと交渉したい」
クドウは腕を組んだまま、直截にいった。
「敵と交渉などしない」
カル・ガルスは言下に退けた。そして、厳しい表情でクドウとティナをねめつけた。
その険しい表情に、ウエザムは姿勢をやや正した。この爺さん、怒らすと手強いかもしれない。
「私を捕らえたところでなにも変わらんぞ。情報を得ようというなら、残念だが....」
「われわれの敵はテフローダーではない。島の王だけだ」
クドウはガルスに気押される様子もなく、いつもの表情でおちついてこたえた。そして、ティナの方を見て、
「彼女はさきほどの戦闘の生存者だ。戦闘はテフローダー側の敗北だった。彼女を収容するには、不本意ながら残存マークス艦群を撃破しなくてはならなかった。これは事実だ。まったく不幸な事故だった」
かれは突然遠くをみつめて、自分の言葉にうなずいた。カル・ガルスの視界の外で、ウエザムが両手を空にむけて肩をすくめる。
すこし脚色されているが、だいたい事実にちがいない。
「すぐに信じろとはいわない。だが、まず話をきいてほしい」
カル・ガルスはその硬い表情にさらに皺をくわえたが、意味あいは少しちがうもののようである。
かれは疑わしげにティナの顔を見た。
「本当なのか?」
「その通りです、閣下」
たしかに、それはかれが司令部のスクリーンで確認した情報と一致していた。しかし、テラナーとマークスは同盟しているはず。この男は、なにをいおうとしているのか....。カル・ガルスは、記憶に新しいかつての副官の顔を見つめなおした。
彼女は必死だった。
機会をはかっていたかのように、クドウはゆっくりとガルスに歩みよった。そして、さほど厚みのないファイルをさしだした。
「これを読んでほしい。これは最重要国家機密だ」
ガルスは不信の目でクドウとファイルをみくらべた。そしてあたりに窺うような視線をめぐらせると、意を決したようにファイルを無造作に手に取り、テフローダで記された内容に目を走らせた。
「ば、ばかな」
震える声と腕。
「これは謀略だ。信じんぞ、テラナー!」
後ずさりして声を上ずらせている、自分より遙かに年長のテフローダーにクドウはなだめるような調子で語りかけた。
「信じてほしいですな、提督。それはすべて事実です。わが太陽系帝国が、アンドロメダ遠征で得た情報、最重要機密だ。テラナーとテフローダーは同族なのだ」
「!」
驚愕に覆われるティナの表情。「嘘」
「嘘じゃない。ティナ、タム評議員。信じ難い偶然の結果として、ふたつの銀河に別れていたひとつの種族がふたたび出会ったのだ」
クドウは自分の言葉の効果を確認するかのように、テフローダーたちの顔を見やった。
「この星系の戦力は消滅した。もう、次回の攻撃からは防ぐ手段はない、破滅だけだ。いや、ここだけではない。すべてのテフローダーもそうだ。島の王にしたがうかぎり破滅しかない。かりに島の王が勝利するとしても、それまでにアンドロメダの有人惑星の大半は荒廃してしまうだろうし、島の王が負ければ、アンドロメダはマークスのものだ」
クドウの真剣な声と表情に、カル・ガルスは自然に耳を傾けていた。
「われわれテラナーは、すでに島の王の五人までを倒した」
その言葉を耳にした瞬間、カル・ガルスは呼吸がとまるほどの驚きをうけた。打ちのめされたような衝撃をうけて、あしもとがゆらいだほど。これまででもっとも信じがたい言葉。しかし、かれは喝采を叫びたい気持ちを心の奥で感じていた。
クドウの言葉はつづく。
「テフローダーはその名前すら知らない存在だ。残りのふたりを倒すまで、第二銀河での作戦は遂行される。そのためにマークスと同盟した。このままでは、われわれは、テラナーはテフローダーの戦後の地位を保証することはできない!」
そのテラナー、クドウの言葉と表情はたしかに真剣そのもので誠意あるもののように思えた。しかし、これが謀略でないと誰にいえよう?
カル・ガルスはそれまで夢想だにしたことのない恐るべき想像が胸中で形となるのを感じていた。
島の王の支配から脱する。
あまりにも途方もない考え。想像することすら許されない危険な思想。
テラナーの言葉は、老いたテフローダーの胸にすら嵐を呼び起こす。テラナーと交渉する術があれば....。
だが、テフローダーとしての誇りがその心の動きを制した。
「テラナー、きみのいうことは聞けんな。よしんば、それが事実であったとしても、テフローダーとテラナーの歩みはすでに遠く離れたあとなのだ。もう、遅い」
「ふむ」
クドウは腕組みしたまま、片眉を吊り上げてみせた。
「当然、拒否するとおもってましたよ」
カル・ガルスは混乱した。この男は、一方的に衝撃的な和平提案をつきつけておきながら、それを拒否されても何ら動じる様子も見られない。このテラナーはなにを考えているのだ? やはり謀略なのか?
「機会はいちどだけというわけではない」
クドウは独り言のようにつぶやく。
その表情はあくまで冷静。
ウエザムははらはらと事態を注視する。
交渉決裂と同時に撃ち合いがはじまったりすることはなさそうだが、これだけ手の内を明かしてしまえばこのテフローダーたちを無事にかえすわけにもいくまい。どうするつもりなんだ、中尉は。
しかし、呆気にとられるテフローダーを前に、クドウはなにごともなかったかのように部下に声をかけた。
「ウエザム、ふたりを転送する準備だ」
「は? 中尉、もうあきらめンですか」
クドウはへらへらとこたえた。
「嫌だっていってんだろ。ほかをあたろう」
「でも、提督はともかく、女の子も送りかえしちゃっていいんですか」
真剣にウエザム。
「黙れ。テラナーの品位を疑われるようなことを口にするな」
不機嫌なクドウ。
それまで沈黙をたもっていたティナだったが、そのふたりのやりとりを見て、われにかえったように叫んだ。
「待って! あなたたちしか頼れないの。提督、島の王たちがテフローダーをどう扱っているか御存知でしょう。このテラナーは信じられます」
「信じたい、のまちがいだろう」
老提督は、半泣きの女性士官をたしなめるようにいった。
「このテラナーは信じられるかもしれない。しかし、他のテラナーは? テラナーの指導者たちは? どうなのだ」
鋼のような言葉と視線がとんだ。
かれとて、信じられるものなら信じたい。しかし、これは危険な賭だった。レートは途方もなく高価だ。破れれば滅亡で支払わねばならない。
ガルスの言葉に、クドウは平然と応じた。
「国家は約束などしない。しかし、指導部は交渉結果を尊重するはずだ。それが、有益なものであるかぎりだが、」
クドウはそこで一息ついて、先を続けた。まるで、行間に何かあるかのように。「最高指導者ペリー・ローダンは、とりあえず人道的な政治家として知られている。いずれにせよ、自分は提案を受けいれてくれれば、全力で援助する」
大見栄を切ったクドウに、ウエザムが小声で囁いた。
「そんなこといっていいんですか。おれは知りませんよ」
「黙ってろって」
これは橋。
明日へつながる唯一の橋。
ティナは息を飲んでなりゆきを見守った。瞳に涙を滲ませ、指を強く握りしめて、そして信じながら。
ウエザムに彼女の内心が読めたなら、その言葉を肯定したろう。
美しい虹の橋、と。
その橋を渡ってくるのは夢だけではない。不可避な破壊もなのだ。
だが、角笛が吹かれるのは、できるなら夢を見たあとにしてほしい。
カル・ガルスは理解した。
このテラナーは、かれにとって一本の藁なのだ。溺れる者がつかむ藁。かれには、いやテフローダーには選ぶ余地などないのだ。
カル・ガルスは心を決めたように尋ねた。
「それで、きみは何を交渉しようというのだ」
「正確にいえば交渉ではない。ただ、テフローダーが破滅を逃れる方法をしめしたいだけだ」
まるで他愛ないことを語っているかのようにクドウの口調はあっさりしていた。しかし、その視線は揺らぐことなくテフローダーに注がれていた。
「これも最高機密だが、テラナーとマークスの同盟には幾つかの付帯条項があり、そのひとつにアンドロメダ銀河の支配権をマークスに与えるものがある。それにより、テラナーはテフローダーの戦後の運命に干渉することはできない!」
「馬鹿な....。それでは、テラナーとテフローダーが交渉する余地などないのではないか」
打ちのめされたのようにカル・ガルスは呻いた。
「その通りだ。だからそういったはずだ。しかし、そこに抜け道があることを発見した」
「だれが?」
「オレがだ!」
すかさず茶々をいれるウエザムに、クドウが噛みつきかえし、すぐに先をつづけた。
「しかし、ここでこの同盟はマークスとテラナーの間のみに結ばれたのではないことが重要になってくる。つまり、これはテラナーおよびその同盟種族とマークス間で結ばれた同盟なのだ。誇り高きマークスは同盟種族などもたないが、テラナーと一括して呼ばれている種族は実は複数の分派同族と異種族の連合体であるのだ。したがってこれは、島の王と戦う種族間の同盟といえる」
ティナと老提督は、真剣な表情でクドウの独演会を見守っている。
「そこで、島の王に叛旗を翻し、テラナー麾下で戦ったテフローダーは、もはや島の王の補助種族テフローダーとは同一種族とみなせないという見解が可能になってくる。なにしろ、この同盟に調印したのは、大提督アトランその人なのだから、もし条約がテラナーのみに作用する場合には、この同盟条約そのものが無効となるわけだ」
クドウはわずかな聴衆を見渡した。「これが提案だ。もし、盟約がなれば、《L.G.F.N.C》はテフローダー艦と戦列を組んで戦う。マークスが攻撃してくれば応戦する。とりあえず、マークスの攻撃はないだろう。島の王を滅ぼすまでは戦力を分散するようなことはしたくないはずだ。問題はデュプロ艦隊だが、太陽系艦隊の支援をうければ対応できる」
いいたいことはすべて言った、とばかりに満足げなクドウに、あいかわらず硬い表情のカル・ガルスが問いかけた。
「納得のいく説明だが、テラナーの重要機密にそこまで通じているとは、君は何者だ? 見たところ随分若いようだが....。もうひとつ、これはテラナーの公式見解ではないという印象をうけるのだが、きみのテフローダが伝えきれていないせいかね?」
「さすが、海千山千の老雄といったとこだな」
小声でつぶやくウエザム。
「官姓名も名乗らず失礼した」
威儀をただしてクドウが改めて名乗った。
「太陽系秘密情報局所属、中尉、ユーキ・クドウ。以上の見解については、すべて、前線の一士官の見解に過ぎないことをおしらせしなくてはならない。命令により、テフローダーの分断工作を実施することになっているが、その際に臨機に応じた大幅な自由裁量を認められている」
「情報将校だったのか....。しかし、勝手に同盟を結ぶことも裁量権にふくまれているのかね?」
皮肉っぽくたずねるカル・ガルス。
「いや。しかし、反島の王勢力を支援することは認められている。パドラーのように」
クドウは共犯者的な笑みをうかべた。
「つまり、反乱テフローダーの支援要請をうけたということかね?」
「あなたが、これから要請するんですよ。ただし、当分は素知らぬ顔をしている必要があるが....」
テラナーとはかくも無茶苦茶な連中ばかりなのだろうか。これでは統制などとれまい、とカル・ガルスは理解に苦しんだ。あるいは、情報部だけに変な連中を集めたとか。いや、特別なのはこいつだけに違いない。
指導部の考えは(テフローダー的冷酷さで)まともそうではないか。しかし、テフローダー軍には自由裁量権など、理論上の存在でしかないというのに。
たしかに島の王の支配を脱することを夢見ないテフローダーはいない。まして、すでに見捨てられた身ではなおさらだが、マークスと島の王の両方を相手にして生き残れるだろうか。このテラナーに組して、まんまと島の王を騙しおおせるだろうか? いや、なにより島の王が敗北するのだろうか....。
融通のきかない年輪を積んだ軍人のようだが、単純ならざる心境そうな老提督を見て、ウエザムは内心で息をついた。良心作戦に巻きこまれたテフローダーふたりめだ。
そして、ボーイッシュなショートヘアのテフローダー女性のクドウを見つめる瞳にためいきをつく。これが芝居じゃないのが中尉のいいとこだが、本気なのが怖いところでもある。それを見てまいあがってるこの娘は....、鉄の規律のテフローダー艦隊で免疫がないせいだと思いたいところだが、英雄を見るような瞳になっててヤバそうだな。ま、テフローダーにしてはいい娘そうだが、中尉には似合いかもしれない。
ウエザムは、本来ならクドウの暴走を収める役回りなのだが、ときとして止まりかけた車輪に油をさして歩くことに楽しみを見出しているかのようでもある。
そんなかれのことである。クドウとカル・ガルスの真剣なやりとりの行方よりも、ティナ・ウォレスの視線の方が気になって仕方がないのだった。
カル・ガルスは決断を委ねられていることを意識した。だが、かれとてタム評議員のひとりにすぎないのだ。行動に出るにはタム評議会を説得する必要がある。それにはこの証拠をしめすだけでなく、島の王への畏怖と忠誠を挫く心理状態をつくらなければ....。
「わたし個人の権限だけでは決定できないのだ。きみ....、クドウ。わたしとともに直接、他のタム評議員を説得してもらえないか」
クドウは内心で安堵のためいきをつきながら、あえて事務的な口調でいった。
「それは、回答としてうけとってよいのですね」
「そうだ。きみの提案をきこう。危険をおかすだけの価値はある」
これでカル・ガルスは島の王にとっての反逆者となった。
そして、この企てが失敗した場合には、かれもクドウと運命をともにすることになる。
「ちよっと待って下さい。中尉、危険すぎます。テフローダーのまっただなかにひとりでいくなんて....」
あわてて止めにいったウエザムに冷たい声が返ってくる。
「誰がひとりでいくといった?」
「....、やっぱり」
しかし、ここで〈ぽしえっと〉の合成音声が異議を唱えた。
「中尉、わたしも反対です。危険が多すぎます」
「虎穴に入らずんば....、っていうだろ。なぁに、こっちには秘策がある」
動じる様子もなくクドウ。ウエザムはあきらめ顔で首をふった。
「〈ぽしえっと〉。本艦は恒星系外縁で待機、命令を待て。もし、一時間以上連絡がとれなかった時には、リ=セス恒星の核にトランスフォーム砲弾を発射し恒星系ごと破壊しろ。その場合は惑星から脱出する艦艇も逃すな」
至近距離からギガ爆弾全弾を連続斉射すれば、主系列星なら融合反応を促進されノヴァ化する。
「ハードだ....」
「了解しました」
カル・ガルスは無表情をたもつことで、同意をしめした。
(この男、非情さではデュプロにひけをとらん....)
「ウエザム、五分で準備だ。提督、秘密の転送機の受入れステーションはありますか?」
「だいじょうぶだ。タム評議員は、惑星上の全転送機を自由につかえる」
「では、いきますか」
テフローダー提督は、この無謀なテラナーが、かれがつかんだ一本の藁であることを意識しつつ立ちあがった。かれとテフローダーの運命は、この若者が握っているのだ。しかし、それがかすかな光明でしかないことも確かだった。
《L.G.F.N.C》は無人のまま星系外縁に移動、動力の大半を停止、対探知スクリーンを展開して待機に入った。
無論、疑似人格付与インポトロニクス〈ぽしえっと〉は艦の全機能をもって万全の支援態勢をととのえている。
表面上カル・ガルスが評議会を動かし、最終的な局面で初めてテラナーが姿を見せることがもっとも効果的であるというのは当然な結論であった。
それまで、ティナ・ウォレスをふくめた三人はタム評議員の随員として扱われることとなった。これならば行動もかなり自由である。
経験上、島の王のエージェントはどこに潜り込んでいるかわからないので、クドウらの行動はかなりの慎重さを要求されているのだが、かといって、このふたりは黙って缶詰にされているような連中ではなかった。
IDカードを手に入れ、「食事が味気ない」などとひととおり文句をいいおわり、テフローダーの生活習慣や市街図をレクチャーすると、早々に周辺チエックという名目で観光にくりだした。
「なんだ。テフローダーの惑星とかいうから、もっと人工的なとこかと思ったよ」
ティナが用意した地上機から、ウエザムが風景を物珍しげに見まわしながらいった。
材質や建築思想がテラとは相当異なっているようで、建築物は高層壮大というよりは、比較的コンパクトで、広い敷地には街路樹様のものが豊富であった。
「人工的といいますと?」
カル・ガルスが案内に付けてくれたティナ・ウォレスがたずねた。
「自然なんてこれっぽっちもないかと思ってた」
あっさりいうウエザム。
「別に自然がないわけではありません。ただ、放置された自然というのは少ないですが....。テフローダーも天然の環境が与える効果を無視はしていません。たとえば、観葉植物というのは多くのテフローダーが愛好しています」
観光案内でも読みあげるようなティナのこたえに、
「ふむ、やっぱり想像通りだ」
ためいきまじりにウエザムがつぶやく。「ねぇ、中尉。このトランスポンダ、訳に無理がないですか。使用説明書(マニュアル)みたいな調子でよくないですよ」
「ちが〜う。テフローダがもともと、そういう無機的な言語なんだよ。あるいは、ティナが話し言葉的な喋り方をしていないかだな」
「じゃ、無理ですよ。テフローダーにはお喋りを楽しむ習慣はないそうじゃないですか」
「それも違う。アルコン人は冗談を話さないというが、アトラン大提督は毒舌家だ。要するに、基本的にテフローダーは論理的(ハード)なんだよ。それ以外はふつう」
「命短し、恋せよ乙女ですか。お固い(ハードな)相手は苦手でしょが」
「じゃ、バージョンを組み換えよう。方言変換バージョンを使おう。『ナニワのアキンド言葉バージョン』とかにするか」
「....」
しばしの沈黙の後、ウエザムが口を開いた。「いまのままでいいです。その方がもっと、疲れそうですから」
「そっか」
不思議な顔でふたりを見るティナ。
「それより、おふたりのことをもうすこし教えていただけないですか?」
「最重要国家機密だからいえない」
きっぱりクドウがこたえた。
「でも....、せめて呼び方だけでも....」
「それそれ」
途端にウエザムが身を乗りだす。「呼び方が硬いよ。ねぇ、中尉」
「おまえだって、形式的には充分硬い呼び方してるよ」
クドウが、自分の階級名がまるで軽い調子に扱われているのに不満を表した。「もしも、少佐に進級したとしても、中尉中尉って呼ばれそうな気がするぞ」
「それそれ。ファーストで呼んでもらえばいいでしょ」
「おまえの名前には、ファーストもセカンドもないじゃないか」
「ちゃんとありますよ、失礼しちゃうな」
「ま、そういうことだよ」
「えと....。どういうことなんですか?」
かなり困惑顔のティナ。
「こっちはウエザム、おれはユーキでいいよ、ティナ」
人には充分、なれなれしい呼び方をしている。
「まぁ、多少知っておく必要があるとすれば....」
興味ありげな顔のティナとウエザム。
「誕生日とスリーサイズ、くらいかな」
「....」
「そりゃ、あんたのじゃないでしょ、中尉〜」
「わたしの、ですか....?」
自信なげなティナの声。
隣でウエザムが声にならない笑いを洩らす。「トランスポンダがついていくかどうか知らないけどひとつ教えとくと、中尉は足フェチで....」
「?」
「ドタマ吹き飛ばす。原子レベルまでブチ壊す」
「??」
「....あと、最近の趣味はショートカット」
「え?」
すぐには理解できない。しかし、自分の髪型をおもいだす。
ちらっとクドウを見てやや頬を赤くする。黙って、外をみるクドウ。
ニヤリとするウエザム。
こうでなくちゃ、おもしろくない。
ブリュイは、カル・ガルスの行動に多少の疑問をいだいていた。
ファクターIIの召還をうけたにもかかわらずかれは無事に帰還した。また、それっきり、ファクターIIの乗艦はいずこかへと姿を消した。
ファクターIIはなぜ、カル・ガルスを指名したのだ? 戻ってきたのは本物のカル・ガルスなのか?
評議会にカル・ガルスは驚くべき報告をもたらした。
島の王は疎開を指示した、と。
「島の王は、この星系の防衛は不可能であり、人的資源生産力を他に転用するために、リ=セスの全人口ならびに移動可能な生産設備、兵器、施設、エネルギーを、約三千光年離れた恒星系フレームに疎開させることを決定した。もはや、われわれはこれ以上の支援をうけることもなく、出来るのは、次なるマークスの来襲前に疎開することだけなのだ」
「そ、それは本当か。島の王はわれわれを見捨てたのか」
悲痛な声が上がる。
「しかし、疎開することだけは認められたのだ」
冷静な声で、ブリュイがそれにこたえた。
「そうだ。指示にしたがわなければ、島の王が懲罰艦隊を送るまでもなく、防備の破れた惑星はマークスの好餌になるだけだ。諸君、ただちに疎開プログラムにかからねばならない」
衝撃がうすらぐと、首席タム評議員ラワトは、次々と指示をだしはじめた。テフローダーは物事をつねに実際的に処理することを好む。
ブリュイも生産担当タム議員としての仕事を果たすため動きはじめたが、カル・ガルスの硬い表情に、かすかに疑惑のこもった視線を向けていた。
クドウがカル・ガルスに提案した、リ=セスのテフローダーを救う手段とは、全住民ごとアンドロメダを逃亡することだった。
もとより、仮にリ=セスが充分な戦力を保持した強大な星系であれば、島の王陣営から離反することにより、戦後も独立を維持しえたかもしれない。また、デュプロ艦隊の攻撃をも正面から迎撃可能であったろう。
しかし、ここにはマークスの攻撃に脅え、離反すれば即刻、島の王の懲罰艦隊の攻撃にさらされる、防備のうすい惑星があるのみであった。
クドウは、ファクターIIの名前を持ちだすことによって、疎開作戦に名目をあたえ、実行段階になってはじめて、テフローダー首脳に真相を明かして同意を得るつもりであった。
現在のところ、ことは順調に運んでいる。
カル・ガルスがタム評議会を動かし、リ=セスの疎開作戦をはじめた以上はしばらく静観しているしかない。
もし、疎開がおわるまえに、マークスが攻撃してくるようなことがあれば、《L.G.F.N.C》で殴りこむだけだったし、しかし、それは上層部が抑えるべく努力してくれるかもしれない。マークスが戦略上重要性の低いリ=セスをわざわざ狙ってくるはずはなく、遭遇戦程度ならば《L.G.F.N.C》で支えきれるだろう。クドウは特殊艦の素性が知られていないのを幸いに、マークスとの開戦も辞さないつもりであった。識別信号さえ切ってしまえば、正体などわかりようもない。無茶を承知とクドウは居直っていた。どうせ真相など闇から闇へと葬られ、それが秘密情報局の仕事なのである。
それよりも、島の王のエージェントに発見されることの方が危険だった。
たとえ重要度の低い惑星といえども、必ず枢要部に、島の王のエージェントが潜んでいるはずだ。
いくらなんでも、大兵力のデュプロ艦隊を相手にしては、《L.G.F.N.C》とて対抗しきれない。
『島の王に対する反乱を敢行したテフローダー惑星政府と接触。当該政府は太陽系帝国との友好関係樹立を要望しており、全権を持つ士官、あるいは外交官の急派を要請します。また、不慮の交戦を避けるべく、近傍宙域へのマークス艦隊の侵攻を停止するよう共同作戦司令部へ連絡を早急に実施願います。また、デュプロ艦隊による攻撃の可能性もあり、有力なる支援グループの派遣も併せて要請します。早急なる支援および指令なき場合、また他勢力侵攻時に際しては、当星系在留艦隊最先任士官としての裁量権を行使いたします。』
「また、《L.G.F.N.C》か!」
秘密情報局から派遣された作戦グループ指揮官マルク・クーパー大佐は、通信を見てじだんだふんだが、もう遅い。
「どうして、ややっこしいことはみんなあいつのまわりで起こるんだ? まったく、なんてこった」
空母の司令室は広大である。主力兵器たる艦載機の指揮センターを兼ねているためである。そのため、この艦の中枢には、戦隊司令官と幕僚、艦長、軽戦隊司令、航空団司令、など主要士官が常時詰めているのだが、もともとが部外者のマルク・クーパー大佐には居心地が悪いようであった。かれの居場所は司令室を見おろす作戦室にある。(ちなみに〈軽戦隊〉とは、伝統的に偵察部隊をしめす名称である)
そんなかれの言葉にこたえる声はない。
やり場のない不満をとじこめてクーパー大佐は、同席させていた空母艦長ジャンニ・ガウディ大佐に問いかけた。
「ジャン、モスキートと最良のパイロットを借りたい。すぐに準備可能だな?」
「構わんよ。航空指揮官に連絡する必要があるがね」
「では、すぐに頼む。総旗艦《クレストIII》のもとへ、この通信を届けたい」
ガウディは気のない様子で、インターカムのキーを押した。
「ハイパーカムを使えばいいだろう」
ひどく他人行儀ないいかたに、クーパーはむっと、ガウディをにらんだ。
「ジャン、いいたいことがあれば言ってくれ」
同年配のふたりの佐官は、作戦室のテーブル越しにものいいたげな視線をぶつけた。
「では、いわせてもらえば、モスキートを派遣するよりもっと別にすることがあるんじゃないか」
空母艦長の声は冷たい。
秘密情報局を指揮官として仰ぐなどと想像したこともなかった。
「これは命令を待つ必要がある事項なのだよ」 クーパーにとっては、艦長の反感などとるに足らないことであり、かれはそれを意識しつつも無視して冷静にこたえた。
「そうかね。五千光年先で、命令と支援を待っている孤立無援の味方がいるのにか? それはきみの部下だぞ。たった一艦で、テフローダーの面倒もみなくてはならんのにだ。なのに、この艦には戦闘力充分なモスキート四個部隊二百機が眠っている。どうも思わんのか?」
これが情報局のやり方か、とばかりにガウディはまくしたてた。
「そんなことは問題じゃない。マークスとテフローダーの紛争には我々は介入できない。すれば、マークスとの平和条約は吹っ飛んでしまい、アンドロメダで泥沼の戦争に巻きこまれるだけだ。これは、大執政官も承認していることだ。テフローダーをどうするかは、上層部でのみ判断できることなのだ」
わかりきったことを言わせてもらいたくない、という表情で、クーパーはガウディの言葉を封じた。
「もし、マークスなりデュプロ艦隊なりが攻撃してきた場合は?」
憤懣やるかたない形相でガウディがたずねた。
「臨機応変に行動するはずだ。つまり、マークスとは交戦を避けるはずだ」
冷静にクーパーはこたえた。
「しかし、この報告では、かれは最後の一弾まで戦いそうだぞ」
ガウディは皮肉な口調でかえす。
とたん、クーパーは苦虫をかみつぶしたような顔になった。
「だからこそ、早く命令がほしいんだ! あの馬鹿が暴れださないうちにだ」
言葉にも苦いものが作用したようだった。
「では、さっさと召還すれば?」
「やつは通信封鎖を楯にして、返事なんてするもんか」
ほう、それが秘密情報局の流儀か、とばかりに興味深げな表情をつくった空母艦長を、クーパーは少量の殺意をこめた視線でにらんだ。もし、宇宙空間を視線が越えられるものならば、その大半はクドウに注がれていたはずである。どいつもこいつも大局が見えん小者ばかりだ。
しかし、そればかりが物の見方というわけではない。テフローダーがテラナーと同族だとしても、テフローダーと戦うことには抵抗はない。だが、それが島の王に叛旗をひるがえしたとなれば話は別というものだ。そうなれば、テフローダーもテラナーもないではないか。実際、ガウディだけでなく、艦隊将校の大半はテフローダーを見捨てるという決定に不満を抱いていたのだ。
ガウディは話はこれっきりとばかりに肩をすくめていった。
「よかろう、君が指揮官なんだから好きにすればいいさ。しかし、言っておくが戦闘になったら君の指示はうけないぞ。この艦の艦長はわたしだからな」
クーパーは気のない様子で同意をしめす。何のつもりで、あたりまえのことをいまさら持ちだすのだ。
「なんたることか!」
アトランはテーブルを叩いて叫んだ。コーヒーカップから黒褐色の液体が飛翔し、他の三人はその行方に視線を奪われた。
「これは明らかに命令を逸脱している。ただちに召還すべきだ、マーカント、きみの部下だろ。すぐに処置したまえ」
「しかし....」
「いいかいいか。こいつは放っておけば取り返しがつかないことになるぞ。もし、やつがマークスと交戦でもしてみろ、この同盟はどうなる?マークスは、テラナーとテフローダーが手を組んだのではないかと疑うぞ」
アトランは、オリの中の猛獣さながらにウロウロと歩きながらまくしたてる。
「ただちに帰還命令をだそう」
ローダンが即刻断をくだした。「ティフ、命令を伝達するのにどのくらいの時間が必要だ?」
「そうですね。通報艦をだして《コーラル・シー》と会合させ、そこからモスキートで伝令をおくるとして....」
「遅い! ハイパーカムで命令しろ」
「しかし、通信管制をタテにして無視するかも」
「だったら通信管制も解除するよう命令し....」
アトランはそこで、通信管制を解除する危険にきづいた。《L.G.F.N.C》との交信をとらえて、マークスが攻撃でもしてくれば....。
「とりあえず命令だけは先に通信で送れ。その後、モスキートで回航士官をおくって、やつから指揮権をとりあげろ」
ティフラーは、一方的に命令するアトランを避けて、本来の上官であるローダンに目でうかがいを立てた。
ローダンは無言で、アトランの命令を是認することをつたえた。
「では早速、通報艦を発進させます」
ティフラーは逃げるように席を立った。
「ところで」
ローダンがマーカントに向かっていった。
「もしも、仮定の話だが、その....、なんといったか、アトラン?」
「《Lonely Girl....》、いや、《L.G.F.N.C》だ!」
「そう、その艦が命令にしたがわなかったとしたら、いや、仮定のはなしだがね」
とたん,アトランが傷ついたような顔になった。
「ペリー、超鋼鉄の軍規を誇るテラ軍人が命令に背くはずが....」
アトランは言葉を途中でうしない、ぎょっとした表情をうかべた。
それは、マーカントが絶対の確信をもって首を横に振ったからである。
「ち、ちよっと待ちたまえ。で、では....」
「そうです。命令を無視する可能性大です」
マーカントが申しわけなさそうにこたえた。
「そんな馬鹿なことが、なぁ、ペリー」
アトランが必死な形相で笑いをうかべようと努力しつつ、ローダンを見る。
ローダンが力なげに、虚ろな笑みをかえした。
「マーカント! きみのとこでは、命令もロクに聞けんようなアウトローを飼ってるのかね?え、納得のいく説明を聞かせてもらおうではないか」
一転、いきりたつアトランに、マーカントが冷静にこたえた。
「諜報機関には、えてしてそういった手合いが要るものなのですよ。そうでないと、柔軟な活動ができないので。それより、USOにだって、わけのわからない暴れん坊がたくさんいるようですが」
アトランの網膜に、エルトルス人とかシガ人の姿が不意に浮かんだ。
「ま、それはそれとして、で、どうなのだ。その艦が命令を無視した場合、その、沈黙させるのに、どの程度の戦力が必要かね」
あえて、「沈黙させる」という婉曲な表現を使ったローダンに、アトランが鼻白んだ。
「そうですね、巡洋戦艦数隻。あるいは空母が必要でしょうね」
マーカントがこたえた。
「それほどの戦力を、どうして突然発狂するようなアホタレにあたえたのだ、マーカント。きみらしくもないぞ」
アトランの追及にも平然とこたえるマーカント。
「通常は、多少命令を拡大解釈しても、充分な成果をあげていましたので」
「ふむ。土壇場になって突如、命令より良心が主役を演じるということもあるわけだ」
第三勢力時代のローダンの行動を皮肉って、アトランがつぶやいた。
それを無視して、ローダンが口を開いた。
「いざという場合に備えて、グリームのマークス艦隊を交替させておこう。ブリーに増援をおくってもらう必要があるが」
「それがいい。ここにはマーカントを残して、《クレストIII》と《インペラトール》も全艦隊と出撃すれば、マークスも不審に思うまい。前線では一万隻は喉から手が出るほどほしいはずだ」
冷やかにアトランが補足した。「しかし、できれば何事もないことを望みたいが....」
ローダンが同意の表情でうなずいた。
マーカントは、思惑ありげにスクリーンのアンドロメダを眺めていた。
首脳部の会談の直後、一隻の軽巡がグリームを緊急発進していった。
通信室からの連絡に艦長ガウディ大佐は鋭く応えた。
「モニターに出せ」
指揮コンソールのモニターにうかびあがる文字群。
『貴艦ノ位置ヲ報セヨ/いらくりをん』
「馬鹿な。作戦中だぞ。コードを確認しろ」
艦長の怒鳴り声にもうしわけなさそうな通信士官の声。
「それが....、コードに不備はありません。いかがいたしますか?」
「誘導ビーコンをだしたまえ」
割りこんできた低い声、作戦グループ指揮官マルク・クーパー大佐。
「何を言っている? 危険すぎる」
顔色を変えて詰めよるガウディ。
「かまわん。通報艦だよ、艦長」
「断言できるのか?」
「戦闘準備しておいてもかまわんよ」
真っ赤な顔をしてガウディ大佐は一瞬沈黙した。
「全艦戦闘準備! 準備完了後、ビーコンをだせ。五秒間」
憤懣やるかたないという表情で、ガウディは命令をつたえた。
数分後、《コーラル・シー》から二光秒の位置に一隻の軽巡が実体化した。
「艦長、命令だ」
作戦グループ指揮官クーパー大佐は、軽巡が送信してきた命令の解読結果をしめして、勝ち誇ったようにいった。
「ただちに全艦戦闘準備。全軽戦隊を発進させ、通信中継任務にあてる」
「で、当面の本艦の任務は?」
能面のような無表情さで艦長ガウディ大佐はたずねた。
「《コーラル・シー》は、《L.G.F.N.C》との通信可能空域に進出し、状況を監視する」
ガウディ大佐は胡散臭げな目つきをしたが、反駁せずしたがった。
通信センターの技術士官の報告にうなずくアラン・D・マーカント。
「《ヴァーヌート》はアンドロメダ中枢ゾーンに可能なかぎり急速に進出。リ=セス恒星系をとらえる通信セクターへ波状ハイパー通信を送信したのち離脱、《コーラル・シー》と合流。命令を伝達後帰還すること。作戦行動中は無線封止。電文は以下のとおり....」
通信をおえると、マーカートは通信センターの要員に穏やかな声で命令をつたえた。
「ここであったことは、極めて高度な機密事項である。諸君らはこの件にはいかなる関与もしていない。そして、この通信のことも速やかに忘れるように。では、おやすみ」
泣く子も黙る秘密情報局長官のいうことに逆らう者などいるはずがなかった。
司令長官グレグ4が作戦会議に出席したマークス高級将校らにスクリーンをしめしながら説明していた。
「その方面はグレグ87の指揮下の艦隊の担当だ」
一人のマークスが指摘した。
「いや、グレグ87は戦死した。かれの艦隊は敗走中という報告をうけている」
グレグ4は無表情に応じた。
「テフローダー軍は局地的にだが優勢をたもっている。テラナーの支援はうけられないか」
「小規模なテラナーの部隊が作戦していたとしても、われわれとは無関係ではないか」
マークスたちにとって、ささやかなテラナーの活動など眼中にないようであった。
「各艦隊指揮官には、テラナーが作戦中であるので、規定の識別信号には注意するよう伝達しておきたまえ。ただし、戦闘にあたっては識別のため逡巡する必要はない」
グレグ4がしめくくった。
かれらは禁断ゾーン内部で何がおきているのかまだしらない。
警報とともにあらわれた指揮官にテフローダー士官が報告する。
「マークスか?」
「いえ。テラナーです」
「テラナーだと! 随分小型だな」
テフローダー指揮官はスクリーンに映しだされた映像と情報を見てつぶやいた。
「探知は?」
「いえ。敵はまだ気づいていない模様です」
指揮官はテフローダーらしからぬ満足げな笑みをうかべて言った。
「血祭りにあげてやる。島の王もお喜びだろう」
二十隻のテフローダー巡洋艦は探知のための待機を解かれ、インパルスエンジンを始動させた。
まったく、こんな時にかぎって機関が故障するとは! 三基のカルプを装備し、超高速を誇る《ヴァーヌート》とはいえ、アンドロ・アルファにはじまって各種任務のため走りまわってきた疲労が蓄積していたのだ。
「敵艦隊、機関始動。攻撃態勢に入ります」
緊迫した報告に、ストイヴェンの声がかぶさる。「機関室、修理まだか」
「司令室へ。応急修理終了。リニア航行可能です」
落ち着いた声が返ってきた。
間髪をいれず、ストイヴェンの命令がとんだ。
「リニア全速!」
直径百メートルの球体は空間から消滅した。
「追跡する。全艦リニア航行」
指揮官はあわてずに命令をくだした。
いったん秤動ゾーンへはいると相互の連絡は不能になってしまうが、位置はわかるのだ。
テラナーめ、秤動ゾーンは安全だとでも思っているのか。
報告をうけるとストイヴェンはほっと一息ついた。《ヴァーヌート》は太陽系艦隊きっての高速艦。逃げきるのは造作もないはず。
しかし、一瞬の後、輝く閃光につつまれた軽巡はリニア空間からも消滅した。
テフローダー偵察部隊 十秒後
アンドロメダ禁断ゾーン外周部
「敵艦捕捉。射程内です」
「砲撃開始」
命令とほぼ同時に二十隻のテフローダー艦の対極砲が火を吹き、発射されたギガ爆弾はリニア航行中の《ヴァーヌート》のバリアに命中、爆発した。圧倒的なエネルギーの威力のまえに軽巡は小太陽と化して消滅した。
「敵艦撃沈」
テフローダー指揮官は満足そうにうなずいたが、なぜ小型のテラ艦が禁断ゾーン外周をうろついていたのかは考えなかった。
もっと重要なことがあったのだが。
〈ぽしえっと〉はただちにメモリーを解読。通信文を抽出すると通信衛星を射出、低出力の超短波通信を複数の衛星経由で、それを惑星上のクドウへ転送した。
通信を読みおえると、クドウはそれを放りだしていった。
「まぁ、こんなもんだろうな。期待は一応してたんだけど、甘かったかなぁ」
「返事はどうします?」
さっと通信文に目を通すと、ウエザムがたずねた。
「無視しとくか」
「向こうも、返事は期待してないんじゃないですかね」
他人事のようにこたえるウエザム。
「そだな。おれ、しばらく散歩してくる」
「目立つようなことはしないでくださいよ」
「ほっとけ」
そのわずか二時間後。
テフローダーが市内につくった自然公園。丘を小川がめぐり、芝生様の植物がひろがる。上空の太陽の陽ざしを周辺に置かれた反射鏡が調整し、穏やかで暖かな日和を演出している。その片隅で寝ころがって、昼寝をきどる若い男。
その手首に付けた平べったい金属製のリングが、目に見えない微妙な振動を発した。
もごもごと喉をならすクドウ。
「DOUBT on call」
「中尉、マーカント元帥からの命令です」
耳元からウエザムの声。
素早く起き上がると、クドウはリストユニットを撫でるように触れる。
空中をゆっくりと接近してくる機影。
公園におかれた反射鏡の角度が本来の意図に微妙に逆らうかのように変化。
クドウの頭上の偵察衛星が、クドウのミニカムとウエザムのミニカム、そして《L.G.F.N.C》を同時にリンク。バースト化された通信の解読は〈ぽしえっと〉の役目。衛星と《L.G.F.N.C》は収束通信で結ばれる。
「中尉、接近する機体を確認。テフローダー、ティナ・ウォレス大尉です」
これは〈ぽしえっと〉。
「命令は、『可能な限り広範囲のテフローダー政府と接触し、島の王への蜂起を指示せよ。ただし、あくまで非公式に隠密裏に、かつマークスとの接触を避け、艦の保持に努めることを優先とする。支援部隊を送る』、以上です」
「気が変わったんですかねえ?」
納得いかなげなウエザムの声。
「さあね」
クドウは気がのらないようにこたえた。
どうも、裏がありそうで嫌な予感がする。
煽るだけ煽っておいて、知らん顔ってのはよくある話だしな。
「迎えが来たから、しばらくしたら戻る」
「イエス・サー」
ミニカムを切ると、クドウはまた日向ぼっこの続きをはじめた。
「ユーキ、こんなとこにいたんですか」
と、頭上に人影。目を閉じた横顔を、隣にしゃがんだ少女がのぞきこむ。
「ちゃんといえるようになったな」
まぶしげに瞼を開き、からだをおこすクドウ。「どした? 用事かい」
そう言いながら、隣のショートの髪の少女を見て、ころっと態度を変える。
普段の制服姿とうってかわった、華やかな色彩のロールアップした長袖ジャケット、その下はホワイトのストラップレスのフイットシャツ、アンダーにショートパンツ姿というティナ・ウォレス。
その恰好が目にはいるや、勢いよくおきあがると、瞳を輝やかせてたずねる。
「こんな恰好しちゃって平気なのかい。参ったな、秘密兵器をかくしとくなんて」
「え? あの....」
頬を赤らめてくちごもるティナ。
やっぱり、似あわないのかな。ちよっと、恥ずかしいし....。
「ふだんより、全然オシャレじゃない。ちゃんと、こういうの持ってるもんだよね、女の子って」
「その....」
どぎまぎして、返事が返事にならない。
まっすぐかれを見れずに、視線がうつむいてしまう。
「よかったよかった。やっぱり、どこへ行っても、女の子はかわらないもんだ。さぁ、いこう。アイスクリーム食べにいこう。あ、しまった。ここにはアイスクリーム屋なんてないかもしれない。いかんいかん」
妙にはしゃぐクドウは、無遠慮な動作で、ティナのジャケットに触れる。「軽いね」
胸元が視線にさらされるのを感じて、とたんにとびあがるように彼女は立ちあがった。
「あ、あの、カル・ガルスがお呼びです」
足元からみあげて、クドウが心の底から残念そうにこたえる。
「なんだ、用事だったか」
地平線を見ながら直立不動で返事のティナ。「そ、そうなんです」
「ふぅ〜ん」
急に楽しげな調子に変わるクドウの声。
はっとして、地面をむくティナ。ショートパンツから伸びるきれいな足元に、クドウ。あわてて、すぐにその場にすわりこむ。
「まぁ、用事じゃしようがないか」
あいかわらず未練がましいクドウの言葉。「で、きみは? どこかへおでかけかな?」
「い、いえ。ご案内します」
うつむきかげんのティナのこたえに、ちよっと意外そうなクドウ。
「そのためだけに?」
「そ、そうですが....」
「先にのばせないような緊急の用事かな」
「そ、そこまでは....」
「そうか、残念」
残念? いま、残念って?
ティナは、屈託のないクドウの横顔を盗み見。残念って、どういう意味かしら? ひょっとしたら....。
「しかたない。いくか」
クドウが不承不承に起きあがると、ティナもわれにかえって立ちあがる。
「ウエザムは?」
「先にいってます。多分、ここだと聞いたので....」
そう、ウエザムが服装のアドバイスも....。たずねもしないことを、いきなり話しだし、「がんばりなよ」って、片目をつぶった。あれも、テラの習慣なのかな....。
ティナは、着陸したばかりの乗用機にクドウを先導する。
華奢な機体に不釣り合いに、大柄な透明のキャノピー、明るいブルーの塗装。
「ほう」
さっと機体をながめて、クドウがいった。
「かわいいじゃないか」
「え? いえ、ありがとう」
一瞬、背筋を伸ばすと、すぐに笑顔でこたえるティナ。元の塗装は黒だったが、塗りかえて良かった。笑顔の理由はそれだけではなかったけど。
サイドバイサイドのシート。普段と違って、むきだしの足が変に気になって仕方ない。
ティナは、注意を操縦に集中しようと努力しつつ、機を始動させた。
低い唸りとともに浮きあがる機体。
「反重力制御です。ほとんど自動で飛びます」
ティナが解説しながら、操縦捍から手をはなす。
それと同時に、機体は緩やかに上昇をはじめた。
「ガイドビームによって、高度やルートごとに使用区分されてるので、目的地を指定すればあとは自動的に飛行します」
小型スクリーンに指示を打ちこんで、ティナがクドウの横顔をうかがった。
「どこでも同じだな」
リクライニング気味のシートにもたれて、乗客気分でつぶやくクドウ。でも、視線はキャノピー外にではなく、足元をさまよっているが。
「テラ、もそうなのですか?」
「ああ。でも、そんなものがあるのは都市上空だけで、郊外じゃ、自由に飛びまわってるよ」
「自由に飛ぶんですか?」
信じられないといった表情のティナ。
「不思議かな」
そのままの表情でうなずく。
その顔に、なにかいいたげなクドウだったが、ふと不審気にキャノピー越しに外を見る。
機体は依然として上昇を続けている。それだけでなく、垂直上昇から、機体姿勢も変化。見た目にも明らかに傾いていく地平線、かなりの高度に達しても上昇はとまらない。
ティナを見ると、顔色を変えて操縦捍にとりくんでいた。
「変です」
クドウに困惑した視線を送る。
まあ、たしかに変だが、そういわれても困る。
それが悲鳴に変わる。
「操縦不能です」
「らしいね」
クドウは平然とこたえた。
「ティナ、墜落した経験は?」
「ありません」
状況を把握しかねる、といった目をして小声でこたえるティナ。
「実は何度もあるんだ。でも、地上にぶつかったことはないんだ」
痛そうな顔でクドウがいった。
この人、何を考えてるんだろう....、ティナは一瞬笑っていいのかどうかためらった。
しかし、その間にもキャノピーには青空が全面にひろがっていく。
上昇を続ける機体はそのまま、宙返りにはいった。
キャノピーの回りの景色が青空から地上へうつっていく。重力制御機構のため、まったく加速度を感じないので、非現実的な出来事のようだ。
クドウが左腕のリストユニットのいくつかのキーを手早く押して叫んだ。
「〈ぽしえっと〉! 位置は捕捉してるな、自動操縦のガイドビームを切れ!」
ぶつける気だ。
ティナが悲鳴とともに抱きつく。キャノピーには地上の道路が飛びこんでくる。
間に合わない。目を閉じてティナを抱きしめる。
一瞬の空白。
機体は地上数センチで静止していた。
『中尉。ガイドビームを切りました。機体は停止しているはずです。生きてますか、元気ですか、気絶しましたか』
〈ぽしえっと〉の合成音声がクドウを呼んだ。
「助かった」
『お役に立てて光栄です。待機にもどります』
大きく息をはく。危なかった。
ふとわれにかえると、からだを離してティナの顔をのぞきこんだ。「ティナ」
「ユーキ....」
力一杯閉じていた瞼をひらく。まだ恐怖に揺れる瞳。「どうなったの....」
「生きてるよ」
笑いかけるクドウに微笑みかえすと、そのまま抱きあげられる。
「こ、困ります」
慌て声のティナに、クドウの笑い声。
焦って、自由な手でジャケットの襟元を合わせる。
「故障かな。後は歩いた方が良さそうだ」
故障どころか、事故に見せかけようなんて手のこんだまねをしてくるとは....。やはり、島の王のエージェントはいたようだ。
この程度ですんでしまったことに、ちよっと不満と感謝のいりまじった気分で歩くクドウだった。
まだ血色のもどっていないティナと、そうでもないクドウとを迎えたとき、カル・ガルスは憮然とした風情だったが、ティナの服装を見るや一瞬驚きに似た表情をうかべた。
ウエザムは、相好を崩すと片目をつむってみせた。
「なにか悪いことでも....」
素早く顔色をよみとってクドウがたずねた。
「見てくれ」
一通のファイルをさしだす。
さっと読みくだすクドウ。
「これは....。あなたが、島の王に対する裏切りを企てている、という告発文書ですね。いったいどこから....」
「タム評議員たちに送られてきたらしい。そのことで、明日にでも秘密会が開かれる。タム評議員のブリュイがしらせてくれた」
「どこかに島の王のスパイがいるわけですね」
「おそらく....」
「われわれも、ついさっき事故にあいそうになったばかりでして....」
クドウが他人事のような顔で話す。
それを耳にしたとたん、色めきたつウエザム。「だから、危険だって....」
「とりあえず切り抜けた。しかし、こっちの正体がバレつつある以上、潮時でしょう」
「だが、いつのまに....?」
「中尉、それでわざとブラブラしてたんですね。尻尾をつかむまえに、やられたらどーするんです!」
喰ってかかるウエザム。唖然とするティナ。
この人は自分を囮にしていたなんて。
「少なくとも、どこかに島の王のエージェントがいることはわかったんだ。本当はいない方が都合がよかったんだが」
涼しい顔のクドウ。
「そうだな....。そろそろ対決した方がいい。タム評議員たちを説得しよう」
カル・ガルスが決意をかためたようにいう。
「他に道がないことはわかっているはずだ。きみたちも評議会に同行してほしい。資料は持ってきているだろう?」
「かまいませんが、提督。行ったとたんに逮捕ってのはいただけないですよ」
悪戯っぽくクドウが、カル・ガルスにこたえた。
「いや、悪くすると提督も内通の疑いとかで、チョンですよ」
ウエザムが首のあたりで手を振った。
「そんなことがないように願うがね」
こたえながらもカル・ガルスは、たしかに冗談が現実になってもおかしくない、この状況でも、くつろげるらしいテラナーの感覚に呆れていた。
「ところで、島の王のエージェントらしいのはいましたか。あなたがそうではないかとも思ったんですが、違うようだ」
平然とした顔、口調でたずねるクドウに、驚いてカル・ガルスは叫んだ。「何だって?」
「いや。もし、あなたが島の王のエージェントなら、何をおいても島の王に報告したでしょうからね。それにタム評議員が島の王のエージェントだったりすることって、わりとありがちなんですよ」
「しかし、どうしてそんなことがわかるのかね」
「まぁ、企業秘密でして....」
へへへ、とウエザムが笑った。クドウは背伸びしていった。「まぁ、これが商売ですから、おどろくことはないですよ。だから島の王のエージェントもこれくらいはできると思ってください」
「では、タム評議員のなかに....」
カル・ガルスは絶句した。
「可能性はあります。気をつけてください」
クドウが平然とこたえた。
ティナは茫然と会話に聞き入っていた。
もうすぐ、もうすぐこの星のテフローダーの運命が決まる。島の王に背くことを思うと恐怖感がわきあがってきたが、しかし、自由、という言葉をおもいだし、クドウの横顔を見つめた。
会議場付近の見取図を呼びだして検討する、クドウとカル・ガルス。
クドウの視線は真剣だったが、その口もとには、なにかおもしろがっているような笑みのカケラが離れない。
明日は、かれのそばにいようと決心して、視線を上げる。
その視線の先では、くつろいだ表情のウエザムがVサインでこたえてた。
ティナは頬が熱くなるのを感じた。
見られていた!
クーパー大佐は新たな指示を請うために、ふたたびメッセージ弾を艦隊に向けて射出した。
そのあいだにも貴重な時間が空費されることに、かれは考慮を払わなかった。
すでに各宇宙港および衛星軌道上には大小の輸送船が集結しており、住民の一部は指定された集合地へと移動させられていた。また、比較的規模の小さい生産プラントやエネルギー施設が解体されて、輸送船へと積みこまれはじめていた。
あとはプログラムの最終段階、最も困難な乗船を開始するだけである。各輸送船には住民リストにもとづく乗船リストが配布されていたが、パニックが発生し作業が混乱に陥ることも予想された。
タム評議会は開始早々から荒れた。
釈明に努めるとおもわれていたカル・ガルスが、予想に反した過激な演説をくりひろげたからである。
「....、テフローダーは島の王のために多大の犠牲を払ってきた。だが、かれらはそれに報いるに何をもってしただろう。テフローダーとは、島の王の楯でしかないのだ。われわれはそれを認識しなければならない時にきているのだ」
カル・ガルスの演説がおわるやいなや、タム評議員の秘密会はたちまち大混乱に陥った。
他の六人のテフローダーたちが、装っていた冷静さをついに取り払って、さかんに怒声をとばしあう、そのなかで生産担当のタム評議員ブリュイだけが沈黙と平静をたもっているのが、カル・ガルスの注意を引いた。
「ところで、カル・ガルス。さきほどのきみの話だが、それは現在おこなわれている疎開計画と関連があるのではないか」
淡々とした言葉は裏腹に冷たいブリュイの目に、カル・ガルスは胸騒ぎを感じた。
「まさか、この疎開は、ファクターIIの命令などではなく、きみの創作なのか....」
首席タム評議員ラワトが、ややうわずった声でたずねた。
「その通りだ。島の王の命令などではない」
カル・ガルスははっきりとこたえた。
「ばかな。そんな権限はきみにはない!」
檄昂して統治担当のタム評議員ユールが叫んだ。「そんなことを島の王の許可なく実行にうつせば、われわれは破滅だぞ。わかっているのか?」
「ではきくが、わが星系のこの状態は、破滅寸前ではないとでもいうのかね」
反論を許さないカル・ガルスの言葉に、テフローダーたちは言葉を失った。
「で、きみの最終的に言わんとするところは?」
ブリュイがひとり冷静な口調でたずねた。
「わたしが言いたいことはひとつ。いまこそが、島の王の支配から脱する時なのだ」
今度は、会議場は静まりかえったままだった。
しばらくタム議員たちは、カル・ガルスの言葉の衝撃に耐えるかのように沈黙をたもっていたが、首席タム評議員のラワトがそれを破った。
「カル・ガルス、きみがいうように島の王の統治から独立したとして、それでマークスやテラナーとの戦闘からリ=セスは逃れられるのか。たしかに戦局が島の王やテフローダーに不利に動いているのわかるが、島の王が現実に敗北するなど、よもやありうるのだろうか」
それは全員の気持ちを代弁しているかのようであった。もはや騒ぎ立てるテフローダーはいなかったが、沈黙に耐えられないかのように、輸送担当タム評議員オートが口を開いた。
「しかし、アンドロメダ中央転送機が破壊されたという噂がある....」
「噂に過ぎん」
統治担当のタム評議員ユールが言下に打ち消した。
「いや、実際に中枢ゾーンで多数の恒星系が連鎖的に消滅したというのは事実だ。これが、テラナーの秘密兵器だとすれば....」
「そんな強力な兵器があるはずがない。かりに事実だとしても、どうやってテラナーやマークスと交渉するのだ? いやそんなことのまえに、われわれが裏切ったと知ったら、島の王はかならず懲罰艦隊をおくりこんでくるだろう。そうなればおしまいだ」
治安担当タム評議員ディロイが悲観的な見通しを語る。
かれらにしても、認識はガルスと同じであっても、とても現実には移せないという気持のようだった。
そのとき、それまで黙していたカル・ガルスが発言を要求した。
「諸君。この場にある重要な参考人を召喚する許可をいただきたい。わたしの提案に現実的な力を与えてくれるはずだ」
議長が許可を与えた。タム評議員たちも興味をもったようで反対するものはいなかった。
「これほどの重要会議に呼ぶとは、かれらはいったい何者なのだ?」
ブリュイが、姿をみせたクドウらを指さして鋭い口調でいった。
クドウがカル・ガルスに目をあわせると、ガルスはうなずいた。
その時がきたのだ。
「かれらはテラナーだ。かれらはわれわれを援助する用意があるといっている」
リモコンでヴィジフォンをオフにする。
「あのコ、ひとりで喋りっぱなしで、あたしは"はい、はい"っていってばっかり」
「そうね。でも、まあ今度のは好意的だったんじゃない」
途端、少女は唇を尖らせて、不満でいっぱいというアピール。
「そう! あれはひどかった。あたしは悪魔の手先かって、感じよね」
「でも、これはいいわあ。"あたしの歌ってうるさいから----"」
「よしてよ、ナナちゃん。なんか、ついそんなこと喋っちゃったけど、いつものきまぐれよ」
「ふ〜ん」
疑わしげな視線。
「まあ、あの近所迷惑なバカなら、アンドロメダでもガンガン流してそうだわ」
じつのところ、それどころではなかったのだが。
クドウは、ローダンらが五万年前のレムールで知りえた数々の事実を語った。そして、島の王のうち五人までが正体をあばかれ、倒されたこと。トランスフォーム砲とHU"バリアの威力、《L.G.F.N.C》の戦闘力、アンドロメダ中央転送機の破壊、マークスとの同盟の成立、その意味するところを、テフローダーたちは知った。
「マークスは大攻勢に出ている。島の王は自分を守るのに精一杯で、テフローダーのことなどには手がまわらない。そして、島の王の命脈もあとわずかだ」
はじめは何人か反論を企てるものもあったが、いまでは全員が息をのんでクドウの話に聞き入っていた。
「このまま島の王と心中する気なのか、テフローダーは? わたしは同族として、可能な限り援助を提供したい。破局から逃れる方法は、ただひとつだ」
声もないテフローダーたちのなかから、ブリュイがひとり口を開いた。
「つまり、アンドロメダを捨てることなのだな」
「そうだ」
クドウは肯定した。
「もし、テフローダーが島の王に公然と軍事的に対抗するなら、マークスに対しても、同盟者として相応の戦後の地位を要求できたろう。無論マークス優位の条件であっても、せめて現状維持は望めるだろう。だが、島の王の敗北が明らかになった後では、マークスもその必要を認めまい」
クドウは一旦言葉を切り、テフローダーたちをみわたした。
「しかし、テフローダーは島の王の力を恐れてそう簡単には立ち上がらない。自衛のためマークスに反撃すれば、マークスの敵意を煽るばかりだ。だが、幸いといっては何だが、リ=セスは自衛できない。座して滅亡に脅えるなら、レムールの子孫として自立する道もリスクは同じではないのか。カル・ガルスは賛成してくれた。同意が得られれば、可能な限りの支援を約束しよう」
クドウが演説をおえると、本人にも意外なことに、会場の大きさに比せばまばらながら、拍手がわきおこった。
テフローダーたちですら、生きのびる道を選んだのだ。
「テラナーが援助してくれるのなら希望はある。アンドロメダを離れて、新天地を求めようではないか」
声をふるわせて、ディロイが叫んだ。
「議決を」
カル・ガルスが、ラワトをうながした。
タム評議員は全員一致で、クドウの提案をうけいれた。
「ありがとう」
クドウが短く礼の言葉を述べた。すこし意外なことに感動したらしく、なにかひとこと言いたかったようだ。
これなら、大多数にくらべればほんのわずかだが、良心の体重計の目盛りをもうしわけ程度には回復させられそうなくらいは、テフローダーたちを救うことができる。
そして、硬い表情を崩し、瞼をぬぐっていたティナをちらっとながめた。
大事のまえの小事として、テフローダーを見捨てる苦しい決断をしてしまった首脳部が、いまさら罪滅ぼしをしたがるとは到底おもえないが、積極的に妨害してくることはないとクドウは踏んでいた。
しかし、だからといってクドウの行動を事後承諾するとも思えない。そのあたりをどう誤魔化すかは厄介だが、最悪でもあの娘にトップモードのドレスを着せるくらいの退職手当てはもらえるだろう。
いや、くれなきゃ不正経理操作するまでのことで、その方がいい手かもしれない....。
そんなクドウの胸中はしらず、タム評議員たちはクドウをとりかこんで感謝の言葉とともに握手を求めてきた。
「感謝するぞ、テラナー」
「休戦したのは、リ=セス星系とテラナーであるのをお忘れなく」
カル・ガルスの握手に応じて、クドウがこたえる。
「きみの個人的勇気には感心したよ、テラナー」
そういったのは、生産担当タム評議員ブリュイだった。
その言葉にか、ちよっと顔をしかめてクドウがこたえた。
「いいえ。閣下はテフローダーのため、それ以上の勇気を必要としたでしょうから」
ブリュイは無言で背を向けた。
やがて興奮が収まると、ラワトが新たな方針を指示した。
「疎開計画を修正しよう。人員が最優先だ。資材は後回しでいい。可能になりしだい、乗船をはじめる。タム評議員諸君はそれぞれの担当部門の指揮にまわってほしい。カル・ガルスは、テラナーと共同して防衛部隊の指揮をおねがいする。では、解散しよう」
テフローダーたちが決意も新たな表情で部屋を出ていくなかで、ブリュイがクドウを呼びとめた。
「きみ、さきほどは話さなかったことだが、重要な話があるのだが、わたしのオフィスまで来てもらえないか」
「は?」
怪訝な顔のクドウ。目でカル・ガルスを見て、反応をうかがう。
「ちょうどいい、タム評議員も同席してくれたまえ。では、十五分後にわたしの部屋で」
言い終わるとブリュイは、足早に立ち去った。
「しかたない。ウエザム、あとで合流する」
「わかりました。いこう、ティナ」
クドウは、制服姿のティナに手を振って、ガルスと歩きだした。
「お気をつけて」
「なんにしろ、話がまとまってよかったよ」
通路を進みながら、ウエザムがティナに話しかける。
「まとまらなかったら?」
「全員、粛清するという手はある」
あっさりいうウエザム。
「でも、武器なんて....」
持ちこめなかったはず、といおうとしてティナは口をつぐんだ。
ウエザムは、どこからか手の平大の小型兵器を取りだしていた。
「シガ製」
「シガ....?」
「そう。細工好きの小人がつくったんだ。威力は見た目どこじゃないよ」
まさか、とティナが思った瞬間。ふたりはまぶしい光にとらえられ、意識を失った。
ブリュイの執務室は、カル・ガルスと同様の広いスペースではあるが、質素な造りであった。
デスクから立ちあがって、ふたりを迎えるブリュイ。
挨拶も早々に、本題にはいるクドウ。
「タム評議員、重要な話といいますと?」
ブリュイは冷静な口調で、クドウに質問した。
「ではテラナー。さきほどのきみの艦についての話は本当かね。わたしには、実のところ、それほどの戦闘力があるとは信じられんのだがね。いかなるマークス艦、テフローダー艦をも圧倒するほどの戦闘力があると?」
クドウはやや、白けたようにこたえる。
「本当ですが」
それが、重要な話なのか?
「だが、誰もその姿を見てはいない。どこにいるのだ? わが軍の探知機器では捕捉できないのかね?」
ブリュイの執拗な言葉に、クドウは肩をすくめてカル・ガルスを見る。
「技術データがいる、と?」
「そうだ。われわれの科学者が検討する」
「お断りします。テラ艦の戦闘力は過去のデータから概要はつかんでいるはず。本艦はそのなかでも最新最強のもので、しかも当時よりさらに進歩しています」
クドウは一言のうちに、要求を退けた。
カル・ガルスが、やりとりに割ってはいった。
「そんなに問いつめる必要はないのではないか?」
「あるのだ。ぜひとも聞いておく必要がね」
ブリュイは冷たく言い放つと、銃をふたりに擬した。
「どういうことだ」
愕然としたガルスの声。
「あんたが島の王のエージェントだったか。やはり、タム評議員のなかにいたんだな」
クドウが動じた様子もなくいった。
「タム評議員のなかにいたとは....」
力なくつぶやくカル・ガルス。
「御明察だが、すこし気がつくのが遅かったな。さて、話の続きだが....」
「われわれを殺せば、おれの艦がこの惑星を破壊するぞ」
すかさず、クドウが警告する。が、ブリュイには影響をあたえないようだった。
「ほう、それは楽しみだな。まあ、わたしには関係ないことだ。どのみち、おまえたちの裏切りがしれれば、島の王がこの惑星を破壊しただろうからな。とにかく、さきほどの質問にこたえてもらおうか」
「嫌だね」
思いっきり嫌味な表情と言葉でこたえるクドウ。
「そうくるとおもったよ」
ブリュイはまったく意に介さず続けた。
「テラナーというのは見かけは柔弱そうだが、実は非常にタフな種族だ。だが、惜しむらくは情に流される傾向がある。これを見たまえ」
その言葉と同時に、続き部屋の扉が開き、拘束フィールドに捕らえられたウエザムとティナの姿があらわれた。
「ティナ! ウエザム!」
思わず叫ぶクドウ。
蒼白な表情のティナ・ウォレスと、対照的に悪びれたところのないボナム・ウエザム。
「やぁ、中尉。ジタバタしないで捕まりましたよ」
一瞬、島の王のエージェントと太陽系秘密情報局員の双方に似たような苦笑がうかぶ。
「さて、このふたりがどうなってもいいのかな。とくに、このテフローダーに御執心のようだが」
嘲るようなブリュイに、毒づくクドウ。
「相変わらず、いいやり方するな」
「まぁ、嫌ならいわなくてもかまわんよ。きみらを捕まえた以上、もう欲しい情報は手に入ったも同然だからな」
「デュプロか」
「そうだ」
酷薄な笑みをブリュイは浮かべた。
「しかし、カル・ガルスがファクターIIに呼ばれたと聞いて少し焦ったがね。こんなハッタリをかけるとはいい度胸だったな。多少評価しよう。おかげで手間どってしまったよ」
勝利に酔った解説に水をさすかように、クドウが皮肉った。
「そっちこそ、勝ち誇っておしゃべりしてていいのかい」
「これは御忠告ありがとう。では、とりあえず、本物の島の王に連絡するとしようか」
そうこたえると、ブリュイは油断ない視線をふたりに注ぎながら、自分のデスクに戻り、通信装置を作動させようとして、一瞬視線をそらした。
その機を逃さず、ウエザムが拘束フィールドを解除、目にもとまらぬ早業でシガ銃を抜きはなつと発砲。
しかし、ブリュイは薄笑いを浮かべ、それを見送った。
まぶしいエネルギーの光条は、その眼前で弾き飛ばされた。
いつの間にか、島の王のエージェントの体を輝くフィールドが覆っている。
ブリュイの哄笑が室内に響く。
だが、その隙。
わずかに遅れて、クドウがどこにどう隠していたものか、宙にあらわれた愛銃をかまえる。
ほぼ同時にフロアに落下するライターのような物体。銃は艦から転送されてきたもの。
パワーセレクターをフルパワーに、トリガーを引くと、広い室内を熱風が吹きすさび、まばゆいビームが島の王のエージェントに襲いかかった。
瞬間、白い光芒の影にすべてがかくれ、強制的に蒸発させられた空気が悲鳴をあげ、熱風がクドウたちをなぎたおした。
しかし、爆発が収まったあとには、焼けただれた残骸の中に立つブリュイの姿があった。
頭をふりながら立ち上がるクドウを、皮肉な微笑をうかべたブリュイが迎えた。
「なかなか、強力なおもちゃをもっているな、テラナー」
「そっちこそ、なんて個体バリアだ。島の王本人のはスゴイと聞いていたが、手下のにすら歯が立たないとはね」
クドウは自棄気味にこたえたが、さすがにウエザムたちは声もない。崩壊した室内を見て、立ちつくす。
「これでおまえたちもおしまいだ。すぐにデュプロ艦隊が出動してくる。だが、そのおまけにテラナーの捕虜が手にはいったとなれば、島の王も喜ぶだろうな。反逆についてはひどく御立腹になるだろうがな」
「ふん、落ち目の島の王に忠誠を尽くしたところで先は見えてるぞ」
無力な愛銃をフロアに落とすと、それでもクドウはいいかえした。
「そうかな、一時の敗北などくつがえせるだけの力をもっているからこそ、五万年もの間、アンドロメダを支配できたのだと思わないかね。もう、お喋りはおわりにしょう」
ブリュイはデスクのスイッチをいくつか操作した。
しかし、そこに鋭くクドウの声がとぶ。
「ブリュイ、そっちこそ詰めが甘いな」
「なんだと」
はっとしてクドウを見るブリュイ。
「議場では、そのスクリーンを使っていなかったよな?」
「なに?」
瞬間、顔色をかえたブリュイは銃口をクドウに向けた。が、
「チェックメイト」
クドウの言葉とともに、最前までブリュイを守っていた個体バリア内部が閃光に満たされ、島の王のエージェントの驚愕した表情を消し去った。
さすがに爆発物は持ちこめなかったが、未起動状態のマイクロ転送機なら。そして、ハイパー通信を遮るバリアはない。
マイクロ反応兵器の爆発は、ごく狭い空間の中に封じ込められたことにより、破壊力を最大に発揮した。人ひとり消し飛ばすには充分すぎるほど。
一瞬遅れて耳を聾する爆発音があたりにこだまし、ふたたび室内を爆風がかけめぐった。
ウエザムとクドウは、フロアに伏せてふたりのテフローダーをかばった。
「いったい、なにが....」
髪を払いながら起きあがったティナがつぶやく。
「やつが島の王エージェントだってことはわかってた。無事みたいだな」
カル・ガルスを助けおこしながら、クドウが近づいていった。
「どうやって?」
「あいつはいつも強力な個体バリア・ジエネレータを身につけていた。その微弱なエネルギー放射を探知した」
「それで、シガ製マイクロ転送機をつけておいて、爆弾を転送したわけだ」
後をウエザムが呻きつつひきとった。
「そんな、いつ....?」
「握手したときだ。ほかに機会はなかった」
ティナがカル・ガルスを見ると、タム評議員も信じられないとばかりに首を振った。
もし、見当違いだったらどうしたんだろう、ティナはそう思ったが。
ガルスはガルスで、この状況をどう説明すればいいのか、と考えた。
そのふたりに、前髪の一部を輻射熱で焼き、さらにあちこちに傷をつくったクドウが声をかける。
「ぐずぐずはできない、あいつはデュプロ艦隊を呼んだといった。手遅れにならないうちに手をうたないと」
クドウ以上に近距離から爆風を浴びたため、より多くの火傷を負い、その痛みに顔をしかめつつ、ウエザムがクドウに非難の言葉をおくった。
「しかし、中尉。室内でフルパワー射撃とか、爆発とか、ちよっとやりすぎでしたね」
「だが、証拠はバッチリだ。いまのやりとりは録音したからな」
「さすが。でも放射線をあびすぎだ」
いくらなんでもこれはひどい、ティナとガルスは同時にそう思った。
どうも、テラナーは危険すぎる。
と、そのとき、この爆発にもかかわらず機能をうしなわなかったデスクのインターカムから安否を問うテフローダが漏れてきた。
「閣下、何があったんですか? 御無事ですか?」
カル・ガルスがこたえた。
「ガルスだ。他に用は?」
「閣下、何事ですか」
「後で説明する。タム評議員ラワトを至急、ここに呼んでほしい。指示があるまで、ここには誰もいれないようにしろ」
「わかりました、閣下。それと、星系内にデュプロ艦が出現したとのことです」
クドウとガルスは顔をみあわせた。
「数は?」
「一隻です。千メートル級です」
「わかった」
ガルスがスイッチを切ると、ウエザムがいまいましそうにぼやいた。
「ブリュイのやつ、やけに用心がいいな」
「これで疎開のことが島の王にわかってしまう」
絶望的な表情でガルスがいった。
「なら、すぐにかかることです」
クドウが力づける。
「まだ、はっきりとわかったわけではない」
なんとしても、時間をかせがなくては....。いかに島の王といえど、予想外の反乱鎮圧に投入する兵力を集めるのに時間がかかるはずだ。二時間か、三時間か? いや、そんなにすぐにではないはずだ。
クドウはミニカムをとりだした。
「〈ぽしえっと〉、クドウだ。通信管制は解除。敵をとらえたか?」
「捕捉していますが、まだ脅威にはなっていません。探知もされていません」
「一発でしとめろ、やれるか?」
「問題ありません」
「攻撃終了後、回収してくれ」
《L.G.F.N.C》は短距離リニア飛行で、デュプロ艦の至近距離に実体化。間髪をいれず、トランスフォーム砲を発射。デュプロ艦を護る赤い半空間スクリーンは、千ギガトン爆弾の爆発のエネルギーに耐えられずに一撃で崩壊し、膨大なエネルギーの残余は球型艦をまぶしい火球に変えた。
「目標撃破」
素っ気ない通信ともに、《L.G.F.N.C》はリ=セス上空に出現。
「凄い艦だな」
カル・ガルスが呻くようにいった。
「われわれは一時艦に戻ります。ただちに疎開を開始してください」
「わかった」
かけつけたラワトに事情を説明する時になってはじめて、カル・ガルスはふたりが面倒を避けて消えたことに気づいた。
この身におこったことでなければ、到底信じられないことであった。
タム評議員の中に、島の王のスパイがいたとは!
それでも、クドウが証拠を録音していたため、ラワトはテラテーの行動を承認した。
だが、島の王への反逆は決定的となった。その手先を殺してしまったのだから。
戦いは時間との競争から始まった。
"Lonely Girl from North Counry 2nd"
(c) 1995/6/15 yuki sano with y.wakabayashi
produced by 